肝臓がんの種類と特徴
肝臓に発生するがんには、主に肝細胞がんと肝内胆管がん(胆管細胞がん)があります。このうち肝細胞がんが肝臓がん全体の90パーセント以上を占めます。そのため一般に、肝臓がんといえば肝細胞がんを指します。もう1つの肝内胆管がんは、肝細胞がんとは、がんの性質も治療の考え方も大きく異なります。
肝細胞がんは、すべてのがんの中でも、治療が困難なもののひとつです。近年の医療技術の進歩により治療成績は向上していますが、依然として複雑な治療戦略が必要な疾患です。
肝臓がんの治療方針決定が困難な理由
肝炎・肝硬変の合併
肝細胞がんの第1の特徴は、肝炎や肝硬変を合併して発症することが多い点です。2025年現在、日本では慢性B型肝炎、慢性C型肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、アルコール性肝疾患などが主な原因となっています。
肝炎や肝硬変のために肝臓の働きが衰えていると、肝細胞がんの積極的な治療を行うことが難しくなります。治療によって肝臓の機能がさらに低下し、肝不全、つまり肝臓の機能が失われて、命に関わる危険があるからです。
多発性の特徴
第2の理由は、肝細胞がんは、同時に複数発生することが少なくないことです。そのため、肝臓の広い範囲を治療の対象にせざるを得ないことが多く、これも、肝臓の機能を大きく損なうことになります。最新の画像診断技術により、以前よりも小さな病変まで発見できるようになりましたが、それに伴い治療計画の複雑性も増しています。
再発しやすい性質
そして第3の理由は、肝細胞がんは、いったん治癒しても、ふたたび発症しやすい性質を持っていることです。生き残ったがん細胞がふたたび増殖する場合もありますが、前のがんとは異なる新しいがんが発生することもあります。
このような性質があるために、肝細胞がんの治療方針を決定する過程では、がんの状態ばかりではなく、肝臓の機能や全身状態も考慮しなければなりません。また、治療の方法が何種類もあり、それぞれに特徴があります。
肝臓がんの治療方針決定プロセス
したがって、どの治療をどんな時期に行うかは、ひとりひとりの病状とそれぞれの医療施設が提供できる治療法の種類を考慮しながら、医師と患者さんやその家族が相談して決めていくことになります。
このとき、患者サイドに、肝細胞がんとその治療法についての基礎的な知識がなければ、医師と十分に話し合うことができません。そうしなければ、治療の方法や効果、副作用や危険性などを理解できずに、医師の勧めるままの治療を受けることになってしまいます。
肝細胞がんの治療は、このようにさまざまな要因を考慮して選択する必要があるため、現在のところ統一された治療法の選択基準はありません。それでも、治療法を選択するうえでの基本的な考え方を理解しておくことは重要です。まず、基本を知ったうえで、個別の条件などを踏まえて決めていくのが病院での治療を選ぶうえでのポイントです。
肝臓がんの病状の把握方法
がんの治療方針を決めるには、まず病状を正確に把握することが重要です。他の多くのがんでは、治療方針でもっとも重要になるのはがんの進行度(病期・ステージ)ですが、肝細胞がんでは進行度そのものよりも、がんの場所や大きさ、個数などの具体的な要素が重要になります。
それと同時に、肝臓の予備能、すなわち肝臓の能力がどのくらい残っているかをよく知る必要があります。そのほか、他の病気を併発していないかどうかを調べなければなりません。
最新の画像診断技術
2025年現在、肝臓がんの診断には以下のような最新技術が活用されています。
- 造影CT検査:血管の状態やがんの血流を詳細に評価
- MRI検査:肝細胞の機能と形態を同時に評価
- PET-CT検査:がんの活動性と転移の有無を確認
- 超音波検査:リアルタイムでの観察が可能
肝臓がんの進行度(病期)評価
がんの進行度に関しては、以下の点が、治療法を決定する際に重要になります。
評価項目
項目 | 評価内容 | 治療への影響 |
---|---|---|
腫瘍の数 | 単一(1個)か、2~3個か、それ以上か | 数が多いほど治療選択肢が限定される |
腫瘍の大きさ | 最大径が2センチ以下か、それ以上か | 小さいほど根治的治療が可能 |
