放射線治療の目的はがん病巣を消滅させることですが、そのためにがん病巣に放射線を集中させなければなりません。
どうすれば集中できるのでしょうか。
1つの大きなポイントは適した照射の方法を選択することです。
放射線を外部から照射する方法ではさまざまな方向からがん病巣をめがけて照射します。
皮膚がんなど表在性腫瘍の治療法には電子線が用いられます。照射法は1門照射です。いっぽうで体内の深部(肺や膵臓など)に存在するがんにはエックス線が用いられます。
つまり外部照射法といっても決まった1つの方法を用いるのではなく、疾患に応じてさまざまな方法が用いられます。
大きさが約3センチメートル以下の肺がんや脳腫瘍には、定位放射線治療法が威力を発揮する、などが分かっています。
定位放射法治療法以外にもざっと挙げると1門照射法、対向2門照射法、多門照射法、回転照射法、原体照射法、強度変調照射法(IMRT)などの方法があります。
この中で特に注目されている照射法は強度変調照射法(IMRT)です。
がん病巣には毎回、高い精度で照射していかなければなりません。そのために、照射部位が正確かどうかを画像みて確認する必要がなります。
画像で検証するためには、画像誘導放射線治療法が用いられます。この方法は強度変調照射法(IMRT)と組み合わされて用いられますが、すべてのがん治療で適用される訳ではありません。
たとえば、肺がんには、この強度変調照射法は放射線肺臓炎が誘発されるためにおこなわれません。
また、画像誘導放射線治療法の欠点として、放射線被ばくがあります。被ばく線量は、がんの処方線量に比べてはるかに低い線量ですので被ばくの問題点はまだ取り上げられていません。しかし今後、長期経過後の問題などが起きてくる可能性があります。
陽子線、重粒子線を選べばよい、ということでもない
放射線治療の違いは、「どのくらいの線量を、どのように当てるか」の違いだといえます。
より高度な先進医療として陽子線治療、重粒子線治療、中性子捕捉療法が期待されています。
エックス線は、定位照射などがん治療に1番利用されている放射線です。いっぽうで陽子線と重粒子線は粒子線の仲間です。この放射線とエックス線との大きな違いは、爆発的なエネルギーを放出する部分ができるところです。
これをブラッグピークと呼んでいます。
がん病巣にこのブラッグピークを合わせれば、細胞の損傷はいっそう大きくなります。しかもブラッグピークの前後は放射線量は低いので、正常組織の障害を少なくすることができるといわれています。
つまり合併症や副作用が少なく、強力にがんを攻撃できるのです。
しかし、がん病巣はある程度の大きさがあるので、ブラッグピークとなる部分は拡大しなければ、実際の治療に用いることはできません。そこで、重粒子線治療装置では、リッジフィルタと呼ばれる器具を用いて、拡大ブラッグピークを作ります。
そうすると、がん病巣全体に高い線量を照射することができますが、必然的に人体表面の線量も高くなります。その結果、正常組織は多量の放射線に曝されることになります。
この方法では正常組織の損傷が大きくなるので、やはり一定以上の線量を照射することはできません。線量に限界ができることはエックス線治療の場合と同じです。したがって、重粒子線治療は決してリニアックなどのエックス線治療よりも優れているとはいい切れないのです。
こういう事実を知らずに、マスコミを通じて重粒子線治療でがんが治ったという報道を聞くことがありますが、照射後にしばらくして、やはり再発したということも耳にします。
重粒子線治療は特別に治療効果がもたらされる方法ではありません。多くの選択肢の1つであり、適合性が高ければ高い効果を発揮しますが、これだけが特別な方法で、なんにでもよく効く、というわけではないのです。
以上、がんの放射線治療についての解説でした。
がんと診断されたあと、どのような治療を選び、日常生活でどんなケアをしていくのかで、その後の人生は大きく変わります。
納得できる判断をするためには正しい知識が必要です。