悪性リンパ腫とは
悪性リンパ腫は、身体のリンパ組織と呼ばれるところから発生する悪性腫瘍です。リンパ組織には、全身に分布するリンパ節のほかにリンパ管、胸腺、脾臓、扁桃、それから骨髄までが含まれます。がん化したリンパ球は、病気の進展とともにリンパ組織だけでなく全身の臓器へも拡がっていきます。
悪性リンパ腫は白血球の一種であるリンパ球ががん化する病気で、100種類以上の病型があります。がん細胞の形態や性質によって、大きくB細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫・NK細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫に分類されます。
悪性リンパ腫の発症率と最新統計
わが国における悪性リンパ腫の新規罹患者数は、2018年で35,782人とされています。罹患率は年々増加傾向にあり、1985年、1995年、2005年、2018年で人口10万人あたりそれぞれ5.5人、8.9人、13.3人、28.3人となっています。
悪性リンパ腫は高齢者に多く、70歳代が発症のピークです。男女比は約3:2と男性のほうが多く、高齢化に伴って年々増加傾向がみられます。日本人の場合、悪性リンパ腫全体の90%以上が非ホジキンリンパ腫であり、ホジキンリンパ腫は5〜10%にすぎません。
年 | 罹患率(10万人あたり) | 新規患者数 |
---|---|---|
1985年 | 5.5人 | - |
1995年 | 8.9人 | - |
2005年 | 13.3人 | - |
2018年 | 28.3人 | 35,782人 |
遺伝子異常による悪性リンパ腫の原因
悪性リンパ腫では多くの場合、明らかな原因はわかっていません。しかし、悪性リンパ腫細胞では、少なからず染色体(細胞の中にあって遺伝子が載っているヒモのようなもの)の異常が見つかっているので、染色体異常に伴った遺伝子の異常が発症に深く関わっていると考えられています。
遺伝子異常をきたす原因としては、加齢、慢性の炎症、放射線の曝露などが関連しているともいわれていますが、詳細なメカニズムは解明されていません。現在のところ親から子へ遺伝するという証拠はありません。
遺伝子異常の要因
- 加齢による細胞の劣化
- 慢性的な炎症反応
- 放射線による細胞損傷
- 免疫不全状態
- 化学物質への曝露
ウイルス感染と悪性リンパ腫の関連性
一方で、成人T細胞白血病・リンパ腫では、HTLV-1というウイルスが原因であることがはっきりしており、人から人へと感染することがあります。また、バーキットリンパ腫や後天性免疫不全症候群(エイズ)に合併した悪性リンパ腫などでは、EBウイルスの関与が示されています。
胃に発生するMALTリンパ腫は、ほとんどのケースでピロリ菌に感染し、慢性胃炎が起こっています。ピロリ菌を除菌すると悪性リンパ腫も小さくなる場合があります。ただし、これらに感染したすべての人ではなく、ごく一部の人に悪性リンパ腫が発症します。
悪性リンパ腫の発症に関わるウイルス・細菌
- HTLV-1ウイルス:成人T細胞白血病・リンパ腫
- EBウイルス:バーキットリンパ腫、AIDS関連リンパ腫
- ヘリコバクター・ピロリ:胃MALTリンパ腫
- HIVウイルス:AIDS関連リンパ腫
- C型肝炎ウイルス:肝臓に発生するリンパ腫
ワクチンと悪性リンパ腫患者さんの関連性
2022年以降の最新研究により、悪性リンパ腫の患者さんにおけるワクチン接種の効果について重要な知見が得られています。特に新型コロナウイルスワクチンに関する研究では、リンパ腫の患者さんの特別な状況が明らかになっています。
ワクチン接種後の抗体反応
