卵巣は表面を表層上皮の膜で包まれています。この内側にあるのが、卵巣白膜(らんそうはくまく)という結合組織で、その下の層を間質(かんしつ)といいます。
表層上皮と白膜の内側には卵巣皮質があり、成長段階ごとの卵胞(らんほう)が含まれています。原始卵胞・発育卵胞(成長中の卵胞)・成熟卵胞(排卵前の卵胞)などの卵胞や、排卵後にみられる黄体、白体などです。
卵胞のなかには、胚細胞(卵細胞)があり、その周囲を性索間質細胞が取り巻いています。性索間質細胞では、エストロゲンなどのホルモンがつくられます。なお、卵巣の中心部を卵巣髄質といい、血管や神経が集まっています。
卵巣にできる腫瘍
卵巣にできる腫瘍は、多種多様に及びます。卵巣のがんや病気を知るには、まず腫瘍の良性と悪性、およびがんと肉腫の関係を整理しておくことが重要です。
正常な細胞は分化して特定の組織や器官になり、分裂・成長を止め、細胞の役割(機能)を演じます。これに対して周囲とは関係なく自律的に新生し、分裂・増殖する細胞群と、それを支持する組織(間質)を一般的に腫瘍といいます。
簡単にいうと、細胞が異常に増えて塊になったものが腫瘍です。
卵巣の腫瘍は「嚢胞性(のうほうせい)腫瘍」と「充実性腫瘍」に分けられます。嚢胞は上皮が間質に落ち込み、袋状になったもので、中身がさらっとした液体が溜まった「漿液性(しょうえきせい)嚢胞」、ねばねばした液体が入っている「粘液性嚢腫」、脂肪や毛髪、骨成分が入った「皮様(ひよう)嚢腫」などがあります。
「嚢胞性腫瘍」はほとんどが良性の腫瘍ですが悪性のものを「嚢胞腺がん」といいます。「充実性腫瘍」は形状はさまざまです。こちらは3分の2が悪性の腫瘍です。
腫瘍はこのように良性と悪性に大別されます。良性腫瘍はゆっくり分裂・成長し、浸潤や転移を起こしません。手術での摘出は容易で、完全に摘出すれば再発せず、予後(病気の経過)は良好です。
いっぽう、悪性腫瘍は栄養がある限り分裂を繰り返し成長し、浸潤や転移を起こします。早期に摘出あるいは薬剤投与などで治療すれば、治癒の確率もありますが、再発のおそれは残ります。
また放置すれば、生命にかかわってきます。悪性腫瘍のうち、上皮に発生するものをがん(上皮性悪性腫瘍)、問質の部位に発生するものを肉腫(にくしゅ)といいます。
「境界悪性腫瘍」は良性と悪性の中間的な性格を持つ腫瘍で、悪性度が低いものや、上皮細胞は悪性の形態を持ち、多発化、重層化するものの間質浸潤は認めません。
主な卵巣がんの種類と特徴
1.漿液性(嚢胞)腺がん
漿液性嚢胞腺腫の悪性のものです。卵巣がんの40~50%を占め、患者さんの年代は40~60歳代が多くなります。卵巣がんのなかでも、最も進行が早く、リンパ節転移も多く、悪性腫瘍の代表格です。
発見されたときには、すでに腹膜や大動脈リンパ節に転移しているものも少なくありません。
2.粘液性(嚢胞)腺がん
粘液性嚢胞腺腫の悪性のものです。卵巣がんの5~10%を占めます。閉経以降の発症が多くなりますが、若年層にも見られます。卵巣がんのなかでは最も進行が遅く、3分の2は、がんが卵巣あるいは卵管に留まっている状態で発見されます。
この時期に発見し、摘出治療できれば、完治の可能性があります。
3.類内膜(るいないまく)腺がん
がん細胞の形態が、子宮の内膜細胞と似ています。卵巣がんの10%を占めます。20~40歳代に多く、60歳代でも発症があります。卵巣の子宮内膜症(チョコレート嚢胞)から引き起こされることがあります。
次の明細胞(めいさいぼう)腺がんと同様に、80年代から増加傾向にあります。女性の出産回数の減少と、ピルの未服用が関係するといわれています。進行は漿液性腺がんより遅く、ステージ1でのリンパ節転移は2%前後で、卵巣がんのなかでは予後が良好ながんです。
4.明細胞腺がん
日本人に多いことが特徴で、卵巣がんの25~30%を占めます。20~40歳代に多く、類内膜腺がんと同様に、チョコレート嚢胞から発症することがあり80年代から増加傾向にあります。
類内膜腺がんより、リンパ節転移は多くなりますが、進行は速くなく、適切に摘除できれば、予後も良好なタイプです。
その他、転移性卵巣がんがあり、胃がん、大腸がん、乳がんなどの他臓器のがんが卵巣に転移することがあります。
以上、卵巣の構造と卵巣がんの種類についての解説でした。