がんの診断は、問診を中心とする経緯や状態の把握、医師による身体の所見、超音波や放射線を利用した画像診断、血液や尿などの体液の分析、電気などの反応を捉える検査(例えば脳波、心電図)、腫瘍の組織検査などの結果を総合して、がんという病気になっているかどうかが決定されます。
がんの診断は、単にがんであることを診断する(病名診断)のではなく、がんの病期を診断することが重要です。
がんの治療内容は病期によって相違し、治療を受けた後の結果としての患者さんの予後も病期に大きく左右されるからです。また、治療を行うにあたっては、病期診断から得られる情報だけでは不十分な場合があります。そのような場合には、専門的な検査が追加して実施されます。
がんの診断方法
1.問診
病歴聴取(既往歴、家族歴、現病歴)
2.理学的所見
病者の診察(視診、触診、聴診、打診)
3.画像検査
放射線(単純撮影、CT)、超音波、MRI、PETなど
4.生理検査
心電図、脳波、サーモグラフィなど
5.検体検査
血液、尿、糞便、分泌物など
6.内視鏡検査
7.病理検査
遺伝子、細胞、組織
1.問診
問診票と称するアンケー卜は問診ではありません。。医療者が必ず患者さんや家族に面談して、情報を得ることが大切であり、必要な情報を聞き出すのが「問診」です。
・家族歴
がんの中には、遺伝性のがんがあります。また、生活環境ががんの発生に関与していますので、同一環境で長年生活してきた家族に、同ーのがんが発生する可能性があります。そのため、両親、兄弟姉妹などの血縁関係者のみならず、家族の健康状態(罹患疾病、死亡原因)について、可能な限り情報を共有します。
・既往歴
患者さん、あるいは家族の健康状態についての経過を尋ねます。疾病のみならず生活地域、旅行地域、長年従事してきた職業環境についての情報なども重要です。また、発生が疑われるがんだけではなく、新たな別の種類のがん(重複癌)の発生に注意します。
2.理学的所見(診察所見、身体診察)
担当医が行う患者さんの診察です。最近はややもすれば、ないがしろにされている診察法ですが、あらゆる疾病診療の基本的な重要な情報が得られることで重視している医師はいます。また、診察のやりかた次第では、かなりの精度の診断を下すことができます。
がんに関する特別な診察法はありません。全身状態の把握ならびに局所の状態を、初診時には必ず情報採取して記録を、可能な限り数値にして残しておきます。
・視診
患者さんの栄養状態、日常生活活動、運動障害などの全身状態を知る(推測する)ことが大切です。次に局所の視診に移ります。体表の腫瘍、栄養状態、動作などから運動・感覚麻痺(がんによる圧迫・浸潤による神経の圧迫)、呼吸状態からがんによる胸部異変の推測(胸水貯留など)、腹部の形状から腹腔内のがんの推察をします。
・触診
患者さんの身体に触れることによって多くの情報を得るための検査です。皮膚の温かみ、弾力、乾燥程度、皮下脂肪の状態などから、患者さんの全身状態をある程度判定する医師もいます。
がんには特有の触診所見があり、体表近くに存在するがんを触診だけでほぼ確定する医師もいます。触診の対象は手の届くところで行われます。
1)口腔内触診
口腔内の腫瘍は手指で簡単に触診することができます。
2)直腸指診
大腸直腸がん、前立腺がんの診察に欠かせない触診法です。また、周辺臓器(大腸、肛門、子宮、膀胱、前立腺、骨盤など)のがん、あるいはがん性腹水(腹膜播種)などの確認もします。
3)内診
子宮や付属器のがんのみではなく、周辺臓器(直腸、膀胱、腹膜、骨盤など)のがんの有無を確かめます。これらの他に針、毛、アルコール綿などを使って患者のがんに伴う皮膚の感覚異常の有無を確かめることもあります。
・打診
腱反射などで、がんに伴う神経筋肉障害の有無を確かめることがあります。
・聴診
