21世紀に入った頃、がん患者さんが標準治療(手術、抗がん剤、放射線)以外の民間療法・代替療法(以下、民間療法という記載に統一)を利用していることは「なんとなく知られていた」程度の認識でした。
インターネットが普及したことでWebサイトをもとに掲示板などで情報や口コミがやりとりされていました。
しかし、国として正式に民間療法の正確な実態はつかめておらず、最初に公的な資金が投入されて調査されたのは2001年でした。
それが、厚生労働省がん研究助成金による研究班「我が国におけるがんの代替療法に関する研究」です。
この研究により、利用されている民間療法の実態が明らかになりました。
研究方法は、全国のがん専門病院や緩和ケア病院・ホスピスの患者さんを対象にアンケート調査を行うという方法でした。
その結果、がん患者さんの44.6%(1382/3100名)が何らかの民間療法を一種類以上行っていたことが分かりました。約半分の人が行っていた、といえます。
がん患者さんが利用していた民間療法の内容とは?
・健康食品、サプリメント=96.2%
・気功=3.8%
・お灸=3.7%
・鍼=3.6%
という結果で、ほとんどが民間療法といっても、「健康食品やサプリメントを購入して飲む」という手段でした。
さらに、この「健康食品、サプリメント」の内訳も明らかになっています。
【健康食品、サプリメントのうち】
キノコ系
・アガリクス=60.6%
・AHCC=7.4%
キノコ系以外
・プロポリス=28.8%
・漢方薬=7.1%
・キトサン=7.1%
・サメ軟骨=6.7%
という結果でした。
健康食品では、アガリクスやAHCCなどのキノコ類が非常に多く、次いでプロポリス、漢方(保険治療として処方されているものは除く)などが利用されていました。
つまり日本での民間療法といえばキノコ類による健康食品を意味する、という状況でした。
いっぽうでアメリカでは鍼灸・マッサージ・ハーブ・ビタミン・ミネラルなどが多く利用されており、いわゆる健康食品の頻度はそう高くありません。
この点はは、アメリカと日本との違いがあるといえます。
がん患者さんが民間療法へ期待していたことは?
この研究では、民間療法に何を期待していたのか、という調査項目もありました。
それによると
・進行抑制を期待=67.1%
・治ることを期待=44.5%
・症状の軽減を期待=27.1%
・現代医学では不十分=20.7%
・人の勧めで=6.7%
・その他=5.1%
となっています。
この結果をみると、がんの進行抑制や治ることなどのがんに対する直接効果を期待していることがわかります。
つまり健康食品を薬と同様に考えて摂取し、がんが治ることを期待しているといえます。このことは、利用する側だけに原因があるのではなく、販売する側の表現も大きく影響していると思われます。
当時は薬事法や広告の規制も今より緩く、健康食品をドリンク剤や錠剤など薬と同じような剤型で販売し、あたかもがんが治るがごとく法的にぎりぎりの線で宣伝していた背景があるからです。
これに対して欧米では民間療法の利用目的として、がんの進行に伴う痛みなどの症状緩和や心理的不安の軽減、通常のがん治療に伴う副作用(吐き気や下痢など)の症状緩和などが主なものとして挙げられています。
医師には内緒で
また、民間療法を実施していることを担当の医師に相談や報告をしているか、という問いに、約60%の人が「していない」と答えています。
理由としては「医師に聞かれなかったから」とか「中止するように言われそうだから」と答えています。
なお、民間療法にいくらお金をかけているのでしょうか、という質問に対しては一人平均一か月当たり約5万7000円という結果でした。
まとめ
全体的には、2001年の状況も、現在(2018年)の状況も、似たような状況にあるという印象です。
むしろ、民間療法として選択される種類が「ほぼキノコ系ばかり」だったのが、他の様々な商品が開発され、販売されており、多種多様な健康食品を悩みながら選ぶという状況が生まれていると思います。
治る、効果があると思っていなければこのような民間療法を実施することはないはずなので、そのあたりの意識は2001年と変わっていないと思います。
つまり民間療法への認識は今でも大きな変化はなく、選択肢となる商品や療法が増えていることが大きな悩みの種になっている気がしますね。