乳がんの5~10%は遺伝性であると言われており、これまでに乳がんに関連する主な遺伝子としてBRCA1、BRCA2の2種類が見つかっています。
この2つの遺伝子に変異があると、将来、乳がんと卵巣がんにかかるリスクが高く、「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群/HBOC」と呼ばれています。
HBOCは簡単な血液検査で調べることができますが、検査を受けるかどうかを決めるのは患者自身です。親子、姉妹の情報にも触れるのでプライバシーの問題もあります。医師やカウンセラーに相談し、きちんとカウンセリングを受けることが必要です。
なお検査は自費診療で、およそ30万円前後です。
40歳未満で乳がんになった、家族の中で乳がんや卵巣がんを発症した人が複数いるなどの場合にHBOCが疑われます。HBOCに関わる医療関係者の研究団体「日本HBOCコンソーシアム」では、ホームページ上に簡単にチェックできる問診票を用意しています。
現在の流れでは、「40歳以下の若年性のトリプルネガティブ乳がん」の場合、家族歴がなくともカウンセリングを受けたほうが良いと考えられています。
BRCA1陽性の乳がんは、トリプルネガティブ(ホルモン療法やハーセプチンの治療が使えないタイプ)が高い割合を占めるからです。
一方、BRCA2陽性の場合、乳がんのタイプは乳がん全体と同じような割合で、6~7割がホルモン受容体陽性の乳がんです。
遺伝子検査の結果は絶対ではない
もちろん、検査で常に確実な答えが得られるわけでも、陽性だった人が全員、乳がんや卵巣がんを発症するわけでもありません。
しかし、新たな乳がん、卵巣がんを早期発見するため、定期的に検査を受けることが重要です。(定期検診で乳がん、卵巣がんの早期発見に努める)
なお、検査で陽性だった場合、治療法の選択に関して、例えば温存療法が可能なケースにおいて、残した乳房に再びがんが出てくる可能性や、温存療法で放射線治療を受けると再建が難しくなることを考慮し、全摘切除+再建術の道を選ぶという判断をする人もいます。
また薬物療法についても、HBOCの場合、プラチナ製剤と呼ばれるタイプの抗がん剤が効きやすいといったことがわかってきています。
欧米では、HBOCの患者が乳がん予防のために予防的乳房切除術+再建術を受けたり、ホルモン剤を服用したり、あるいは卵巣がん予防のために卵巣卵管摘出術を受けたりしています。日本でもハリウッド女優のアンジェリーナジョリーさんが予防的乳房切除術+再建術を受けたというニュースが注目を集め、カウンセリングや検査を受ける患者が急増して、最近は個々の病院で倫理委員会を通した上で予防的乳房切除術を行う事例がいくつか出てきていますが、保険適用にもなっておらず、普及していないのが現状です。
遺伝子情報は約5割の確率で子に受け継がれる
BRCA1、2の遺伝子の変異は親から子へ、性別に関係なく50%の確率で受け継がれます。患者が陽性でその親族が検査を受ける場合、遺伝子異常が見つかった場所だけを調べる限定的な検査になるため費用は5万円程度になります。
陽性だった場合は現状では手術や薬による予防は保険適用ではないので、やはり乳がんと卵巣がんの定期検診が勧められることになります。まずは医師やカウンセラーに相談しましょう。
遺伝子検査ができるのは大学病院やがん專門病院、地域の基幹病院などです。カウンセリング体制の整った施設は増えてきており、日本HBOCコンソーシアムのホームページ上で検査・カウンセリング実施施設を紹介しています。
以上、乳がんと遺伝子検査についての解説でした。