胃がんの治療法の第一選択は古くから「手術」であり、これは今でも変化していません。しかし、切除不能な胃がんや再発した胃がんの場合は化学療法(抗がん剤など薬を使った治療)が提案されることになります。
化学療法の進め方は、胃がん治療ガイドラインで「使うべき薬の種類と順序」が決められており、これがいわゆる「標準的な治療法」となっています。最新(2014年時点)の標準治療がどういったものなのか、どんな効果があるといえるのかを整理します。
胃がんで使われる抗がん剤と使われる順序
胃がんのガイドラインにおける化学療法の進め方は一次治療から三次治療までが記載されています。つまり一次を最初に行い、効果が薄れてきたり副作用が強くでたりして続けられない場合は二次、三次と進んでいくことになります。
一次治療で使われる薬の組み合わせは、TS-1とシスプラチンです。いずれも古くから使われている薬です。二次治療以降では具体的に「これ」と指定されてはいません。まずはタキソール(パクリタキセル)、タキソテール(ドセタキセル)、アブラキサン(アルブミン+パクリタキセル)、イリノテカン(カンプト)のいずれかを選んで単独で使用することになります。
一次治療で使われるTS-1は副作用が少ないものの高い効果は見込めず、シスプラチンは腎臓に大きなダメージを与え、副作用が強いため長く続けられないというデメリットがありました。これらがファーストチョイスであることが、胃がんの化学療法の厳しさ(効果がでにくい)を物語っているといえます。
また、二次治療は他のがんでも使われている一般的な抗がん剤の名前が並びます。いずれも進行を抑える効果があるかも、というレベルなので進行胃がん、再発胃がんなど厳しい状態に対しては前向きにトライできる風潮ではありませんでした。
エルプラットとハーセプチン
そのような状況の中で、2014年9月に承認されたのが大腸がんで使われていた「エルプラット(オキサプラチン)」という薬です。これも抗がん剤なので副作用はありますがシスプラチンよりも腎毒性が少なく、吐き気の副作用も弱いので、中心的な役割を担うようになっています。
また、2011年からは乳がんで使われている分子標的薬であるハーセプチン(トラスツズマブ)も、再発・進行胃がんに対して使われるようになっています。この薬が使えるのはHER2という遺伝子が陽性である人にのみ使える薬ですが、上記に挙げた一般的な抗がん剤と併用することでがんの抑制効果が高くなることが分かっています。
このように近年になって承認された薬を利用しながら進めていくのが胃がんの抗がん剤治療の標準的な手法だといえます。
とはいえ、中心的な役割は従来の抗がん剤であり、胃がんに抗がん剤は効きにくいという前提に変化はありません。体調との折り合いをつけながら慎重に進めていく必要があります。
分子標的薬ニモツズマブ、ラムシルマブ
近年の薬の開発は、従来のように毒性の強い抗がん剤ではなく、がん細胞のみを阻害することを目的とした分子標的薬が主流です(それでも副作用がないわけではない)。
胃がんではニモツズマブ、ラムシルマブという分子標的薬の開発が進み、承認に向けて動いています。
ニモツズマブは2013年から臨床試験が進んでおり、イリノテカンなどの抗がん剤との併用によって効果が得られるかテストされています。
ラムシルマブは、がん細胞を兵糧攻めにする分子標的薬で、こちらはタキソールとイリノテカンの併用によってがん抑制効果が高くなると考えられています。
以上、胃がんの抗がん剤治療についての解説でした。