
精巣がんの検査と診断の流れ
精巣がんが疑われる場合、正確な診断を行うために複数の検査を組み合わせて実施します。診断の流れを理解しておくことで、検査結果をどう受け止めるべきか、次にどのような準備が必要かを考えやすくなります。
初期の検査方法
精巣がんの診断では、まず触診や超音波検査から始まります。精巣に硬いしこりや腫れがある場合、超音波検査によって腫瘍の有無や位置、大きさを確認できます。超音波検査は痛みを伴わず、精巣内部の状態を詳しく観察できる有効な検査です。
血液検査では腫瘍マーカーと呼ばれる物質を測定します。精巣がんでは、AFP(アルファフェトプロテイン)、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)、LDH(乳酸脱水素酵素)などの腫瘍マーカーが上昇することがあります。これらの数値は、がんの種類を判定する手がかりとなり、治療効果を判定する際にも重要な指標となります。
確定診断のための検査
精巣がんの確定診断は、摘出した精巣の病理検査によって行われます。他の多くのがんでは生検(組織の一部を採取する検査)を行いますが、精巣がんでは生検によってがん細胞が散らばるリスクがあるため、基本的には精巣全体を摘出してから詳しく調べます。
病理検査では、がんの組織型を特定します。精巣がんは大きく「セミノーマ」と「非セミノーマ」に分類され、この分類によって治療方針が大きく変わります。
セミノーマと非セミノーマの違いと判定の重要性
精巣がんの治療方針を決定する上で、セミノーマか非セミノーマかを正確に判定することが最も重要なポイントです。この2つのタイプは、治療への反応性や治療の選択肢が異なるためです。
セミノーマの特徴
セミノーマは精巣がん全体の約40~50%を占め、比較的ゆっくりと進行する傾向があります。このタイプの大きな特徴は、化学療法だけでなく放射線治療にも良好に反応することです。腫瘍マーカーではhCGが軽度上昇することがありますが、AFPは上昇しません。
セミノーマは30代から40代に多く見られ、治療成績も良好です。早期に発見された場合、治癒率は極めて高くなります。
非セミノーマの特徴
非セミノーマは複数の組織型を含み、胎児性がん、卵黄嚢腫瘍、絨毛がん、奇形腫などがあります。これらは混在していることも多く、セミノーマよりも進行が速い傾向があります。
非セミノーマの重要な特徴は、放射線治療が有効ではないという点です。そのため、治療の選択肢は手術と化学療法が中心となります。腫瘍マーカーではAFPやhCGが高値を示すことが多く、これが診断や経過観察の指標となります。
精巣がんのステージ分類
ステージ分類は、がんの広がりを評価し、適切な治療法を選択するための基準となります。精巣がんでは転移の有無と転移の範囲によってステージが決定されます。
ステージの区分
| ステージ | がんの状態 | 転移の範囲 |
|---|---|---|
| ステージI | 精巣内に限局 | 転移なし |
| ステージII | 後腹膜リンパ節に転移 | リンパ節転移のみ(大きさによりA、B、Cに細分) |
| ステージIII | 遠隔転移あり | 肺、肝臓、脳などへの転移 |
転移の確認方法
転移の有無を調べるために、CT検査やMRI検査が実施されます。精巣がんは後腹膜のリンパ節に転移しやすいため、腹部から骨盤にかけてのCT検査が重要です。また、肺への転移を確認するために胸部CT検査も行われます。
転移の広がりを正確に把握することで、必要な治療の強度や期間を判断できるようになります。
リスク分類による治療方針の決定
精巣がんでは、ステージに加えてリスク分類が治療方針の決定に用いられます。リスク分類は主に転移がある場合(ステージII以降)に適用され、予後を予測する上で重要な指標となります。
IGCCCG(国際胚細胞腫瘍共同研究グループ)分類
転移性精巣がんでは、腫瘍マーカーの値、組織型、転移部位などからリスクを3段階に分類します。
| リスク分類 | 5年生存率 | 該当する条件の例 |
|---|---|---|
| 良好リスク | 約90% | セミノーマで非肺臓器転移なし、腫瘍マーカー軽度上昇 |
