【レジメン】
Atezolizumab(テセントリク(アテゾリズマブ))=1,200mg:点滴静注(初回60分※2回目以降30分)
基本事項
【適応】
切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん
【奏効率】(IMpower11O試験(一次治療))
・無増悪生存期間(中央値)
8.1カ月
・全生存期間(中央値)
20.2カ月
・奏効率
38.3%
【奏効率】(OAK試験(ニ次治療))
・無増悪生存期間(中央値)
2.8カ月
・全生存期間(中央値)
13.8カ月
・奏効率
14.0%
【副作用】(IMpower11O試験)
・貧血:All Grade=15.4%、Grade3以上=1.7%
・疲労:All Grade=12.9%、Grade3以上=0.7%
・食欲減退:All Grade=15.4%、Grade3以上=0.7%
・悪心:All Grade=13.6%、Grade3以上=0.3%
・下痢:All Grade=11.2%、Grade3以上=0%
・発熱:All Grade=13.6%、Grade3以上=0%
・肝炎:All Grade=5.8%、Grade3以上=2.6%
・皮疹:All Grade=15.4%、Grade3以上=1.0%
・甲状腺機能亢進/低下:All Grade=4.5%/9.4%、Grade3以上=0%
・間質性肺疾患:All Grade=3.8%、Grade3以上=0.7%
・大腸炎:All Grade=1.0%、Grade3以上=0.7%
・Infusion reaction(注入に伴う反応):All Grade=1.4%、Grade3以上=0%
レジメンチェックポイント
①PD-L1発現の有無等の確認
一次治療(IMpower11O試験)においては、PD-L1強陽性(腫瘍細胞または腫瘍浸潤免疫細胞におけるPD-L1発現率がそれぞれ50%以上または10%以上と判定された)に対しての有効性が認められている。一方、二次治療(OAK試験)においては、PD-L1の発現の有無にかかわらず有効性が認められている
※臨床試験においては、遺伝子異常(EGFR遺伝子変異またはALK融合遺伝子)がある患者は、その遺伝子異常に対する治療歴がある場合は組み入れられていた。しかし、遺伝子異常がある患者を除外した集団で有効性が認められていることに留意する
②投与速度の確認
60分かけて点滴静注。なお、初回投与の忍容性が良好であれば、2回目以降の投与時間は30分間まで短縮できる
③副作用に対するAtezolizumab休薬・中止基準の確認
・間質性肺疾患等の呼吸器障害
Grade2:Grade1以下に回復するまで、本剤を休薬する。12週間を超える休薬後もGrade1以下まで回復しない場合には、本剤を中止する
Grade3以上または再発性:本剤を中止する
・肝機能障害
Grade2(ASTもしくはALTが基準値上限の3倍超かつ総ビリルビンが基準値上限の1.5倍超かつ3倍以下の増加)が5日を超えて継続する場合:Grade1以下に回復するまで本剤を休薬する。12週間を超える休薬後もGrade1以下まで回復しない場合には本剤を中止する
Grade3以上(ASTもしくはALTが基準値上限の5倍超または総ビリルビンが基準値上限の3倍超に増加):本剤を中止する
・大腸炎/下痢
Grade2または3:Grade1以下に回復するまで本剤を休薬する。12週間を超える休薬後もGrade1以下まで回復しない場合には本剤を中止する
Grade4:本剤を中止する
・膵炎
Grade3以上のアミラーゼまたはリパーゼ高値/Grade2または3の膵炎:Grade1以下に回復するまで本剤を休薬する。12週間を超える休薬後もGrade1以下まで回復しない場合には本剤を中止する
Grade4または再発性の膵炎:本剤を中止する
・内分泌障害
Grade3以上の高血糖:血糖値が安定するまで本剤を休薬する
症候性の甲状腺機能低下症/症候性の甲状腺機能亢進症または甲状腺刺激ホルモン値0.1mU/L未満の無症候性の甲状腺機能亢進症:左記の状態が回復するまで本剤を体薬する
Grade2以上の福神機能不全:Grade1以下に回復するまで本剤を休薬する。12週間を超える休薬後もGrade1以下まで回復しない場合には本剤を中止する
Grade2または3の下垂体炎/Grade2または3の下垂体機能低下症:Grade1以下に回復するまで本剤を休薬する。12週間を超える休薬後もGrade1以下まで回復しない場合には本剤を中止する
Grade4または再発性の下垂体炎/Grade4または再発性の下垂体機能低下症:本剤を中止する
・脳炎、髄膜炎
全Grade:本剤を中止する
・神経障害
Grade2:Grade1以下に回復するまで本剤を休薬する。12週間を超える休薬後もGrade1以下まで回復しない場合には本剤を中止する
Grade3以上:本剤を中止する
全Gradeのギラン・バレー症候群:本剤を中止する
・重症筋無力症
全Grade:本剤を中止する
・皮膚障害
