凍結治療は、がんを急激に冷やして凍らせた後、それを短時間で溶かすことによって、がんを殺す方法です。こうすると、細胞内を満たす水と外側にある水の体積が急激に変化するため、細胞膜が破れて、がん細胞が死にます。専門的には「凍結融解壊死法」ともいいます。
凍結治療は、皮膚科や泌尿器科の疾患に対して、古くから行われてきました。欧米では、肝臓がんなどの体内の臓器のがんに対してもよく行います。
これに対して日本では、肝臓の切除術や他の穿刺療法が発達していたため、これまでほとんど行われてきませんでした。しかし最近、コンパクトで治療しやすい凍結治療装置が開発されたため、肝臓がんに対しても、積極的に使用する施設が現れてきました。
治療の方法
凍結治療は熱凝固法と同様、腫瘍(がん)とその周囲のみを破壊する方法で、実際の治療法もよく似ています。
まず患者に局所麻酔を行い、超音波で観察しながら、皮膚の上から特殊な針を腫瘍まで突き通します。ついで、針をいっきに冷却します。針の内部には極低温のアルゴンガス(マイナス140度C以下。液体窒素を使用する装置もある)が流れており、腫瘍は短時間で凍りつきます。
超音波診断装置で腫瘍とその周囲が十分に凍結したことを確かめたら、今度は針の内部にヘリウムガス(プラス10~50度C)を流して針を温め、腫瘍を溶かします。こうして温度を急激に上げることによって、針の周囲のがん細胞や腫瘍の血管が破壊されます。
針の内部にガスを循環させる代わりに、ガスを吹きつける方法もあります。治療は超音波で観察しながら行いますが、最近、MRIを使用する方法も登場しています。
肝臓がんに対する凍結治療(凍結療法)のメリット(長所)
1.侵襲度が小さい
熱凝固療法と同様、治療の際に体を傷つける(侵襲する)ことがあまりないため、肝臓の機能が低下していたり、全身の状態が悪い患者でも、治療を受けることが可能です。人院期間も数日と短くてすみます。
2.大きな腫瘍も治療できる
凍結治療は熱凝固療法によく似ているものの、それより大きな腫瘍を治療することができます。1本の針で直径4~5センチの範囲を一度に凍結できるためです。
3.治療範囲が見分けやすい
熱凝固療法では、治療中に腫瘍から気体が発生するため、凝固壊死した部分を超音波診断で見分けることが困難です。しかし、凍結治療は、超音波診断でも凍結した部分をはっきりと見分けることができます。
肝臓がんに対する凍結治療(凍結療法)のデメリット(問題点)
1.大きな血管に近い腫瘍の治療が難しい
太い血管が腫瘍の近くにあると、血液の熱によって腫瘍が十分に凍結しないことがあります。
2.出血の可能性がある
腫瘍を凍結するときに肝臓の表面も凍って裂けると、大量出血する可能性があります。そのため、出血傾向のある患者は治療を受けることができません。
3.治療を行える施設が限られる
この治療を肝臓がんに対して行っている施設はまだ少数です。
4.保険が適用されない
健康保険の対象とはならないため、治療費は個人負担となります(40万~50万円)。
治療成績
日本国内では凍結治療はあまり普及していないので、治療成績ははっきりしていません。原即的には、他の穿刺療法と同等であると予想されます。海外の資料によると、患者の5年生存率は30~50パーセントとされています。
以上、肝臓がんの治療についての解説でした。