| 中間リスク | 約80% | セミノーマで非肺臓器転移あり、または非セミノーマで中等度の腫瘍マーカー上昇 |
| 不良リスク | 約50~70% | 非セミノーマで原発巣が縦隔、脳転移あり、または腫瘍マーカー著明高値 |
このリスク分類によって、化学療法の強度やサイクル数が調整されます。リスクが高いほど、より強力な治療が必要となりますが、同時に副作用への対策も慎重に行われます。
標準的な治療方法の選択
精巣がんの治療は、組織型、ステージ、リスク分類を総合的に判断して決定されます。治療の基本となる選択肢を理解しておくことで、医師との話し合いをより具体的に進めることができます。
高位精巣摘除術の実施
精巣がんが発見された場合、まず精巣を摘出する手術(高位精巣摘除術)を行います。この手術は診断と治療を兼ねており、ほぼすべての精巣がん患者さんに実施されます。
手術では、陰嚢からではなく鼠径部(足の付け根)を切開します。これは、陰嚢からの切開では、がん細胞が散らばるリスクが高くなるためです。鼠径部から精巣へ通じる血管を先にしばることで、手術中にがん細胞が血流に乗って転移することを防ぎます。
摘出された精巣は病理検査に回され、詳しい組織型やがんの進行度が判定されます。この結果が、その後の治療方針を決める重要な情報となります。
ステージIの治療選択
転移が確認されないステージIの場合、精巣摘出後の治療方針は組織型によって異なります。
セミノーマのステージIでは、次の3つの選択肢があります。一つ目は経過観察です。定期的なCT検査と腫瘍マーカー測定を行い、再発がないか監視します。二つ目は予防的化学療法で、カルボプラチンを1~2コース投与します。三つ目は予防的放射線治療で、後腹膜リンパ節に対して照射を行います。
非セミノーマのステージIでは、経過観察または予防的化学療法(BEP療法1~2コース)が選択肢となります。非セミノーマでは放射線治療は選択肢に含まれません。
どの選択肢を選ぶかは、再発リスク、患者さんの希望、ライフスタイル、通院の可能性などを考慮して決定します。経過観察を選んだ場合、初めの2年間は頻繁な検査が必要となりますが、治療による副作用を避けることができます。
ステージII以降の治療方針
転移が確認された場合、化学療法が治療の中心となります。精巣がんは化学療法への反応が良好で、特にシスプラチンという白金製剤を含む治療法が高い効果を示します。
標準的な化学療法はBEP療法と呼ばれ、ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチンの3剤を組み合わせます。リスク分類に応じて、3~4サイクル実施されます。
化学療法によって腫瘍マーカーが正常化し、画像検査で腫瘍が縮小または消失した場合でも、残存病変がある場合には追加の手術が検討されます。特に非セミノーマでは、化学療法後に残った腫瘤を摘出することで、より確実な治癒を目指します。
治療効果と予後の見通し
精巣がんは、がん全体の中でも治療成績が良好ながんの一つです。適切な治療を受けることで、多くの患者さんが治癒を期待できます。
ステージ別の治療成績
ステージIの精巣がんでは、精巣摘出術のみ、または追加治療を含めた5年生存率は95%以上です。転移がまったくない状態で発見されれば、ほとんどの場合で根治が可能です。
ステージIIやステージIIIであっても、化学療法の効果は高く、リスク分類が良好または中間であれば80~90%の患者さんで長期生存が得られます。化学療法によって、目に見える腫瘍が完全に消失する完全奏効率は約80%とされています。
リスク分類が不良な場合でも、50~70%の患者さんで治癒が期待できます。他の進行がんと比較すると、精巣がんの治療成功率は際立って高いといえます。
再発した場合の対応
初回治療後に再発した場合でも、救援化学療法(サルベージ療法)によって再び寛解を目指すことができます。使用される薬剤は初回治療とは異なる組み合わせとなり、より強力な治療が行われることもあります。
再発例でも約50%の患者さんで長期生存が得られており、諦めずに治療を継続することが重要です。
治療選択で考慮すべきポイント
精巣がんの治療を選択する際には、医学的な効果だけでなく、生活の質や将来の希望も含めて総合的に判断する必要があります。
