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膵臓がんにおける化学療法の位置づけ
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
手術による切除が困難な進行膵臓がん、または再発した膵臓がんに対しては、化学療法(抗がん剤治療)が中心的な治療法となります。
膵臓がんは早期発見が難しく、診断時にはすでに進行している場合が多い疾患です。そのため、薬物療法によってがんの進行を抑え、可能であれば腫瘍の縮小を目指すという治療戦略が重要になります。
従来、膵臓がんの薬物療法では選択肢が限られており、ジェムザール(ゲムシタビン)やTS-1などが長く使用されてきました。しかし2010年代に入り、より効果的な治療法が登場しました。その代表的なものがFOLFIRINOX(フォルフィリノックス)療法です。
FOLFIRINOX療法とはどんな薬か
FOLFIRINOX療法は、4種類の抗がん剤を組み合わせて投与する多剤併用化学療法です。
使用される薬剤は以下の4つです。
| 薬剤名(一般名) | 薬剤名(商品名) | 薬剤の種類 | 主な作用 |
|---|---|---|---|
| フルオロウラシル | 5-FU | 代謝拮抗剤 | DNA合成を阻害 |
| レボホリナート | ロイコボリン | 葉酸製剤 | 5-FUの効果を増強 |
| イリノテカン | カンプト、トポテシン | トポイソメラーゼI阻害剤 | DNA複製を阻害 |
| オキサリプラチン | エルプラット | 白金製剤 | DNAを損傷させる |
これら4つの薬剤を組み合わせることで、それぞれ異なる作用機序からがん細胞を攻撃します。
FOLFIRINOX療法の特徴
この治療法の最大の特徴は、従来の標準治療であったジェムザール単独療法と比較して、腫瘍抑制効果が高いことです。
2011年に発表されたフランスでの臨床試験(PRODIGE4/ACCORD11試験)では、切除不能な進行膵臓がん患者さんに対して、FOLFIRINOX療法はジェムザール単独療法と比較して、全生存期間の中央値が6.8ヶ月から11.1ヶ月に延長することが示されました。
また、無増悪生存期間(がんが進行しない期間)も3.3ヶ月から6.4ヶ月へと改善しました。奏効率(腫瘍が縮小した患者さんの割合)は、ジェムザール群の9.4%に対し、FOLFIRINOX群では31.6%と約3倍の数値を示しました。
この結果により、FOLFIRINOX療法は全身状態が良好な進行膵臓がん患者さんに対する有効な治療選択肢として、日本を含む世界各国で使用されるようになりました。
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対象となる患者さんの条件
FOLFIRINOX療法は強力な治療法である一方、副作用も強いため、すべての膵臓がん患者さんに適用できるわけではありません。
年齢と全身状態
基本的には75歳未満で、全身状態が良好な患者さんが対象となります。全身状態の評価にはパフォーマンスステータス(PS)という指標が用いられ、PS 0~1(日常生活が問題なく送れる、または軽度の症状がある程度)の患者さんが適応となります。
進行がんの治療とはいえ、体力や臓器機能が保たれている必要があるということです。
臓器機能の条件
以下のような臓器機能が保たれていることが条件となります。
| 検査項目 | 基準値 |
|---|---|
| 白血球数 | 3,000/mm³以上 |
| 好中球数 | 1,500/mm³以上 |
| 血小板数 | 100,000/mm³以上 |
| ビリルビン値 | 1.5mg/dL以下 |
| AST/ALT | 基準値上限の2.5倍以下 |
| クレアチニン | 1.5mg/dL以下 |
黄疸が強い場合、肝機能や腎機能が低下している場合は対象外となることがあります。また、間質性肺炎の既往がある患者さんや、肺機能が低下している患者さんも慎重な判断が必要です。
UGT1A1遺伝子多型の検査
イリノテカンは、UGT1A1という酵素によって代謝されます。この酵素の活性が生まれつき低い体質の人(UGT1A1遺伝子多型がある人)では、イリノテカンの副作用が強く出る可能性があります。
そのため、治療開始前にUGT1A1遺伝子検査を行い、遺伝子多型が確認された場合は、イリノテカンの減量や他の治療法への変更が検討されます。
中心静脈ポートの留置
FOLFIRINOX療法では、46時間にわたる持続点滴を行うため、中心静脈ポートの留置が必要です。
中心静脈ポートとは、鎖骨下や上腕の静脈にカテーテルを挿入し、皮下に埋め込んだポート(薬剤注入口)から抗がん剤を投与する装置です。通常の末梢静脈からの点滴と比べて、血管への負担が少なく、長時間の投与にも適しています。
