甲状腺に異変が起きて、首に腫れ(腺腫)があらわれるケースは、大きく2つに分けられます。
1つは、甲状腺がその形のまま全体に大きく腫れる「びまん性甲状腺腫」です。これは、バセドウ病や橋本病の場合に見られるものです。
もう1つは、しこりができて甲状腺の一部が腫れるもので「結節性甲状腺腫」といいます。結節性の「結節」とは「しこり」という意味です。
結節性甲状腺腫には、良性の「良性腫瘍(腺腫)」「腺腫様甲状腺腫(腺腫様結節)」「嚢胞」と、悪性の「甲状腺がん、悪性リンパ腫」の4種類があります。
良性腫瘍は、腺腫ともいいます。正常な甲状腺の中に1つだけしこりができるものです。腺腫とは、薄い膜に包まれた肉のかたまりのようなものです。
腺腫様甲状腺腫は、甲状腺全体に増殖性の変化があり、いくつかのしこりができるものです。しこりが1つだけのものは腺腫様結節と呼ばれます。
病理学的にこの2つの違いをみると、良性腫瘍(腺腫)は「腫瘍」ですが、腺腫様甲状腺腫は「過形成」というふうに区別されます。
また、嚢胞はしこりを包む袋の中に液体(細胞液)が溜まるものです。しこりは水を入れたゴムまりのように見えます。大きくなった嚢胞を首の外からさ触ってみると、ピンポン玉のように感じます。
悪性甲状腺腫の大部分は「がん」です。がんにはいくつかの種類がありますが、80~90%は乳頭がんと呼ばれる、がんとは思えないほど性質のおとなしい腫瘍で、10年以上も大きさが変わらないものもあります。
しかし、中にはしだいに大きくなり、気管を圧迫して呼吸が苦しくなったり、肺や骨に転移(遠隔転移)する場合があります。こうなると、生命にもかかわるようになります。したがって、結節性甲状腺腫は、そのしこりが良性のものか悪性のものかを調べることが非常に重要だといえます。
腫瘍の原因の特定は困難
結節性甲状腺腫がなぜ、どのようにしてできるのかについては、現在のところ不明です。頸部のリンパ腫をX線照射で治療した人の中に、10年あるいは20年というような長い期間を経たあと、甲状腺の腫瘍が発生する場合があります。
ただし現在では、X線照射の治療をすることはなくなっています。しかし、乳幼児の時期に、頸部や胸部のX線写真を何回か撮った場合でも、腫瘍の発生に結びつくことがあるといわれています。
甲状腺の腫瘍ができる因子として、遺伝がかかわるかどうかも、はっきりとわかってはいません。ただし、バセドウ病や橋本病など、他の甲状腺の病気が多い家系では甲状腺腫瘍の発生も多く見られますので、なんらかの遺伝的な影響も考えられます。
また、加齢による細胞の変化も考えられます。一部のしこりは、甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって大きくなると考えられています。
以上、甲状腺にできる腫瘍についての解説でした。
がんと診断されたあと、どのような治療を選び、日常生活でどんなケアをしていくのかで、その後の人生は大きく変わります。
納得できる判断をするためには正しい知識が必要です。