膀胱がんの大きな特徴に「1つだけ腫瘍ができるのではなくて、多発する」という性質があります。1つの膀胱の中に親指大、小指大の腫瘍が複数できることが少なくありません。
一般に、がん治療で行われる基本的な方法は、がんを患った臓器を取りだすことにあります。がん病巣が小さくて、その臓器に留まっていれば、その臓器を摘出すれば、がんを完全に取り去ることができます。
ただし問題は、臓器を取りだした場合の機能障害です。
胃をはじめとした消化器がんや呼吸器がんでは、がん病巣を含めた臓器の部分的摘出が可能です。しかし、膀胱がんでは、膀胱の一部を切りとる「膀胱部分切除術」は、どの診療ガイドラインも勧めていません。なぜかというと、それは、膀胱がん(尿路上皮がん)が「多発がん」だからです。
つまり膀胱がんでは、膀胱内(上皮)のどこかでがんが発生した場合、どこか別の場所でもがんの発生が始まっていることが多いのです。したがって、同時に膀胱内にがんが複数発生することも多く、これを「空間的多発」といいます。
また、1度発生した膀胱がんを、内視鏡で切除(TUR-Bt/経尿道的膀胱腫瘍切除術)しても、時間をおいて後に腫瘍が再発するリスクが高く、これを「時間的多発」といいます。
なぜこのようなことが起きやすいかというと、その原因のひとつに、がん細胞の「膀胱内散布と着床」という現象があります。
がん細胞がTUR-Btなどの機械的操作で組織からはがれ落ちると、膀胱のほかの場所に着床し、そこからがんが発育します。そしてもうひとつの原因が、膀胱の他の部位にも遅れて発がんが始まっていることです。
以上の理由で、膀胱を部分的に摘出しても根治手術になると考えられていません。何度も再発して心配な方もいると思いますが、まず、膀胱がんにはこのような特徴があるということです。
膀胱がんは「浸潤の有無」がポイントに
膀胱がんの特徴をふまえたうえで、次に理解しておきたいポイントは、膀胱がん治療の特徴は、膀胱の筋層に「浸潤しているがん(筋層浸潤がん)」か「浸潤していないがん(筋層非浸潤がん)」かによって、治療法が変わるということです。
膀胱の上皮のみに留まっているうちは比較的予後のよいがんなのですが、この根が深くなっていくと予後の見通しが悪くなります。同じ膀胱がんでも、この違いはかなり重要です。
膀胱のしくみを確認すると、膀胱は尿に接する内側から、「膀胱上皮」「上皮下層」「筋層」という三層の組織でできています。
筋層を外から被っているのが膀胱外膜です。そして全体が伸びたり縮んだりして尿をためたり、排出したりしています。尿をためているときは、弛緩して容量が300ml以上になり、排尿のときには収縮して、尿を完全に排出します。
この「上皮」層のみに広がっているがんや飛び出していても筋層には進んでいないがんが「浸潤していないがん(筋層非浸潤がん)」です。つまり、まだ筋肉の層には入り込んでおらず、表面に留まっているがんです。
これが進行して、筋層の中に入り込み、さらに筋層の外に広がって他の臓器にまで及んでいるのが「筋層浸潤がん」です。
この「浸潤があるかないか」、あるとしたら、どの程度かを見極めながら、治療の方針を決めていくというのが、膀胱がん治療の基本です。
膀胱がんは再発予防が鍵
「いかに膀胱を取らないか」と努力が続けられてきたのが膀胱がん治療の歴史です。その場合、重要なのは、きれいにがんを切除することと、切除した後の再発を防ぐという2点です。
膀胱がん治療での内視鏡の技術はとても優れていますが、膀胱がんは「多発性」という特徴をもっているために、目に見えるがんを取りきれたとしても再発のリスクが高いといえます。
放っておくと、これが浸潤がんに移行してしまう危険があるため、術後に抗がん剤やBCG(結核ワクチン)を膀胱に注入する再発予防治療を手術とワンセットで行なわれるのが一般的です。再発をどう抑えていくかが膀胱がん治療の鍵になります。
膀胱温存療法
浸潤していない膀胱がんでは、できるかぎり膀胱を取らないように努力されてきたのですが、いったん筋層に浸潤してしまったら、一般的には膀胱を全部取らなくてはいけないとされて、膀胱を残すような治療は推奨されていませんでした。
しかし、筋層にまで浸潤した、本当は膀胱全体を取らなくてはいけないような膀胱がんでも、放射線や化学療法など、いろいろな方法を使ってなるべく膀胱を残そうという動きが最近は進んでいます。
具体的には3~4cm以下の筋層浸潤がんの場合は、うまくすれば膀胱の機能を残したまま治療法の選択肢はある、という状況になっています。
以上、膀胱がんの特徴と再発についての解説でした。