がんの検査方法の基本概念
現代のがん診断は、多角的なアプローチによって行われます。問診による症状の把握から始まり、身体所見の確認、画像診断による内部構造の可視化、血液や尿などの体液分析、電気的反応を測定する生理検査、そして最終的な確定診断のための病理検査まで、複数の検査方法を組み合わせて総合的に判断されます。
特に2025年現在では、AI技術を活用した診断支援システムや、血液1滴でがんを検出できる革新的な技術が実用化され、がん診断の精度と効率が大幅に向上しています。単にがんの有無を確認するだけでなく、がんの進行度(病期)を正確に診断することで、患者様一人ひとりに最適な治療法を選択できるようになりました。
問診によるがんの検査方法とその目的
問診は、すべてのがん診断の出発点となる重要な検査方法です。単なるアンケート形式ではなく、医療従事者が患者様やご家族と直接面談し、必要な医療情報を聞き取ることが問診の本質です。
家族歴の確認
遺伝性のがんは全体の約5-10%を占めており、家族歴の詳細な聴取は極めて重要です。血縁関係者の健康状態、罹患疾病、死亡原因について可能な限り詳しく情報を収集します。また、長年同じ生活環境にいる家族が同じがんを発症する可能性も考慮に入れて評価を行います。
既往歴と生活環境の調査
患者様の過去の病歴だけでなく、居住地域、旅行歴、職業環境なども重要な情報となります。特に石綿(アスベスト)暴露歴や化学物質への曝露歴は、特定のがんの発症リスクと密接に関連するため、詳細な聴取が必要です。また、重複がんの可能性についても常に念頭に置いて問診を進めます。
理学的所見による検査方法
理学的所見は、医師が患者様を直接診察することで得られる貴重な情報です。最新の画像診断技術が発達した現在でも、基本的な診察技術の重要性は変わりません。
視診による全身状態の評価
患者様の栄養状態、日常生活動作能力、運動機能などを観察し、全身状態を把握します。体表の腫瘤の有無、皮膚の色調変化、呼吸パターンの異常などから、がんの存在や進行度を推測することができます。特に黄疸、浮腫、削痩などの所見は、がんの進行を示す重要なサインとなります。
触診による局所評価
手を使って患者様の身体に直接触れることで、多くの診断情報を得ることができます。体表近くにあるがんについては、触診だけでほぼ確定診断が可能な場合もあります。
口腔内触診では、舌がんや口腔がんを直接確認できます。直腸指診は、直腸がんや前立腺がんの診断に欠かせない検査で、周辺臓器への転移の有無も評価できます。婦人科の内診では、子宮がんや卵巣がんだけでなく、腹膜播種の有無も確認可能です。
画像検査による詳細ながんの検査方法
画像検査は、がん診断において最も発展の著しい分野の一つです。2025年現在では、AI診断支援システムが導入され、診断精度の向上と見落としの防止に大きく貢献しています。
X線検査とCT検査
単純X線撮影は、最も基本的な画像検査として広く使用されています。肺がんの検出や骨転移の確認に特に有効です。CT検査では、造影剤を使用することで、より詳細な病変の評価が可能になります。最新のマルチスライスCTでは、短時間で高精細な画像を得ることができ、小さながんの発見率も向上しています。
MRI検査の特徴と利点
MRI検査は放射線を使用しないため、繰り返し検査が可能で、軟部組織のコントラストに優れています。特に脳腫瘍、肝がん、骨軟部腫瘍の診断では、CTよりも優れた診断能力を示します。最新の機能的MRIでは、がんの悪性度や治療効果の評価も可能になっています。
超音波検査の活用
超音波検査は非侵襲的で、リアルタイムで画像を観察できる利点があります。携帯可能な小型装置の登場により、ベッドサイドでの検査も可能になりました。特に肝がん、胆のうがん、膵がんなどの腹部臓器の評価に優れており、血流評価も同時に行えます。
PET-CT検査による全身評価
PET-CT検査は、がん細胞の代謝活動を画像化する革新的な検査方法です。ブドウ糖の取り込みが活発ながん細胞を検出することで、従来の画像検査では発見困難な転移巣も発見できます。2025年現在では、検査時間の短縮と画質の向上により、患者様の負担も大幅に軽減されています。
生理検査によるがんの機能評価
生理検査は、がんが臓器機能に与える影響を評価する重要な検査方法です。心電図、呼吸機能検査、脳波、筋電図などを通じて、がんによる機能障害の程度を定量的に測定できます。
特に肺がんでは呼吸機能検査が治療方針の決定に重要な役割を果たし、脳腫瘍では脳波検査が神経機能の評価に活用されます。これらの検査結果は、手術適応の判断や治療計画の立案において欠かせない情報となります。
検体検査による分子レベルでの診断
検体検査は、血液、尿、便、分泌物などを生化学的に分析する検査方法です。患者様の全身機能の評価、がん発生部位の臓器機能評価、併発疾患の検索を目的として実施されます。
腫瘍マーカーの活用
腫瘍マーカーは、特定のがんが産生する物質を血液中で測定する検査です。2025年現在では、より特異性の高い新しい腫瘍マーカーが次々と開発されており、早期診断の精度向上に貢献しています。ただし、炎症などの他の疾患でも上昇することがあるため、あくまで補助的な診断ツールとして活用されます。
新しい血液検査技術
