
前立腺がんの直腸診とは
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
前立腺がんの早期発見には、いくつかの検査を組み合わせて行うことが大切です。その中でも、直腸診は古くから行われている基本的な検査の一つです。
直腸診は、医師が肛門から直腸に指を挿入し、直腸の壁ごしに前立腺に触れて状態を確認する検査法です。前立腺は直腸のすぐ前にあるため、肛門から指を入れると前立腸の背面部分に触れることができます。
この検査は特別な機器を必要とせず、診察室で短時間に実施できます。医師の熟練した指先の感覚によって、前立腺の大きさや形状、硬さなどの異常を直接確認できる点が特徴です。
直腸診で何がわかるのか
直腸診では、医師が次のような項目を数秒から数十秒のうちに確認します。
前立腸の大きさと形状
正常な前立腺は、栗の実程度の大きさで弾力があります。前立腺肥大症がある場合は大きく腫れており、がんがある場合は部分的に硬いしこりとして触れることがあります。
医師は前立腺の大きさが正常範囲内か、左右の対称性は保たれているか、表面が平らか凸凹しているかなどを確認します。
硬さと弾力性
前立腺がんがある部分は、正常な組織と比べて硬く感じられます。医師は石のように硬い部分がないか、正常な弾力が保たれているかを指先で確かめます。
しこりの有無
がんが疑われる硬いしこりがあるかどうかを触診します。ただし、前立腺の前側にがんがある場合は、直腸側からでは触れることができないため、見落とされる可能性があります。
直腸診の実際の手順
診察室では、医師から「前立腺を触診しますので、ズボンと下着を下げて、ベッドに向こう向きになって寝てください」などと説明があります。
患者さんは下半身の衣服や下着を脱ぎ、診察台の上で指定された姿勢をとります。一般的な姿勢には次のようなものがあります。
| 姿勢の種類 | 特徴 |
|---|---|
| 膝肘位(しつちゅうい) | 四つん這いの姿勢。もっとも一般的で、医師が前立腺を触診しやすい姿勢です |
| 側臥位(そくがい) | 横向きに寝て両膝を曲げた姿勢。体への負担が少なく、高齢の方や体力の低下した方に適しています |
| 仰臥位(ぎょうがい) | 仰向けに寝た姿勢。他の姿勢が困難な場合に選択されます |
医師はゴム手袋をはめ、潤滑剤をつけた人さし指、もしくは中指を肛門から挿入します。この際、挿入する深さは数センチ程度で、検査時間は通常10秒から30秒程度です。
直腸診を楽に受けるためのポイント
力を入れず、リラックスすることが大切
この検査をスムーズに受けるコツは、下半身に力を入れないことです。緊張して力んでしまうと、肛門括約筋が締まってしまい、かえって痛みを感じやすくなります。
口を開けて、ハーッと息を吐くようにすると、自然と体の力が抜けて楽になります。深呼吸をしながらリラックスすることを心がけましょう。
痔がある場合は事前に伝える
痔があることがわかっている方は、検査の前に必ず医師に伝えましょう。医師は潤滑剤の量を多くしたり、指を肛門に挿入する際により慎重に対処するなど、適切な配慮をします。
痔があっても直腸診は可能ですので、遠慮せずに申し出ることが大切です。
不安や疑問は事前に相談を
初めて直腸診を受ける方は、検査に対する不安や疑問を事前に医師や看護師に相談しましょう。検査の流れや所要時間を理解しておくことで、精神的な負担を軽減できます。
直腸診が特に重要とされる理由
PSA検査では見つけにくいがんの発見
前立腺がんの診断には、PSA(前立腺特異抗原)検査が広く用いられています。しかし、前立腺がんの一部のタイプには、PSA検査で正常値を示すものがあることがわかっています。
このようなPSA検査では見つけにくいがんを発見する際に、直腸診は重要な役割を果たします。医師が直接前立腺に触れることで、硬いしこりなどの異常を確認できる可能性があるのです。
検査の組み合わせによる診断精度の向上
