甲状腺の腫瘍が悪性=がんだった場合は第一選択肢は手術となります。
甲状腺の手術は、現在、切除する部分を必要最小限にとどめ、可能な限り大きく組織を残すというのが原則になっています。
甲状腺は蝶が羽を広げたような形をしていて、右葉、左葉、峡部から成り立っています。
手術法には、甲状腺の一部をとる「葉切除」、甲状腺の大半を切りとる「亜全摘(一部は残す)」、甲状腺のすべてを切除する「全摘」があります。転移の可能性がある場合は、周囲のリンパ節を脂肪組織ごと摘出する「リンパ節郭清」を行います。
このような場合も、大切な筋肉や血管、神経は残しますので、大きな機能障害は起こりません。
甲状腺全摘の場合
甲状腺を全摘した場合は、甲状腺ホルモンがつくれなくなりますので、術後は、一生、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)を服用することになります。
チラーヂンSは、これまでも述べてきたように、体でつくられているホルモンと同じ成分ですので、体に負担はありませんし、適正に飲んでいる限り副作用もありません。
なお、甲状腺ホルモン剤は、手術の前に飲んで腫瘍が大きくなることを抑えたり、術後に甲状腺ホルモン不足を補ったり、また、再発を防ぐために服用することがあります。
手術の一例
たとえば、甲状腺の右葉に親指大の乳頭がんがある患者の場合(リンパ節への転移あり)。通常は、右葉と峡部を切除し、所属するリンパ節の郭清をすれば対処としては十分だと考えられています。
このようなケースだと、手術時間は1~2時間ほどです。輸血はほとんど必要なく、手術の翌日から食事、歩行、会話ができます。退院は、術後だいたい1週間前後です。状態によって、手術後、甲状腺ホルモン剤を服用することもありますが、一般には、それ以外の抗がん剤療法や放射線療法の必要はありません。
高い生存率
甲状腺がんの手術は、術後の5年生存率も高く、乳頭がん95%、濾胞がん93%、髄様がん90%となっています(甲状腺専門病院の治療例)。つまり、未分化がんを除けば、甲状腺がんは全体の97が、いずれも5年生存率が90%を超えます。
アイソトープ療法は進行した乳頭がんと濾胞がんに対する治療
乳頭がんと濾胞(ろほう)がんは、いずれも甲状腺の濾胞細胞(甲状腺ホルモンをつくる細胞)が、がん化したものです。
そして、このがん細胞には、濾胞細胞が本来持っているヨ-ドをとり込む性質が残っていることがあるのです。
この性質を利用して、肺や骨へがんが遠隔転移している場合や、手術で取りきれていると考えられるが、進行がんであった場合には、放射性ヨ-ド(アイソトープ)療法を行います。
手術で甲状腺を残らず切除(全摘)したあとに、アイソトープのカプセルを服用すると、アイソトープは(濾胞細胞の性質が残っている)転移部分に集まり、ベータ線を発して腫瘍の内部からがん細胞を破壊します。しかもベータ線は、飛ぶ距離が短いため、周りの組織に悪い影響を与えることなく治療ができます。
アイソトープ療法は、濾胞がんの再発治療としても効果があります。ただし、転移巣がアイソトープをとり込まない場合もあります。
遠隔転移の治療には大量のアイソトープが必要となるため、治療の際には、専用の病室に数日間入ることになります。治療中の患者の尿、唾液、汗などには放射線が含まれるため、ほかへの影響を防ぐためです。
最近では、進行がんであった場合に残っているかもしれない微小な病巣やがん細胞をつぶす目的でのアイソトープ治療は、外来でもできるようになりました。
ただし、外来で行うには一定の基準(自宅や職場に小さなお子さんや妊婦さんがいない、帰宅するのに公共交通機関を利用しない、利用する場合には1時間以内など)がありますので、担当医とよく相談しましょう。外来でできない場合には入院で行うことになります。
アイソトープ治療ができる病院は患者さんの数に比して、きわめて少ないため、地域によっては治療の予約には数カ月から半年くらいかかることがあります。
放射線療法や抗がん剤治療が行われる場合
放射線療法は、頸部の外から放射線を当てて、がん細胞を消滅させる治療法です。また、抗がん剤治療は、乳頭がんや濾胞がんの進行がんで、ほかに治療法がない場合に使われることもありますが、ほとんどは未分化がんの治療に使われます。
甲状腺の抗がん剤には、シスプラチン、アドリアマイシン、VP-16といった薬剤があり、数種類が併用されます。
放射線照射や抗がん剤は、未分化がんのように進行が早く、手術をしてもがん細胞をとり切るのがむずかしい場合、甲状腺全摘手術のあとに残っているがんを大きくしないために、手術と併用して使われます。
未分化がんは、手術を受けても半数の患者さんが半年以内に、さらに1年を経過すると、90%以上の患者さんが死亡する、治療の困難な甲状腺がんです。ただし、長期間生存している患者さんもいます。そういう人は、手術でがんを完全に摘出することができ、なおかつ、抗がん剤と放射線療法を行ったケースが多いようです。
また、悪性リンパ腫も進行していると根治はむずかしい病気ですが、早期に発見すれば、未分化がんよりも治療効果を発揮しやすいといえます。
悪性リンパ腫の場合は、手術ではなく、抗がん剤療法と放射線照射療法を組み合わせる治療が最も適しています。
以上、甲状腺がんの治療法についての解説でした。