生殖機能への影響
精巣を片側摘出しても、もう片方の精巣が正常に機能していれば生殖能力は保たれます。しかし、化学療法や放射線治療は精子形成に影響を与える可能性があります。
将来子どもを希望する場合、治療開始前に精子の凍結保存を検討することが推奨されます。多くの医療機関では、精巣がんの治療前に精子保存の選択肢について説明が行われます。費用や保存期間については、各施設に確認が必要です。
治療による副作用と対策
化学療法の主な副作用には、吐き気、脱毛、白血球減少、腎機能障害、聴力低下などがあります。これらの副作用は治療終了後に多くは回復しますが、一部は長期的な影響が残ることもあります。
現在では、副作用を軽減する支持療法が進歩しており、吐き気に対する制吐剤や、感染症予防のための抗菌薬などが適切に使用されます。副作用が強く出た場合には、薬剤の減量や治療スケジュールの調整も検討されます。
経過観察を選択した場合の注意点
ステージIで経過観察を選択した場合、定期的な検査を確実に受けることが極めて重要です。再発の多くは治療後2年以内に起こるため、この期間は特に頻繁な検査が必要となります。
検査のスケジュールは通常、最初の1年間は月に1回程度、2年目は2~3か月に1回、その後は徐々に間隔を延ばしていきます。遠方に住んでいる場合や、仕事の都合で頻繁な通院が難しい場合には、予防的治療を選択する方が現実的なこともあります。
治療方針を決定する際の話し合い
精巣がんの治療では複数の選択肢がある場合が多く、医師との十分な話し合いが重要です。医師から提示された治療方針について、わからない点は遠慮なく質問し、納得した上で治療を開始することが大切です。
確認しておきたい主なポイントとしては、自分のがんの組織型とステージ、リスク分類、推奨される治療法とその理由、他にどのような選択肢があるか、それぞれの治療の成功率と副作用、生殖機能への影響と精子保存の可能性、治療にかかる期間と通院頻度、治療後の経過観察の計画などが挙げられます。
セカンドオピニオンを求めることも一つの選択肢です。精巣がんは比較的まれながんであるため、専門的な知識を持つ医師の意見を聞くことで、より適切な判断ができる場合があります。
精巣がんは治療成績が良好ながんですが、それは適切な診断と治療が行われた場合です。自分の状態を正しく理解し最適な治療を選択することが、良好な結果につながります。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「精巣腫瘍」https://ganjoho.jp/public/cancer/testis/index.html
- 日本泌尿器科学会「精巣腫瘍診療ガイドライン」https://www.urol.or.jp/
- 日本臨床腫瘍学会「精巣がん(精巣腫瘍)」https://www.jsmo.or.jp/
- 日本癌治療学会「がん診療ガイドライン」https://www.jsco-cpg.jp/
- 厚生労働省「がん対策情報」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/gan/index.html
- 日本癌学会「精巣腫瘍の診断と治療」https://www.jca.gr.jp/
- American Cancer Society "Testicular Cancer" https://www.cancer.org/cancer/testicular-cancer.html
- National Cancer Institute "Testicular Cancer Treatment" https://www.cancer.gov/types/testicular
- European Association of Urology "Testicular Cancer Guidelines" https://uroweb.org/guidelines
- Cancer Research UK "Testicular cancer" https://www.cancerresearchuk.org/about-cancer/testicular-cancer

