高額療養費制度とは
がんの治療を受けるとき心配なのは、費用がどのくらいかかるのかという問題です。日本は「国民皆保険」が原則であり、病気やけがをしたときの医療費のほとんどは、その人が加入している医療保険制度によってカバーされ、本人は一部の自己負担金(1~3割)を支払うだけで治療が受けられます。
しかし、入院や手術や化学療法(抗がん剤治療)では、まとまった額の治療費が必要になります。特に最近の多剤併用化学療法(いくつかの抗がん剤を組み合わせて行う化学療法)では、その費用は高額になります。
そこで活用したいのが負担を軽くする公的な制度です。1度に多額の治療費がかかるときには、「高額療養費制度」が利用できます。
これは1か月にかかった医療費の自己負担額(病院の窓口で支払う金額)が一定の金額(自己負担限度額)を超えたら、それ以上は支払わなくてもよいか、いったん支払っても、あとから戻ってくる制度です。1か月の自己負担限度額は、所得や年齢によって決められています。
対象は保険診療の治療費のみで、入院したときの食事療養費や差額ベッド代などは含まれません。なお、入院が長期にわたったり、入退院や高額な化学療法を繰り返したりするなど、1年間に4回以上、高額療養費制度の対象になると、4回目からは自己負担額がより少ない額で済むようになります。
高額療養費の払い戻しは、手続きしてから還付されるまでに2~3か月かかります。つまり、いったんは全額を病院の窓口で支払うことになります。しかし、現在では、あらかじめ申請すれば、窓口での支払いが自己負担限度額までで済むようになりました。
高額な化学療法を予定している場合は、この制度を利用することをお勧めします。この制度を利用するには、加入している健康保険組合や社会保険事務所、自治体の国民健康保険窓口に「健康保険限度額適用認定申請書」を事前に提出し、「健康保険限度額適用認定証」の交付を受け、医療機関の窓口に認定証と被保険者証(保険証)を提出する必要があります(70歳以上の患者さんは、認定証の交付は不要です)。
これらの制度は、患者本人または家族が申請しないと給付を受けることができません。
治療費の相談はどこにすればよいか
がんの治療にかかる費用は決して安いものではありません。病気のために仕事ができず、治療費の工面に困っているときは、1人で悩まずに、各病院や自治体の福祉窓口の社会福祉士(ソーシャルワーカー)に相談しましょう。
先に述べた「高額療養費制度」など、患者さんの負担を軽くする公的な制度はありますが、その仕組みや申請の方法は、ふだんなじみのないものだけに、なかなか理解するのが難しいところがあります。そのようなとき、これらの制度に詳しいソーシャルワーカーに相談すれば、大きな助けになるはずです。
また、自分が入っている生命保険、医療保険、がん保険なども総点検しておきましょう。これらの保険による医療給付も、患者さん側から申請しなければ、受け取ることができません。本来受け取ることができるはずの保険金をもらい損ねてしまうことになります。
まずは保険会社に連絡し、現在の自分の病状に対して保険金が支払われるかどうか、必要な書類は何かなどを問い合わせましょう。通常、給付を受けるには、保険会社の所定の診断書が必要です。診断書の用紙をもらってから、病院の窓口に診断書の作成(医師が記入)を依頼しましょう。