人気TV番組でも取り上げられた、新しいタイプのがん治療薬「PD-1阻害薬」とはいったいどんな薬なのでしょうか。
PD-1阻害剤は人間の免疫力と大きな関係があるので、この薬のことを知るためにはまず「免疫力とがん」について基本的なことを押さえておく必要があります。
免疫力でがんを攻撃しよう、という話はよく聞きますね。
がん治療では様々な免疫治療が行われていますが、なかなか良い効果が挙げられていません。高い効果が得られず、保険治療に昇格できないのは「免疫力でがんを攻撃する」のはとても難しいためです。
たしかに免疫細胞ががん細胞を攻撃する、という事実は確認されていますが、がん細胞はもともと自身の細胞なので、ウイルスなどのように完全に敵とみなして攻撃するわけではないのです。
また、がん細胞は免疫細胞に対して抵抗力を持つという特徴があります。簡単にいえば「自分は敵じゃないよ」というシグナルを出し、免疫細胞の攻撃を防ぐのです。
PD-1阻害薬はこのシグナルを無効化するための薬です。免疫細胞にしっかりと「このがん細胞は敵だ」と認識させて攻撃させることが狙いです。
現在、PD-1阻害薬としてはニボルマブ、ペンブロリズマブなどの薬が登場しており、メラノーマなど特定のがんに対しては医療の現場で使われるようになりました。
PD-1阻害薬「ニボルマブ」(オプジーボ)
小野薬品が開発した薬で、2014年7月に「根治切除不能な悪性黒色腫(メラノーマ)」の治療薬として製造販売の承認がされました。2015年になって、非小細胞肺がんに対する承認の申請が行われるなど、他のタイプのがんでも使われるような動きが進んでいます。
PD-1阻害薬「ペンブロリズマブ(キートルーダ)」
アメリカが開発した薬で、こちらも2014年に米国で承認され、こちらも悪性黒色腫(メラノーマ)に対して使われています。ニボルマブと同じく進行性の非小細胞肺がんに対して効果があるとされ、臨床試験が進められています。
PD-1阻害薬の費用
ペンブロリズマブはとても高額で、月間の標準投与で約130万円かかるという設定です。日本で使う場合は保険が適用になりますが、それでも30万以上の自己負担が必要という計算になります。新薬は総じて価格が高く、注目されている分子標的薬の一種なので価格が急激に下がるということはないといえます。
PD-1阻害薬の副作用
かゆみがでるとされています。重篤な副作用としては間質性肺炎が起きるリスクがあります。医療現場ではまだ歴史が浅いので、どのような副作用が起きるかは今後明らかになってくるでしょう。
PD-1阻害薬の効果
これで「がんがすっかり治る」という夢のような薬ではありません。がんの攻撃に成功すれば一定期間進行を抑えることはできるといえますが、他の抗がん剤や分子標的薬と同様、がんを治す薬ではありません。
人間の免疫力とは本来「ある一定の水準」で保たれています。免疫力が低すぎるとウイルスや雑菌の侵入と増殖を許ししていまいますが、高すぎても免疫過剰のアレルギー症状が起こり、人間の命を正常に保つことはできません。
免疫を利用してがんを攻撃する、というのは理論的には興味深いことですが、過剰な期待は今のところできない、というのが現状です。