がんでは一般的に、手術、化学療法、放射線が3大療法とされています。
しかし、前立腺がんの場合、長く化学療法は効かないとされていました。そんななかで現在中心とされているのが2008年に承認されたドセタキセル(商品名:タキソテール)です。
ドセタキセルを使った化学療法は、ホルモン療法が効かなくなり、残っていたがんが再び増殖(再燃)したあとに行われます。
ステロイド剤を併用するのが一般的
通常は、ドセタキセルにステロイド剤を併用します。よく使われるステロイド剤はデキサメタゾン(商品名:デカドロン)またはプレドニゾロン(商品名:プレドニン)で、ドセタキセルの副作用を抑えるうえ、がんを抑える効果もあると考えられています。
そのほか、治療の現場でよく使われる抗がん剤に、エストラムスチン(商品名:エストラサイト)もあります。
これは、女性ホルモンに含まれるエストラジオールと、抗がん剤のナイトロジェンマスタードの結合剤です。女性ホルモンの作用として、脳の下垂体、そして精巣に作用して、男性ホルモンを抑える効果が期待できます。
ただし、ドセタキセルとエストラムスチンの併用は、著しい白血球の減少など副作用が強いので、慎重に使用することが望ましいとされます。
新しい抗がん剤が日本でも承認されましたが、現在も、ドセタキセルが抗がん剤治療の中心薬です。ジェネリック薬も登場していますが、抗がん剤は院外処方ではないので、患者さんが薬を選ぶことはできないのが現実です。
ドセタキセルを使う場合の量の工夫
ドセタキセルは、75mg/m2(体表面積)を3週間ごとに投与するというのが、承認された薬の使用量です。その後の研究で、薬の用量を少なくする、あるいは投与間隔を変化させることで、同じ効果を得ながら副作用を少なくできることがわかってきました。そのため、各々の医療機関により投与法が異なります。
3週間に1回の点滴を10回繰り返す
ドセタキセルは、3週間に1回、外来で点滴投与することが標準です。1回分の量は75mg/m2(体表面積)で、点滴は2~3時間で終わります。これを10回繰り返すのが通常のパターンです。
代表的な副作用は、白血球と血小板の減少(骨髄抑制)で、感染や出血しやすくなります。そのほか、発疹などのアレルギー反応、吐きけ、口内炎、下痢、味覚変化、筋肉や関節の痛み、脱毛、しびれ、むくみ、倦怠感などもあります。そのため、抗がん剤を投与する初回のみ、入院して副作用の出方を見る医療機関も少なくありません。
前立腺がんはもともと高齢者に多く、再燃前立腺がんの人は特に、病気が広がり、体力の低下や臓器機能が低下しているため、副作用が強く出やすいので、注意が必要です。
■治療がつらくなったら主治医に相談
抗がん剤の点滴を終えると、数日は体調不良になり、骨髄抑制による感染症予防のために外出なども制限しなければなりません。そして、やっと体調が落ち着くころ、次の投与となります。
そのようなサイクルを10回繰り返していくうち、心身ともに疲れ果ててしまう人も少なくありません。そのようなときは、主治医に相談しましょう。抗がん剤の量を減らしたり、投与期間の間隔をあけたり、いったん投与を休むなど、なんらかの配慮をしてくれるはずです。
抗がん剤は、だれにでも効果があらわれるわけではなく、約4割の人に効き、残りの約6割の人には効かないといわれています。効く人の延命期間は、長い人で2年以上ですが、一般的にはプラス3カ月くらいです。
化学療法では、一定期間の延命や痛みの緩和は期待できますが、前立腺がんを根治することはできません。それを前提に、患者さんはこの治療で何を目的にするかを考え、つらいときは休むなどうまくコントロールしていくことが求められます。
以上、前立腺がんの抗がん剤治療についての解説でした。