腫瘍の分布 | 集中しているか、肝臓全体に散らばっているか | 分散していると手術適応が困難 |
血管浸潤 | 肝臓の血管や胆管を侵しているか | 浸潤があると予後が悪化 |
転移の有無 | リンパ節や他臓器への転移があるか | 転移があると全身治療が中心 |
これらの点から、日本肝癌研究会は、肝細胞がんと肝内胆管がんの病期(ステージ)を、それぞれ1期~4b期に分けています。一般に、病期が進んでいるほど、治療の効果が低くなり、完治は困難になります。
肝臓の予備能評価の重要性
肝臓は、人間の体になくてはならない臓器です。人間が生きていくうえで必要とするさまざまな物質をつくり出し、また毒物を解毒するなどの働きを持っているからです。
肝臓が十分に働かなくなって「肝不全」と呼ばれる状態になると、ビリルビンやアンモニアなどの毒性のある物質が体内に蓄積します。その結果、黄疸や神経障害(肝性脳症)が出現し、最終的には死に至ります。
肝障害度の評価方法
前述したように、肝細胞がんの患者の多くはもともと肝臓の機能が低下しています。そのため、がんに対する治療を積極的に行うと、まわりの肝臓の組織にも影響が及び、肝不全を起こす危険があります。そこで、肝臓にどのくらいの余力があり、どのような治療なら許容できるかを判断しなければなりません。
肝臓の機能を検査するには、いろいろな方法があります。しかし肝細胞がんの治療については、日本肝癌研究会が、肝臓の障害の程度を評価する指標を設けています。検査項目は、以下の5つです。
- 腹水の有無(量)
- 血清中のビリルビン(胆汁の成分)の濃度
- 血清中のアルブミン(たんぱく質の一種)の濃度
- ICG(色素)排泄検査(静脈に色素を注入し、15分後の血中濃度を測定)
- プロトロンビン時間(血液凝固作用の検査)
これらは、項目ごとに重症度を求め、そのうち2項目以上が当てはまる重症度を、患者の「肝障害度」とします。もし肝障害度A(軽度)の項目が3つと、肝障害度B(中程度)の項目が2つある場合などは、より重いBの障害度が、患者の障害度となります。がんの進行度にかかわらず、肝臓の障害度が重いほど、5年生存率は低くなってしまいます。
2025年における治療選択の新しい考え方
2025年現在、肝臓がんの治療選択においては、従来の評価項目に加えて、以下のような新しい要素も考慮されるようになっています。
分子標的薬の適応評価
近年開発された分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場により、進行した肝臓がんに対する治療選択肢が大幅に拡大しました。これらの薬剤の適応を判断するために、がん細胞の遺伝子変異やバイオマーカーの検査も重要になっています。
患者の生活の質(QOL)の重視
治療効果だけでなく、患者さんの生活の質を保ちながら治療を行うことが重視されています。高齢化社会を背景に、患者さんの年齢、併存疾患、家族のサポート体制なども治療方針決定に大きく影響するようになりました。
多職種チームによる総合的評価
肝臓がんの治療方針決定には、肝臓専門医、腫瘍内科医、放射線科医、外科医、病理医、薬剤師、看護師、ソーシャルワーカーなど多職種のチームが関わります。それぞれの専門性を活かした総合的な評価により、患者さんにとって最適な治療方針が決定されます。
治療方針決定における患者・家族の役割
肝臓がんの治療方針決定においては、医療スタッフだけでなく、患者さんやご家族の積極的な参加が重要です。治療に関する十分な情報を理解し、自分の価値観や希望を医療チームに伝えることで、より良い治療選択が可能になります。
セカンドオピニオンの活用
複雑な治療選択が必要な肝臓がんでは、セカンドオピニオンを求めることも重要な選択肢の一つです。異なる医療機関での意見を聞くことで、より幅広い治療選択肢を検討することができます。
まとめ
肝臓がんの治療方針決定は、がんの状態、肝機能、患者さんの全身状態など多くの要素を総合的に評価する複雑なプロセスです。2025年現在、医療技術の進歩により治療選択肢は大幅に拡大していますが、それに伴い治療方針決定もより複雑になっています。
患者さんとご家族が治療に関する基礎知識を持ち、医療チームと十分にコミュニケーションを取ることで、一人ひとりに最適な治療方針を見つけることができます。