ポート留置には小手術が必要で、局所麻酔下で30分~1時間程度かかります。患者さんによっては、体内に器具を埋め込むことに抵抗を感じる方もいます。
投与方法と投与スケジュール
標準的な投与方法
FOLFIRINOX療法の標準的な投与スケジュールは、2週間を1サイクルとして繰り返します。
| 薬剤名 | 投与量 | 投与方法 | 投与日 |
|---|---|---|---|
| オキサリプラチン | 85mg/m² | 2時間で点滴静注 | 1日目 |
| レボホリナート | 400mg/m² | 2時間で点滴静注 | 1日目 |
| イリノテカン | 180mg/m² | 90分で点滴静注 | 1日目 |
| フルオロウラシル | 400mg/m² | 急速静注 | 1日目 |
| フルオロウラシル | 2,400mg/m² | 46時間持続点滴 | 1~3日目 |
投与開始から3日目までで薬剤投与を完了し、その後4日目から14日目までは休薬期間として体力の回復を図ります。そして15日目から再度同じサイクルを開始します。
modified FOLFIRINOX(mFOLFIRINOX)療法
標準的なFOLFIRINOX療法は効果が高い反面、副作用も強いため、日本を含む多くの国では、薬剤の投与量を減量したmodified FOLFIRINOX(mFOLFIRINOX)療法が広く用いられています。
mFOLFIRINOX療法では、イリノテカンを150mg/m²に減量し、フルオロウラシルの急速静注を省略します。これにより、副作用を軽減しながら、ある程度の治療効果を維持することができます。
治療開始時の入院
FOLFIRINOX療法の初回投与時は、予期しない副作用に迅速に対応するため、多くの医療機関で入院して治療が行われます。
入院期間は通常3~4日程度で、薬剤投与とその後の経過観察が行われます。2サイクル目以降は、副作用の状況や患者さんの全身状態によって、外来での治療が可能になる場合もあります。
治療期間と継続基準
治療は、効果が認められる限り継続されます。通常、2~3サイクルごとにCT検査などで治療効果を評価し、腫瘍が進行していないか、副作用が許容範囲内かを確認します。
腫瘍が明らかに増大している場合や、重篤な副作用が出現した場合は、治療の変更や中止が検討されます。
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FOLFIRINOX療法の効果と奏効率
臨床試験での効果
前述のPRODIGE4/ACCORD11試験において、FOLFIRINOX療法の有効性が明確に示されました。
全生存期間の中央値は11.1ヶ月で、ジェムザール単独療法の6.8ヶ月と比較して約4ヶ月の延長が認められました。1年生存率は48.4%(ジェムザール群は20.6%)、2年生存率は16.3%(同7.2%)でした。
奏効率(腫瘍が30%以上縮小した患者さんの割合)は31.6%で、ジェムザール群の9.4%と比較して顕著に高い結果でした。
日本での使用経験
日本でも2013年以降、FOLFIRINOX療法が保険承認され、多くの施設で使用されています。日本人患者さんを対象とした複数の臨床研究でも、欧米と同様の治療効果が確認されています。
ただし、日本人は欧米人と比較して体格が小さく、副作用が出やすい傾向があるため、mFOLFIRINOX療法が標準的に用いられることが多くなっています。
副作用とその対策
FOLFIRINOX療法では、4種類の抗がん剤を同時に使用するため、様々な副作用が出現する可能性があります。
主な副作用
| 副作用 | 頻度(グレード3以上) | 原因となる主な薬剤 |
|---|---|---|
| 好中球減少 | 約45% | すべての薬剤 |
| 下痢 | 約12% | イリノテカン、5-FU |
| 悪心・嘔吐 | 約14% | オキサリプラチン |
| 疲労・倦怠感 | 約23% | すべての薬剤 |
| 末梢神経障害 | 約9% | オキサリプラチン |
| 口内炎 | 約5% | 5-FU |
※グレード3以上:日常生活に支障をきたす程度以上の副作用
骨髄抑制への対応
好中球減少は最も頻度の高い副作用の一つです。好中球は細菌感染から体を守る白血球の一種で、これが減少すると感染症にかかりやすくなります。
発熱を伴う好中球減少(発熱性好中球減少症)は緊急事態であり、速やかな抗生物質投与が必要です。予防的に白血球を増やす薬(G-CSF製剤)を投与することもあります。
血小板減少が起きると出血しやすくなるため、重度の場合は血小板輸血が必要になることがあります。
下痢への対応