呼吸器系のがん以外には、聴診は用いられませんが全身の状態を確認する意味で行われます。
3.画像検査
1)レントゲン撮影
レントゲン線(X線)を照射して、組織によるX線の透過性の差異を写真フィルム上に画像化したものです。
a)単純レントゲン撮影
透過したX線の画像を正常臓器組織と病的臓器組織との透過性の差を診断に利用する、最も基本的な撮影方法です。
b)断層撮影
特定の断面を描出するレントゲン撮影法です。
c)CT(コンピュータ断層撮影)
X線断層撮影法により得られた人体の一点のX線透過値をデジタル処理し、断面画面上の一画素(CT値)として再構成します。再構成された身体断面の各点を画面上に描写して画像としています。また、造影剤を投与して撮影し、さらに詳しい診断をします。
d)造影レントゲン撮影
X線透過性の差がない身体部位は、単純レントゲン撮影では識別できません。そこで、X線透過性の低い物質(陰性造影剤)を生体に与えて(経口、経管、経血管など)、その部分にX線透過性の差が生ずるようにしてレントゲン撮影を行います。
2)MRI
電磁波とコンピュター解析を用いて、体の断面を画像化します。
3)超音波
高周波数の音波を体に発射し、その反射波を検知器に記録し、画像化して診断に用います。体への侵襲がないために頻回に検査ができ、携帯用の小型超音波診断装置は診察場所の制限がありません。また、観察したい体の断面を自在に変えることができます。
4)PET
がんの診断には、がん細胞へ優位に取り込まれるブドウ糖などの物質の有無を確認して、がん細胞が存在するかどうかを確認します。
5)シンチグラフィ
放射性物質の取り込みの有無、あるいは多少によってがんを診断します。
4.生理検査
心電図、呼吸機能検査、脳波、筋電図などは日常の一般的診療で用いられている線状の画像です。これらの画像からは、患者の全身諸臓器機能の状態を知るだけではありません。がんが存在している局所の機能障害の程度などを調べることができます。
5.検体検査
血液、尿、便、分泌物などを、生化学的手法で検査します。患者さんの(1)全身機能、(2)がん発生部位の臓器組織機能、(3)併発疾患の検索が検査目的です。
・腫瘍マーカー
ある種のがんが発生すると、腫瘍から特異的な固有の物質が分泌されることがあります・この物質を腫瘍マーカーといいます。正常細胞や腫瘍以外の疾病(炎症など)でも分泌されるために、あくまで目安、兆候として用いられます。がん治療の効果やがん再発の指標としての価値があり、再発のチェックとしてよく使われます。
6.内視鏡検査
内視鏡を食道や胃、大腸など主に管上の臓器・期間に挿入して目視によって検査する手法です。
7.病理学的検査
組織や細胞の状態からがんを診断する方法です。がんの最終診断は、この病理学的検査によって決定されます。
・肉眼的所見
病理解剖や手術などで摘出された「がんが疑われる腫瘍」を肉眼的(触診も含めて)にがんかどうかを判断します。がんの特徴は、一見して判断できる場合もあります。全体が不整形で皮膜に包まれておらず、正常組織との境界が不明瞭で、色が濁っているなどの特徴があります。
・組織学的所見
組織片をスライド・グラスに載せて、染色を施して、顕微鏡で観察します。迅速に病理染色し診断することがあります。手術中の病理診断に頻用されています。がん組織には細胞の大小不同、被膜の欠損、豊富な細胞分裂などの特徴があります。
・細胞学的所見
染色された「1個の細胞」の特徴からがんを診断する方法を細胞診断といいます。細胞核の異型性(大きさ、形、数、染色性など)、細胞の分化度などを指標にがん細胞を診断します。
・遺伝子学的所見
がん細胞に特殊な遺伝子がみられることがあります。これは「がん遺伝子」と呼ばれているものです。細胞を検査してがん遺伝子の有無や数量を調べます。
以上、がんの診断方法についての解説でした。