近年注目されているのが、血液1滴で複数のがんを同時に検出できる革新的な技術です。マイクロRNAの解析により、13種類のがんを超早期に発見できるシステムが実用化されており、がん検診の概念を大きく変えつつあります。
内視鏡検査による直視下診断
内視鏡検査は、管腔臓器内部を直接観察できる優れた検査方法です。食道がん、胃がん、大腸がんなどの消化器がんの診断には欠かせない検査で、組織採取も同時に行えます。
2025年現在では、AI搭載の内視鏡診断支援システムが実用化されており、微小ながん病変の検出率が飛躍的に向上しています。特に日本は内視鏡関連AI技術において世界をリードしており、0.01秒という超高速で病変を検出できるシステムも開発されています。
病理検査による最終診断
病理検査は、がんの最終診断を決定する最も重要な検査方法です。組織や細胞の形態学的変化を詳細に観察し、がんの確定診断を行います。
組織学的検査
採取された組織片を特殊な染色を施して顕微鏡で観察します。がん細胞特有の形態学的特徴である細胞の大小不同、被膜の欠損、豊富な細胞分裂像などを確認し、確定診断を下します。迅速病理診断では、手術中にリアルタイムで診断結果を提供できます。
細胞診による早期診断
細胞診は、個々の細胞の特徴からがんを診断する方法です。子宮頸がん検診で用いられるパパニコロウ染色や、喀痰細胞診による肺がんの早期発見などに活用されています。侵襲性が低く、スクリーニング検査として優れた方法です。
遺伝子検査による個別化診断
2025年現在では、がん遺伝子パネル検査が標準化されており、がん細胞の遺伝子変異を網羅的に解析できます。これにより、患者様一人ひとりに最適な分子標的薬や免疫療法薬の選択が可能になり、個別化医療の実現に大きく貢献しています。
リキッドバイオプシーという革新的検査方法
リキッドバイオプシーは、2025年現在最も注目されている革新的ながん検査方法です。血液や尿などの体液から、組織を採取することなくがんの遺伝子情報を得ることができます。
この技術により、従来困難だった早期がんの検出や、治療効果のモニタリング、再発の超早期発見が可能になりました。特に循環腫瘍DNA(ctDNA)の解析により、がんの存在だけでなく、薬剤耐性や治療効果の予測も可能になっています。
国立がん研究センターが主導するSCRUM-Japanプロジェクトでは、リキッドバイオプシーを用いた個別化医療の確立が進められており、従来の組織検査と比較して約3分の1の期間で結果が得られるため、患者様により迅速な治療を提供できます。
最新のがん検査技術と今後の展望
2025年現在、がん検査の分野では革新的な技術が次々と実用化されています。線虫の嗅覚を利用したN-NOSE検査では、尿1滴で15種類のがんを早期段階から検出可能で、従来の検査では発見困難だったステージ1のがんも検出できます。
AI技術の医療応用も急速に進んでおり、画像診断の精度向上、病理診断の支援、治療方針の決定支援など、あらゆる場面でAIが活用されています。特に深層学習を用いた診断支援システムでは、人間の目では見落としがちな微小な病変も確実に検出できるようになりました。
今後は、マルチオミクス解析による包括的ながん診断、ウェアラブルデバイスによる継続的な健康モニタリング、テレメディシンを活用した遠隔診断など、さらなる技術革新が期待されています。
日本のがん検診の現状と課題
日本では、国民の2人に1人ががんになり、4人に1人ががんで亡くなっています。しかし、がん検診の受診率は約40%にとどまっており、欧米諸国と比較して大幅に低い状況です。
政府は2023年3月、がん検診の受診率目標を50%から60%に引き上げることを新たながん対策推進基本計画に盛り込みました。特に市町村国保加入者の受診率が20-30%と極めて低く、重点的な受診勧奨が必要な状況です。
検診を受けない理由として、「時間がない」「費用が心配」「症状がない」「検査が怖い」などが挙げられますが、新しい検査技術の導入により、これらの障壁も徐々に解消されつつあります。
がんの検査方法選択における重要なポイント
適切ながん検査方法を選択するためには、患者様の年齢、性別、既往歴、家族歴、症状などを総合的に考慮する必要があります。また、検査の目的が早期発見なのか、病期診断なのか、治療効果判定なのかによって、最適な検査方法は異なります。
2025年現在では、がんゲノム医療の普及により、個々の患者様の遺伝子プロファイルに基づいた個別化検査が可能になっています。リキッドバイオプシーと従来の検査方法を組み合わせることで、より精密で効率的ながん診断が実現されています。
重要なのは、一つの検査結果だけで判断するのではなく、複数の検査結果を総合して診断することです。また、定期的な検査により、がんの早期発見と適切な治療につなげることができます。
まとめ
がんの検査方法は、従来の基本的な検査から最新のAI技術やリキッドバイオプシーまで、多岐にわたる選択肢があります。それぞれの検査方法には特有の目的と利点があり、患者様の状況に応じて最適な組み合わせを選択することが重要です。
参考文献・出典情報
1. 国立がん研究センター がん情報サービス「がん検診について」
2. 国立がん研究センター「リキッドバイオプシー活用でがんの克服目指す」
3. 血液検査で分かるがんの診断~リキッドバイオプシーの世界
6. 厚生労働省「がん検診」