イリノテカンによる下痢は、投与直後に起こる早発性下痢と、投与後数日してから起こる遅発性下痢があります。
早発性下痢は、薬剤投与時の副交感神経刺激によるもので、硫酸アトロピンの投与で予防できます。
遅発性下痢は、腸管粘膜の障害によるもので、激しい下痢が続く場合は脱水や電解質異常を引き起こす可能性があります。下痢止め(ロペラミドなど)を早めに服用し、水分補給を十分に行うことが重要です。
末梢神経障害への対応
オキサリプラチンによる末梢神経障害は、手足のしびれや痛みとして現れます。冷たいものに触れると症状が悪化するため、冷たい飲み物や食べ物を避け、冬季は手袋や靴下で保温することが推奨されます。
神経障害は投与回数が増えるにつれて蓄積する傾向があり、日常生活に支障をきたす場合は、オキサリプラチンの減量や休薬が検討されます。
重篤な副作用
まれですが、重篤な副作用として以下のようなものがあります。
間質性肺炎は、咳、息切れ、発熱などの症状で気づかれることがあります。早期発見・早期治療が重要です。
胆管炎は、膵臓がんによる胆管狭窄がある患者さんに起こりやすく、高熱、腹痛、黄疸の悪化などが見られます。速やかな抗生物質投与やドレナージ(胆汁の排出処置)が必要です。
日常生活への影響
治療中の生活
FOLFIRINOX療法を受けている期間中は、副作用による体調の変化があるため、日常生活に一定の制限が生じます。
投与直後の数日間は、悪心や倦怠感が強く出ることが多く、安静が必要です。その後、徐々に体調が回復してきますが、好中球が最も減少する投与後1週間前後は、感染予防のための注意が必要です。
食事への配慮
治療中は、口内炎や味覚変化、食欲不振などにより食事が取りにくくなることがあります。
口内炎がある場合は、刺激の少ない柔らかい食事を選び、熱すぎるものや酸味の強いものは避けます。少量ずつ頻回に食べることで、必要な栄養を摂取できます。
下痢がある場合は、脂肪分の多い食事や食物繊維の多い食事を控え、消化の良いものを選びます。
感染予防
好中球減少期には、人混みを避け、手洗いうがいを励行します。生ものは避け、十分に加熱した食事を取ることが推奨されます。
発熱(通常37.5℃以上)があった場合は、速やかに医療機関に連絡し、指示を受ける必要があります。
仕事や社会活動
体調が良い時期であれば、軽い仕事や社会活動を続けることは可能ですが、無理は禁物です。患者さんの体調や副作用の程度によって、継続できる活動の範囲は異なります。
勤務先や周囲の理解を得て、柔軟に対応できる環境を整えることが望ましいです。
保険適用と費用
保険適用の状況
FOLFIRINOX療法は、切除不能な進行膵臓がんに対して保険適用となっています。
使用される4つの薬剤はすべて保険収載されており、適応条件を満たす患者さんであれば、健康保険を使用して治療を受けることができます。
治療費用の目安
FOLFIRINOX療法の1サイクル(2週間)あたりの薬剤費は、体表面積を1.6m²として計算すると、以下のようになります。
| 薬剤名 | 使用量(体表面積1.6m²) | 薬価(2025年時点) | 1サイクルあたり費用 |
|---|---|---|---|
| オキサリプラチン | 136mg | 約3,500円/50mg | 約9,500円 |
| イリノテカン | 288mg | 約4,000円/100mg | 約11,500円 |
| レボホリナート | 640mg | 約700円/100mg | 約4,500円 |
| フルオロウラシル | 4,480mg | 約200円/250mg | 約3,600円 |
| 合計 | - | - | 約29,000円 |
これに点滴手技料、検査費用、入院費などが加わります。1サイクル全体での医療費は、入院の有無や副作用への対応によって変動しますが、おおむね15万円~25万円程度となります。
自己負担額
健康保険適用により、実際の自己負担額は医療費の1~3割となります。
年齢や収入によって異なりますが、70歳未満で3割負担の場合、1サイクルあたり4万5千円~7万5千円程度の自己負担が発生します。
高額療養費制度の活用
FOLFIRINOX療法は高額な治療であるため、高額療養費制度の対象となります。
この制度を利用することで、月ごとの医療費の自己負担額に上限が設けられます。自己負担限度額は、年齢や所得に応じて異なります。
| 所得区分 | 自己負担限度額(月額) |
|---|---|
| 年収約1,160万円以上 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% |
| 年収約770万円~約1,160万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% |
