直腸がんの手術では、これまでさまざまな問題が起きていました。直腸は肛門からわずか15センチ程度の腸管ですが、その周囲には重要な自律神経が集まっているのです。排尿機能や、男性では性機能などです。
手術によってこれらの自律神経をキズつけてしまうと多くの機能障害が起きてしまうことになります。
今日では自律神経温存術が徹底して行われていますので、以前よりも重要な機能を残せるようになっていますが、最も大きな心配事は「肛門を残すことができるかどうか」です。
15~20年前(1990年代ころ)はがんが肛門から5、6センチは離れていないと人工肛門になっていました。しかし現在では2、3センチ離れていると人工肛門は避けられるケースが多くなっています。
手術直後の患部の安静を図るために一時的に人工肛門を作るケースがありますが、この場合は通常3~4か月くらいの期間を置いて人工肛門から元の自然肛門に戻します。
ですので、人工肛門にするといっても、一時的なものと永久的なものがあるということです。この点についてはしっかりと理解する必要があります。
また、「とにかく永久人工肛門を避けるのが正解」かというと、そうでない場合もあります。一例として、一時的に人工肛門にして3、4か月後に自然肛門に戻した場合、完全に元通りの排便状態に戻らない場合があります。
人工肛門を自然肛門に戻した後には、手術前の便の状態とは違ってしまっています。便を溜めておく直腸が狭くなってしまっているので一度トイレに行ってもまた行きたくなるのです。あるいは、お酒など飲んだ後に下痢になり、眠っている間にもらしてしまう可能性もあります。
元気な方の場合は生活に不便が生じることをがまんできるかもしれませんが、高齢であったり、寝たきりの時間が長いような方の場合は永久人工肛門の選択の方が対応がしやすいということもあります。
介護する側からすると、その方が良いという考え方も実際にあるのです。人工肛門は左下腹部に腸管を出して皮膚と縫い合わせ、肛門の代わりに排泄口(ストーマ)とするものです。そこに排泄物を受ける袋を取りつけ、外に臭いがもれることもないので、寝たきりの方あれば肛門からの排便よりも対処しやすいのです。
人工肛門はとてもネガティブなイメージがありますが、自分の場合はどんなメリット・デメリットがあるのかをきちんと確認したうえで冷静に判断することが重要です。