抗がん剤の副作用のなかで、予防や治療が難しいのがしびれなどの神経症状です。疼痛治療薬や抗痙攣薬などで症状を軽くしたり、抗がん剤の量を減らしたりするなどして、対応していくことになります。
抗がん剤が神経細胞にも影響 多いのは末梢神経の症状
抗がん剤には、中枢神経や末梢神経、自律神経など、さまざまな神経細胞にも影響を及ぼす「神経毒性」があります。抗がん剤の種類によってダメージを受ける神経が異なり、症状は感覚障害や味覚障害、難聴、耳鳴り、知覚障害、顔面神経マヒ、嚥下障害、視力低下など多彩です。
このなかでもとくに多いのは、手足の感覚障害(しびれやマヒなど)や味覚障害などの末梢神経障害です。
末梢神経の痛みに対してより有効な治療が登場
末梢神経障害では、手足の感覚障害やそれにともなう運動障害などが起こるのが特徴です。刺激がないのにしびれやジンジンした感覚が出たり、刺激によってヒリヒリ、チクチクする感覚が出たりします。自覚症状であることから、患者さんはさまざまな訴え方をします。
症状は抗がん剤を使った直後から数週間にわたって見られます。さらに、末梢神経に対する薬の毒性は体に蓄積していくため、治療回数が増えると症状は悪化していくことも分かっています。
治療を中止したあとも数カ月~数年にわたって症状が続くこともありますので、しびれについては絶対に我慢せず、気になる症状があったらすぐ担当医に相談しましょう。
末梢神経障害の発現頻度が高い抗がん剤は、タキサン系(パクリタキセル、ドセタキセル)、ビンカアルカロイド系(ビンクリスチン)、プラチナ製剤のオキサリプラチンなどです。このうちビンクリスチンとオキサリプラチンは、症状の程度によって投与量が制限されることもあります。
タキサン系の抗がん剤は手袋・靴下型のしびれが手足に生じやすく、口のまわりに灼熱感が出ることもあります。ビンクリスチンは手の指先のしびれ感が特徴です。オキサリプラチンは、手袋・靴下型のしびれや、口のまわりのしびれ・痛みが見られ、喉の圧迫感や息苦しさをともなうことがあります。
こうした末梢神経障害に対しては、いまのところ有効な予防法がないため、症状を抑える対症療法が中心となります。現在、用いられている薬は、抗痙攣薬や抗うつ薬、ビタミンB製剤、ビタミンE製剤、漢方薬などです。
最近は、新しい慢性疼痛治療薬のプレガバリン(リリカ)が末梢神経障害による痛みに対しても有効であることが分かり、使われるようになりました。痛みに対して通常用いる非ステロイド性消炎鎮痛薬は、末梢神経障害に対しては効きません。
対症療法を行っても改善しない場合は、抗がん剤の減量や中止などを検討します。日常生活では感覚が鈍くなっているので、転倒やケガ、やけどなどに注意しましょう。
味に敏感・鈍感になることも 治療はセルフケアが中心
味覚障害は舌にある味を感じる味蕾という細胞や味覚を脳に伝える末梢神経がダメージを受けることで起こります。治療中は亜鉛不足になりやすいのも、一因です。
味覚障害を引き起こす抗がん剤は多く、治療を受けた人の30~80%で味覚が変化したという報告があります。
味覚障害というと味に鈍感になるというイメージがありますが、逆に過敏になることもあります。一般的には治療中は敏感に、治療後は鈍感になるようです。とくに塩味に鈍感になる人が多いのですが、それは塩味、酸味、甘味、苦味の順に感じにくくなるからです。塩味を苦味や金属味と感じることもあります。
味覚障害は、吐き気・おう吐、口内炎などほかの副作用と組み合わさることで食欲の低下を招き、栄養状態を悪化させるおそれがあります。
味覚障害を治す薬はないので、おいしく食事をとるための工夫をすることが、対策の中心となります。亜鉛不足を解消するために、亜鉛が含まれている食品をとるようにしましょう。
また、唾液が減ることも味覚障害の原因の1つとされています。治療中はなるべく水分をとるようにします。口の乾燥が強いときは、口の中を潤す人工唾液(サリベート)などを補助的に使うこともあります。
末梢神経障害に使う主な薬
・慢性疼痛治療薬
プレガバリン(製品名リリカ)
・抗痙攣薬
ガバペンチン(製品名ガバペン)、カルバマゼピン(製品名テグレトール)、バルプロ(製品名デパケン)
・抗うつ薬
アミトリプチリン(製品名トリプタノール)、アモキサピン(製品名アモキサン)
・抗不整脈薬
リドカイン(製品名キシロカイン)、メキシレチン(製品名メキシチール)
・NMDA受容体拮抗薬
ケタミン(製品名ケタラール)
・抗不安薬
ジアゼパム(製品名セルシン、ホリゾン)
・ステロイド薬
デキサメタゾン(製品名デカドロン)
以上、抗がん剤の副作用についての解説でした。