藤田医科大学の研究によると、悪性リンパ腫の治療中もしくは治療終了後まもない患者さんにおいて、新型コロナウイルスワクチン接種後の抗体獲得が特に不良であることが確認されました。具体的には、リンパ腫治療中の患者さん51名では、2回目接種後に抗体価の上昇を認めたのは1名のみ(2.0%)でした。
抗CD20抗体治療薬を含む治療を受けた患者さんでは、投与終了後9ヶ月までは抗体獲得が困難であることが推測され、それ以上経過した患者さんにおいても、抗体獲得が困難である例が存在することがわかりました。
ワクチン接種の注意点
血液疾患患者さん、特にリンパ腫治療を実施中・実施直後の患者さんについては、以下の点に注意が必要です:
- ワクチン接種後であっても抗体が獲得されない場合があるため、接種後も油断せず感染予防対策を継続する
- 患者さんのご家族など周りの方も感染予防対策を実施し、ワクチン接種を行って患者さんへの感染リスクを減らす
- CD19陽性細胞数、CD4陽性細胞数、血清IgM値が抗体獲得の指標となる
タバコと悪性リンパ腫のリスク
国立がん研究センターの多目的コホート研究により、タバコと血液がんとの関連性が明らかになっています。特に成人T細胞白血病・リンパ腫(ATLL)について、喫煙との強い関連性が示されています。
喫煙による発症リスクの増加
HTLV-1抗体陽性者を対象とした研究では、1日に吸うタバコの本数が20本増えるごとに、ATLL発症リスクが2.03倍上昇することが明らかになりました。また、喫煙指数(パックイヤー)が40パックイヤー増えるごとに2.39倍のリスク上昇と関連していました。
タバコに含まれる約70種類の発がん性物質は、血液を通じて全身に運ばれ、DNAに傷をつけるなどしてがんの原因となります。これらの有害な物質は、リンパ球の遺伝子異常を引き起こす可能性があります。
禁煙の効果
禁煙による健康上のメリットは多岐にわたり、がんのリスク低下に加えて免疫機能の改善も期待されます。悪性リンパ腫の予防においても禁煙は重要な対策の一つといえます。
リスク要因 | 影響度 | 対象疾患 |
---|---|---|
喫煙20本/日増加 | 2.03倍 | 成人T細胞白血病・リンパ腫 |
喫煙指数40パックイヤー増加 | 2.39倍 | 成人T細胞白血病・リンパ腫 |
発がん性物質 | 約70種類 | 全身のがん |
ストレスと悪性リンパ腫の関連性
慢性的なストレスは免疫システムに影響を与え、間接的に悪性リンパ腫のリスクに関連する可能性があります。ストレス状態が続くと、交感神経が優位に働き、体はアドレナリンを放出します。これにより白血球内の顆粒球が増加し、過剰な顆粒球は老廃物となってリンパ系に負担をかけます。
ストレスが免疫に与える影響
過度のストレスがかかった状態が続くと以下のような変化が起こります:
- コルチゾールなどのストレスホルモンの増加により免疫細胞の活動が抑制される
- 慢性的なストレスが体内の炎症反応を増加させる
- 免疫力の低下により感染症にかかりやすくなる
- リンパ液の流れが滞り、老廃物の処理能力が低下する
ストレス管理の重要性
適切なストレス管理は、全体的な健康状態を改善し、免疫機能を維持するために重要です。運動、十分な睡眠、バランスの取れた食事、瞑想やヨガなどのリラクゼーション技法が推奨されます。
非ホジキンリンパ腫とホジキンリンパ腫の違い
悪性リンパ腫と診断するためには、腫れている組織(ほとんどの場合はリンパ節)の病理検査の結果が重要です。その病理検査の結果により、大きく非ホジキンリンパ腫とホジキンリンパ腫とに分けられます。
非ホジキンリンパ腫とホジキンリンパ腫とでは、治療方針も治癒率も異なります。非ホジキンリンパ腫については、さらに細かく分類されますが、タイプの違いによって治療薬の選択も異なってくるので、この分類は重要なものです。
ホジキンリンパ腫の特徴
- リード・シュテルンベルグ細胞という特徴的な細胞が認められる
- 日本人では全悪性リンパ腫の約5.9%程度
