かつては胃がんが発見されたときには、とにかく胃の大部分を切除することがほとんど常識となっていました。
しかし胃を大きく切り取ると、さまざまな後遺症が現れます。たとえば、胃の出口の幽門を切除すると食物がいっきに小腸に入るため、血糖値が急激に上昇したり下降したりします。(ダンピングといいます)
また胃の入口の噴門を切除すれば、今度は胃の内部に入った食物が食道に逆流し、食道に炎症を起こすことがあります。さらに、胃の上部は胃液を分泌しているので、そこを切除してしまうと、消化が不十分になったり、必要な栄養分が取れなくなったりします。
これを避けるために近年は、初期のがんに対しては切除部分をなるべく少なくします(縮小手術)。また胃の出口側を切除する場合も、小腸に食物を徐々に送り込むはたらきをもっている幽門を残す手術法が増えています。
またがんがごく初期の段階には、内視鏡で粘膜を切除するだけの簡単な治療も可能です。しかし、縮小手術や内視鏡手術が一般的になってきたものの、実際にがんがどのくらい進行しているときにこれらの治療を適用すべきかの基準は、医療施設によってばらばらでした。
そのため、なかには、がんの切除が不十分だったために早期に再発したり、逆に不必要に広い範囲を切除され、大きな後遺症を負う患者もいました。そこで、日本胃癌学会は、可能なかぎり科学的な証拠に基づく胃がん治療のガイドラインを作成しました。
これは、すべての胃がん患者が、日本のどの医療施設でも、現時点で患者の状態に最適な治療を受けられるようにすることが目的です。とはいえ、どんな治療にも副作用や手術の合併症、後遺症などが生じ得ます。
ガイドライン通りの治療でもそれ以外の治療でも、患者やその家族は、医師に十分な説明を受けたうえで治療を受けるべきか、別の治療にすべきかを決断しなくてはなりません。
胃がんの治療法は具体的にどのように決まるのか
がんは進行度で病期(ステージ)が決められます。
胃がんの病期は、がんの探達度、まわりのリンパ節や遠く離れた臓器への転移の有無によって、進行度の低い順に1~4期に大別されます。深達度というのは、胃壁のどこまでがんが食い込んでいるかということです。
胃壁は胃の内側から粘膜、粘膜下層、筋層、漿膜下層、漿膜の5層構造になっています。リンパ節転移や遠隔転移がなかったとして、がんが粘膜下層までにとどまっていれば1期、漿膜を突き破って隣の臓器にまで広がっていれば3期、といった具合に判定されます。
一方、リンパ節転移が多ければ進行度が上がり、肺や肝臓などほかの臓器に転移していれば4期、末期のがんとされます。胃がんはその進行度によって治療法も変わります。
早期であれば内視鏡手術や腹腔鏡手術、切除しても縮小手術(胃を3分の1程度切除)で済みますが、進行するにつれて、胃の全摘手術、さらには胃とまわりの臓器をまとめて摘出する拡大手術と、切除する範囲が大きくなります。
それに伴って体へのダメージが増え、合併症や後遺症が起こりやすくなります。進行がんでは、手術に加えて抗がん剤による化学療法も行われます。転移のリスクが大きく、体内に散らばったと推定されるがん細胞を叩いておくためです。
以上、胃がん治療についての解説でした。