2026年現在の前立腺がん診療ガイドラインでも、PSA検査と直腸診の併用が推奨されています。両方の検査を組み合わせることで、前立腺がんを見つける精度が高まることが明らかになっています。
実際、自覚症状のない男性に直腸診を行った場合でも、0.1から4パーセント程度の確率でがんが見つかるという統計データがあります。
直腸診の限界と注意点
直腸診は有用な検査ですが、いくつかの限界があることも理解しておく必要があります。
客観的なデータとして記録できない
この検査は医師が直接指で触れるだけであり、数値などの客観的なデータで表すことができません。医師の経験や技術によって、検査の精度に差が出る可能性があります。
早期のがんは発見が困難
指に触れるくらい硬いがんは、TNM分類のステージでいえばT2からT4程度まで進行していることが多いです。T1cなどの初期段階のがんは、直腸診だけでは発見が困難です。
がんの体積が0.2ml以下の非常に小さいものは、触診では確認できない場合がほとんどです。
前立腺の前側のがんは見落とす可能性
直腸診では前立腺の背面側しか確認できないため、前側に発生したがんは指で触れることができず、見落とされる可能性があります。
このため、直腸診だけでなく、PSA検査や超音波検査、MRI検査など、複数の検査を組み合わせることが重要になります。
直腸診とその他の検査との関係
PSA検査との組み合わせ
PSA検査は血液検査で、前立腺特異抗原という物質の値を測定します。PSA値が高い場合、前立腺がんの可能性がありますが、前立腺肥大症や前立腺炎でも上昇することがあります。
直腸診でPSA値では判断できない異常を発見できる場合があり、両者を組み合わせることで診断の精度が向上します。
直腸診で異常が見つかった場合
PSA値にかかわらず、直腸診で「異常あり」とされた場合は、前立腺針生検(組織検査)が勧められます。針生検は、前立腺の組織を採取してがん細胞の有無を顕微鏡で確認する検査です。
これにより、がんの確定診断を行います。
超音波検査やMRI検査
経直腸的超音波検査(TRUS)は、直腸から超音波プローブを挿入して前立腺の内部を画像化する検査です。前立腺の大きさや形状、内部の構造を詳しく観察できます。
MRI検査では、前立腺全体の詳細な画像を得ることができ、がんの位置や広がりを正確に把握できます。特にマルチパラメトリックMRI(mpMRI)は、前立腺がんの診断精度を高める重要な検査として位置づけられています。
前立腺がんが見つかった後の直腸診の役割
直腸診は、がんが発見された後も重要な検査として活用されます。
がんの広がりの評価
前立腺がんが見つかったときには、そのがんが前立腺内にとどまっているか(限局性)、それとも前立腺の外まで広がっているか(局所進行性)を判定する必要があります。
直腸診では、がんが前立腺被膜を超えて周囲の組織に広がっていないかを確認します。明らかに前立腺の外まで広がっている場合は、治療法の選択に影響します。
病期分類への活用
がんが前立腺内にとどまっている場合、その病期(ステージ)を正確に分類するためにも直腸診が必要です。病期分類は治療方針を決定する上で重要な情報となります。
治療効果の評価
ホルモン療法や放射線療法などの治療を行った後、定期的な直腸診によって前立腺の状態を確認し、治療の効果を評価することもあります。
直腸診を含む前立腺がん検診の流れ
前立腺がんの検診や診断は、通常、次のような流れで進められます。
| ステップ | 検査内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 1. 一次検診 | PSA検査(血液検査) | 前立腺の異常をスクリーニング |
| 2. 二次検査 | 直腸診、再度のPSA検査 | より詳しい状態の確認 |
| 3. 画像検査 | 経直腸的超音波検査、MRI検査 | 前立腺の詳細な観察、がんの疑いがある部位の特定 |
