胃がんでは手術が可能な状況であれば「切除手術」が第一優先とされます。しかし転移があるなど進行した状態で発見された胃がんや、切除後の再発胃がんでは化学療法(抗がん剤など薬を使った治療)が中心となります。
他の部位のがんと比べて、胃がんは化学療法が効きにくく、なおかつ使える薬の種類が少ないことも大きな課題でした。
しかし近年(2017年以降)、効果がある程度見込める薬が増えています。この記事では胃がんで行われる化学療法、使われる薬や使う順番などについて触れたいと思います。
胃がんで使われる主な抗がん剤、分子標的薬
まずは標準的な胃がん治療(ガイドラインに沿った治療)で使われている抗がん剤、分子標的薬を一覧にまとめました。
【胃がんで使われる主な抗がん剤、分子標的薬】
分子標的薬 | HER2 | ハーセプチン(HER2陽性の場合のみ) |
VEGFR | サイラムザ | |
抗がん剤 | フッ化ピリミジン系薬剤 | TS-1、ゼローダ、5-FU |
プラチナ系薬剤 | シスプラチン、エルプラット | |
タキサン系薬剤 | タキソール、タキソテール、アブラキサン | |
トポイソメラーゼ阻害薬 | イリノテカン |
どの薬から順に使うのか
上記のとおり、薬の種類は多岐にわたりますが、治療を計画するにあたりまず行われるのが「HER2(ハーツー)遺伝子」の検査です。
これは、胃がん細胞を採取してその表面を検査し「HER2」というたんぱく質が存在するかどうか(HER2遺伝子陽性かどうか)を調べるものです。
HER2が陽性であれば、分子標的薬であるハーセプチンが使えます。分子標的薬は(シンプルにいえば)「毒性をもってがん細胞を殺す」タイプの抗がん剤とは異なり、がん細胞固有の特徴に作用するタイプの薬です。効果が出やすく、副作用が比較的軽微であることが特徴です。
1.HER2陽性の場合
化学療法の一次治療として「ハーセプチン」+「フッ化ピリミジン系薬剤」+「プラチナ系薬剤」の3剤を使った治療になります。
現在、フッ化ピリミジン系薬剤としてはTS-1、プラチナ薬剤としてはシスプラチンを使うことが多いです。つまり「ハーセプチン+TS-1+シスプラチン」を同時に併用して投与を行います。
胃がんではHER2が陽性になる確率は20%未満です。
2.HER2陰性の場合
ハーセプチンを使えないのでフッ化ピリミジン系薬剤」+「プラチナ系薬剤」の2剤を使った治療になります。
こうして一次治療が開始されます。
シスプラチンの代わりにエルプラットを使うことも。
なお、シスプラチンの代わりにエルプラットを使うこともあります。「TS-1+シスプラチン」と「TS-1+エルプラット」では効果にほとんど差がありません。
エルプラットは2015年に胃がんで承認された薬です。特徴としては「入院せずに通院で投与できること」にあります。シスプラチンは毒性がつよく、特に腎臓にはダメージを与えるため3日間ほど入院して実施します。
しかしエルプラットは末梢神経障害が起りやすく、手足のしびれや痛みを強く感じることがあります。
一長一短あるため、患者さんの体調や体質、生活スタイルなどを考慮しながらどちらを使うか決めることになります。
TS-1の代わりにゼローダを使うことも。
同じ消化器官である大腸がんでは、ゼローダとエルプラットの併用は標準治療になっています。日本国内はもちろん海外でも広く行われています。
胃がんでもTS-1の代わりにゼローダを用いることがありますが、圧倒的にTS-1のほうが認知度や浸透度が高く臨床効果のデータも集積されています。
そのためTS-1を優先して使う医師のほうが多いですが、ゼローダはハーセプチンと併用すると高い効果を示すことが臨床試験で分かっているため、HER2陽性の場合はゼローダを使うことが一般的になりつつあります。
二次治療で使われる薬は?
一次治療にて治療が開始されますが、副作用の度合が強い、効果があまりない、効果があったが薬の耐性により薄れてきた・・・という場合は二次治療に移行します。
一次治療の効果があり、副作用が許容できる範囲であればできるだけ継続することが原則ですが、そうでなければ一次治療は諦めて二次治療に移る、というわけです。
これまでの標準治療では二次治療において
・タキソール
・タキソテール
・イリノテカン
をそれぞれ単独で使うことが一般的でした。順序は特に決まっていません。先にタキソールを使って次にイリノテカン、というケースもあれば逆のケースもあります。順序は医師の判断によって決められています。
近年では分子標的薬の「サイラムザ」がこのリストに加わりました。
サイラムザはタキソールと併用して使われることが一般的です。臨床試験では「サイラムザ+タキソール」がタキソール単独よりも生存期間の延長がみられています。
サイラムザとはどんな薬か?
サイラムザは分子標的薬の1つで「血管新生阻害薬」にカテゴリされます。
がん細胞は新たに血管を作りながら増殖を図るのですが、この「血管を新しく作る」という行動を阻害する作用があります。
胃がんでは高い効果を示すため(腫瘍が50%以上縮小する確率が40%程度)非常に大きな期待をされている薬です。しかし、出血をしやすい、血栓症になりやすい、血圧が上昇するなどの副作用があります。
そのため心臓に問題があったり、高血圧の人には使われないこともあります。このような既往症がなければ二次治療としてサイラムザを使うことに問題ありません。特にサイラムザでは脱毛が起きないので、女性の患者さんには大きな選択肢となっています。
胃がんにオプジーボが使える可能性も
肺がん、メラノーマなどで使われている免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」の承認申請が2016年末に提出されました。
承認されれれば、標準治療の一端を担う可能性があります。