| 年収約370万円~約770万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
| 年収約370万円以下 | 57,600円 |
| 住民税非課税世帯 | 35,400円 |
さらに、同一世帯で過去12ヶ月以内に高額療養費の支給を3回以上受けている場合は、4回目以降の自己負担限度額が軽減される「多数回該当」という制度もあります。
事前に「限度額適用認定証」を健康保険組合や協会けんぽに申請しておくことで、医療機関窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることができます。
中心静脈ポート留置の費用
中心静脈ポートの留置手術にも費用がかかります。埋め込み型ポートの器具代と手技料を合わせて、医療費としては約7万円~10万円程度です。3割負担の場合、自己負担は約2万円~3万円となります。
他の治療法との比較
進行膵臓がんに対する薬物療法には、FOLFIRINOX療法以外にも選択肢があります。
ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GnP)療法
ゲムシタビンとナブパクリタキセルを併用するGnP療法も、FOLFIRINOX療法と並んで進行膵臓がんの標準治療の一つです。
全生存期間の中央値は8.5ヶ月で、FOLFIRINOX療法よりやや短いものの、副作用のプロファイルが異なるため、患者さんの状態によってはこちらが選択されることがあります。
GnP療法は、FOLFIRINOX療法ほど厳格な適応条件はなく、やや全身状態が劣る患者さんでも使用できることが利点です。
ゲムシタビン単独療法
全身状態がFOLFIRINOXやGnP療法の適応とならない患者さんには、ゲムシタビン単独療法が選択されます。
効果はやや劣るものの、副作用が比較的軽く、高齢者や臓器機能が低下している患者さんでも使いやすい治療法です。
S-1単独療法
S-1は経口抗がん剤で、通院治療が可能です。ゲムシタビン単独療法と同等の効果があるとされており、特に切除不能膵臓がんに対する選択肢の一つとなっています。
在宅での治療を希望する患者さんや、頻繁な通院が困難な患者さんに適しています。
FOLFIRINOX療法を受ける際の心構え
FOLFIRINOX療法は効果的な治療法ですが、副作用も伴うため、治療を受ける際にはいくつかのポイントを理解しておくことが大切です。
医療チームとのコミュニケーション
副作用の状況や体調の変化については、主治医や看護師、薬剤師に正確に伝えることが重要です。我慢せずに相談することで、適切な対症療法や薬剤の調整が行われ、治療を継続しやすくなります。
家族や周囲のサポート
治療中は、日常生活の様々な場面でサポートが必要になることがあります。家族や親しい人に、治療内容や起こりうる副作用について説明し、理解と協力を得ておくことが望ましいです。
生活の質を保つ工夫
副作用への対応だけでなく、できる範囲で好きなことや楽しみを続けることも、治療を乗り切る上で大切です。無理のない範囲で、趣味や社会とのつながりを保つことが、精神的な支えになります。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「膵臓がん」
https://ganjoho.jp/public/cancer/pancreas/index.html - 日本膵臓学会「膵癌診療ガイドライン2022年版」
https://www.suizou.org/ - Conroy T, et al. FOLFIRINOX versus gemcitabine for metastatic pancreatic cancer. N Engl J Med. 2011
https://www.nejm.org/ - 国立がん研究センター中央病院「FOLFIRINOX療法について」
https://www.ncc.go.jp/jp/ - 日本臨床腫瘍学会「がん薬物療法における職業性曝露対策」
https://www.jsmo.or.jp/ - 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html - 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)「医薬品情報検索」
https://www.pmda.go.jp/ - 日本癌治療学会「がん診療ガイドライン」
https://www.jsco-cpg.jp/ - 国立国際医療研究センター「抗がん剤の副作用対策」
https://www.ncgm.go.jp/ - 日本医療機能評価機構「Minds医療情報サービス」
https://minds.jcqhc.or.jp/