Grade3:Grade1以下に回復するまで本剤を休薬する。12週間を超える休薬後もGrade1以下まで回復しない場合には本剤を中止する
Grade4:本剤を中止する
・腎炎
Grade2:Grade1以下に回復するまで本剤を休薬する。12週間を超える休薬後もGrade1以下まで回復しない場合には本剤を中止する
Grade3以上:本剤を中止する
・筋炎
Grade2または3:Grade1以下に回復するまで本剤を休薬する。12週間を超える休薬後もGrade1以下まで回復しない場合には本剤を中止する
Grade3の再発またはGrade4:本剤を中止する
・心筋炎
Grade2:Grade1以下に回復するまで本剤を休薬する。12週間を超える休薬後もGrade1以下まで回復しない場合には本剤を中止する
Grade3以上:本剤を中止する
・眼障害
Grade2:Grade1以下に回復するまで本剤を休薬する。12週間を超える休薬後もGrade1以下まで回復しない場合には本剤を中止する
Grade3以上:本剤を中止する
・Infusion reaction
Grade1:投与速度を50%に減速する。なお、軽快した後30分間経過観察し、再発しない場合には投与速度を元に戻すことができる
Grade2:投与を中断し、軽快後に投与速度を50%に減速し再開する
Grade3以上:本剤を直ちに中止する
副作用対策と服薬指導のポイント
免疫チェックポイント阻害薬では、頻度は高くないものの多岐にわたる免疫関連有害事象(irAE)が報告されており、それぞれの特徴や初期症状を指導して、早期に発見・対処することが重要である。
irAEとしては、間質性肺疾患、重症筋無力症、大腸炎、1型糖尿病、肝機能障害、甲状腺機能障害、神経障害、腎障害などが報告されており、発現時には速やかに専門医への相談を検討する必要がある。irAEの早期発見のためには、通常の検査項目に加えて、心電図・胸部X線・血糖・甲状腺機能・副腎皮質機能検査など、医療機関内であらかじめ取り決めをしておくことも重要である。また、本剤投与終了後に重篤な副作用があらわれることもあるので、本剤投与終了後も観察を十分に行う
①間質性肺炎:急性肺障害、間質性肺疾患があらわれることがあるので、患者には初期症状(息切れ、呼吸困難、咳嗽、発熱などの有無)を伝え、早期の医療機関への受診について指導する。
Grade2の場合には、副腎皮質ステロイド(初回用量:プレドニゾロン換算1~2mg/kg)の投与を考慮する。Grade3~4の重篤な症状の場合で、ステロイドパルス療法などの治療にて48時間を超えても症状が改善しない場合には、適応外使用であることを留意のうえ、免疫抑制薬(インフリキシマブ、シクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチルなど)の投与を考慮する
②大腸炎・重度の下痢:脱水予防のための水分摂取について説明するとともに、症状の急激な悪化または遷延時の医療機関への受診について指導する。
止瀉薬であるロペラミドを投与する場合は、irAEによる下痢をマスクする可能性があるため使用には十分注意が必要である。Grade3以上の重症およびGrade2でも遷延する場合にはステロイド、またはインフリキシマブ5mg/kg(保険適用外)の投与を考慮する。ただし、腸穿孔、敗血症などの合併時にはインフリキシマブ投与は勧められない
③1型糖尿病:劇症1型糖尿炳の報告もされているため、口渇、多飲、多尿などの高血糖症状や激しい倦怠感、悪心嘔吐などの糖尿病性ケトアシドーシス症状および早期の医療機関への受診について指導する。
1型糖尿病が疑われる場合には、専門医と連携するとともに本剤の投与を中止し、補液や電解質補充、インスリン投与を開始する。ステロイドの使用にはエビデンスはなく推奨されていない
④甲状腺機能障害:比較的頻度の高いirAEであること、甲状腺機能亢進症(動悸、発汗、暑がり、軟便、体重減少、不眠、振戦、眼球突出)および甲状腺機能低下症(易疲労、脱力感、寒がり、便秘、体重増加、徐脈、眼瞼浮腫、こむら返り、嗄声)の症状を説明する。
甲状腺機能障害は、破壊性甲状腺炎に伴う甲状腺機能亢進症を経由して甲状腺機能低下に至る症例も報告されている。甲状腺機能障害は、無症状で進行することもあるため、甲状腺刺激ホルモン(TSH)・遊離T3・遊離T4を定期的に測定することを考慮する。なお、副腎機能障害が併発している場合、ヒドロコルチゾンの投与を先行させる
⑤副腎皮質機能低下症:コルチゾール欠乏に伴う易疲労性、食欲不振、消化器症状などやアルドステロン欠乏に伴う低ナトリウム血症、高カリウム血症、低血圧などの症状を伝え、自覚する場合には早期の医療機関への受診について指導する。
副腎皮質機能低下を疑う場合には、ACTH、コルチゾールを測定し、内分泌専門医と連携するとともに、ヒドロコルチゾン10~20mg/日より開始し、患者の状態に合わせて調節する。ヒドロコルチゾン開始後は、副腎クリーゼ予防のために自己判断で中断しないことを説明する。また、発熱等で普段と違うストレスがかかる場合には、ヒドロコルチゾンを通常の1.5~3倍量服用するなど、対応方法を事前に確認しておく必要がある