- 20歳代と50〜60歳代の2つの年代にピークがある
- 比較的治療成績が良好
非ホジキンリンパ腫の特徴
- 日本人の悪性リンパ腫の90%以上を占める
- B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、NK細胞リンパ腫に分類される
- びまん性大細胞型B細胞リンパ腫が30〜40%と最も多い
- 進行速度により低悪性度から高悪性度まで様々
免疫不全状態とリンパ腫リスク
免疫不全状態は悪性リンパ腫の重要なリスク要因です。免疫機能を司るリンパ節や脾臓などの組織で、正常な免疫監視機能が働かなくなると、異常なリンパ球の増殖を抑制できなくなります。
免疫不全を引き起こす要因
- HIV感染症による後天性免疫不全症候群
- 臓器移植後の免疫抑制療法
- 自己免疫疾患の治療による免疫抑制
- 加齢による免疫機能の低下
- 化学療法による免疫機能の抑制
環境要因と化学物質の影響
特定の化学物質への長期的な曝露も悪性リンパ腫のリスク要因として報告されています。職業的な曝露や生活環境中の化学物質が、リンパ球の遺伝子変異を引き起こす可能性があります。
リスクが指摘される化学物質
- 農薬(除草剤、殺虫剤)
- 有機溶剤
- ベンゼンなどの芳香族化合物
- 石油化学製品
- 染料や塗料に含まれる化学物質
悪性リンパ腫の症状と早期発見
悪性リンパ腫の早期発見は治療成績の向上につながります。初期症状は他の病気と重なることが多いため、以下の症状に注意することが重要です。
主な症状
- 首、脇の下、足の付け根などのリンパ節の腫れ(痛みがないことが特徴)
- 原因不明の発熱(38℃以上が数日間続く)
- 体重減少(6ヶ月で体重の10%以上の減少)
- 寝汗(暑くもないのに大量に汗をかく)
- 全身の倦怠感や疲労感
- 皮膚の発疹や腫瘤
診断と検査方法
悪性リンパ腫の確定診断には、外科切除や生検により採取された腫瘍の一部を用いた病理組織診断が必要です。血液検査だけでは確定診断はできません。
主な検査項目
- 血液検査:血球算定、生化学検査、免疫グロブリン測定
- 画像検査:CT、MRI、PET/CT
- 生検:リンパ節や病変部位からの組織採取
- 骨髄検査:造血機能と骨髄への浸潤の確認
- 免疫組織化学検査:リンパ球のタイプ分類
- 遺伝子検査:染色体異常や遺伝子変異の確認
予防可能な要因
悪性リンパ腫の明確な予防方法は今のところありませんが、リスクを低減する生活習慣は実践可能です。
リスク軽減のための対策
- 禁煙と受動喫煙の回避
- 適度な運動による免疫機能の維持
- バランスの取れた食事
- 適切なストレス管理
- 十分な睡眠
- 定期的な健康診断の受診
- 感染症の予防と早期治療
- 化学物質への不要な曝露の回避
最新の治療動向
悪性リンパ腫の治療は近年著しく進歩しています。分子標的治療薬や免疫療法の導入により、多くの患者さんで治療成績が改善されています。
新しい治療法
- 抗CD20モノクローナル抗体(リツキシマブ)
- 抗CD79b抗体薬物複合体(ポラツズマブ ベドチン)
- BTK阻害薬による分子標的療法
- CAR-T細胞療法
- 免疫チェックポイント阻害薬
- 造血幹細胞移植
悪性リンパ腫の生存期間(予後)
悪性リンパ腫の治療成績、予後はホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫とで異なり、また非ホジキンリンパ腫の中でもタイプによって変わってきます。さらに、同じタイプでも、患者さんの年齢や内臓機能を含めた身体の状態、病変部の拡がり具合などによって予後は影響されます。
早期発見と適切な治療により、多くの悪性リンパ腫で良好な予後が期待できるようになっています。定期的な健康診断を受けることや、異常を感じた際に医療機関で検査を受けることが大切です。