| 4. 確定診断 | 前立腺針生検 | 組織を採取してがん細胞の有無を確認 |
| 5. 病期診断 | CT検査、骨シンチグラフィーなど | がんの広がりや転移の有無を確認 |
この流れの中で、直腸診は主に二次検査の段階で実施されますが、初診時や経過観察時にも適宜行われます。
どのような人が直腸診を受けるべきか
50歳以上の男性
前立腺がんは加齢とともに発症リスクが高まります。日本泌尿器科学会のガイドラインでは、50歳以上の男性に対して、PSA検査を含む前立腺がん検診が推奨されています。
直腸診もこの検診の一環として実施されることがあります。
家族歴がある方
父親や兄弟に前立腺がんの患者さんがいる場合、発症リスクが高まることがわかっています。このような家族歴がある方は、40歳代からの検診開始も検討されます。
排尿に関する症状がある方
頻尿、排尿困難、夜間頻尿、残尿感などの症状がある方は、前立腺肥大症や前立腺がんの可能性があります。これらの症状で受診した際に、直腸診が実施されることがあります。
PSA値が高い方
検診などでPSA値の上昇が指摘された方は、精密検査として直腸診を受けることが推奨されます。
直腸診の費用と保険適用
直腸診は保険診療の対象となる検査です。初診時の診察料を含めても、3割負担の方で数百円から1,000円程度の自己負担となることが一般的です。
自治体によっては、前立腺がん検診として直腸診を含む検査を無料または低額で提供している場合もあります。お住まいの自治体の健康推進課などに問い合わせてみるとよいでしょう。
検査を受ける際の心構え
恥ずかしさは誰もが感じること
直腸診は肛門から指を挿入する検査であるため、恥ずかしさや抵抗感を感じる方も少なくありません。しかし、医療従事者は毎日多くの患者さんに同様の検査を行っており、プロフェッショナルとして対応します。
恥ずかしさを感じることは自然なことですが、早期発見のために必要な検査であることを理解し、前向きに受けることが大切です。
痛みへの不安
多くの方は「痛いのではないか」という不安を抱えていますが、実際には痛みを感じることは少ないです。医師は十分な量の潤滑剤を使用し、丁寧に検査を行います。
リラックスして力を抜くことで、さらに痛みや不快感を軽減できます。もし強い痛みを感じた場合は、遠慮なく医師に伝えましょう。
直腸診の代替となる検査はあるか
直腸診に抵抗がある方のために、他の検査方法も開発されています。
MRI検査の活用
近年、マルチパラメトリックMRI(mpMRI)による前立腺がんの診断精度が向上しており、直腸診では発見できない前側のがんも画像で確認できます。
ただし、MRI検査は費用が高く、実施できる施設も限られています。また、すべてのがんをMRIで発見できるわけではありません。
バイオマーカー検査
PSA以外にも、前立腺がんのリスクを評価するバイオマーカーが研究されています。PHI(Prostate Health Index)やPCA3などがありますが、まだ一般的ではありません。
現時点では、直腸診は簡便で有用な検査として、引き続き重要な位置づけにあります。
まとめに代えて
直腸診は、前立腺がんの診断において古くから用いられてきた基本的な検査です。特別な機器を必要とせず、短時間で実施でき、PSA検査では見つけにくいがんの発見にも役立つという利点があります。
一方で、初期のがんや前立腺の前側にあるがんは発見が困難であり、客観的なデータとして記録できないという限界もあります。
そのため、PSA検査、超音波検査、MRI検査、針生検など、複数の検査を組み合わせて総合的に診断することが重要です。
直腸診に抵抗感を持つ方もいらっしゃると思いますが、前立腺がんの早期発見のためには必要な検査の一つです。リラックスして検査を受けることで、不快感を最小限に抑えることができます。
気になる症状がある方、50歳以上の男性、家族歴がある方は、定期的な検診を受けることをお勧めします。

