がん治療においては、様々な臨床試験が行われています。では、臨床試験とはどのようなものなのでしょうか?
臨床試験は新しい薬や治療法の有効性や安全性を、実際に患者さんに協力してもらって確かめるものです。
患者さんが受けるリスクや利益は、それぞれの試験の内容によって大きく異なります。例えば全く新しいタイプの新薬の臨床試験では劇的な効果も期待できるいっぽうで、不測のリスクもあります。いっぽう、すでに他の部位のがんで使われている薬をテストする臨床試験もあります(例えば胃がんで使われていた薬を肺がんで使う、など)。
臨床試験の目的や効果、リスクなどの説明を十分受けて納得できれば、参加する、という形が理想的です。強要はされませんが、参加するには条件を満たす必要がありますので「やりたい」といってもできない場合があります。
臨床試験はなぜ必要なのか
臨床試験の目的は、新しく開発された薬や新しく考案した治療法が実際に「人間の病気にどれくらい効くか」、「副作用はどの程度なのか」を調べることです。
臨床試験をせずに薬や治療法が世に出てしまうと、思いもかけない副作用で大勢の人が被害を受けたり、効きもしない薬にお金を使うことになります。
現在使われている薬や標準とされている治療法は、臨床試験を重ねることで開発されたものです。治療法は患者の協力と長い年月をかけた調査と研究によって少しずつ進歩します。医学の発展には不可欠な取り組みだといえます。
臨床試験はどのように実施されるのか
臨床試験は人間を対象にした実験ともいえますが、参加する患者が不当に大きな被害を受けたりしないように、そして科学的に信頼できる結果が得られるように、さまざまなルール(法律としては薬事法、ガイドラインとしては「臨床研究に関する倫理指針」があります)が設けられています。
臨床試験には大きく分けて、
①製薬会社が新しい薬を市販するために必要なデータを集めるための「治験」と呼ばれる試験
②医師・研究者が中心となって、市販されている薬を組み合わせてよりよい治療法を開発するための試験があります。
それぞれの臨床試験にはいくつかの段階があり、まず数人の患者さんを対象にどれくらいの量を投与できるかを調べて、適切な投与量を決め(第Ⅰ相試験)、次に数十人の患者さんを対象にどれくらいの効果があるか、副作用はどの程度かを調べます(第Ⅱ相試験)。
ここで効果があることが確認されたものは、数百人の患者さんを対象に現在最もよいとされている治療(標準治療)と新治療をランダムに割り付けて、どちらがどれくらいよいかを比べられるのです(第Ⅲ相試験)。
製薬会社が抗がん剤を開発する場合の試験(治験)は、第Ⅱ相試験まで実施して、厚生労働省に製造承認の申請を行い、承認されれば市販されます。
薬が市販された以降は、現場の医師や研究者が中心となって、市販後の薬を組み合わせてよりよい治療法を開発するための試験(市販後の医師主導の臨床試験)を行います。
臨床試験の評価方法
通常、治療効果の判定としてはこのような指標が用いられます。
1.著効(CR、complete response)
2.有効(PR、partiaIr esponse)
3.不変(NC、no change)
4.進行(PD、progressive disease)
実施された治療法により、具体的にどのような変化(効果)がみられたかにより、これら4つのどれに分類できるのかを決定します。
がんの治療に限らず、有効性の科学的な評価は、治療効果を示す客観的事実をみて信頼性があるかどうかによって決められます。その信頼性を評価をするため、最終的には、新しく考案された治療法(例えば新薬)を患者に実施して、効果を試さなければなりません。
試験管内の細胞実験や動物実験の結果だけでは、実際の患者に広く治療法として用いることは許されていません。実際に新しい治療法を患者に試してみることを治療試験(=治験)といいます。人間以外の動物で科学的にがん治療法としての価値が認められている治療法に限って、実際の人間に応用される治験許可が与えられるしくみです。
信頼性が最も高いとされているのが「二重盲検無作為抽出比較試験」という治験の方法です。これは治験の対象者をランダムに2つのグループに分け、1つのグループにはプラセボ(偽の薬)を投与、もう1つのグループに効果を実証したい薬を投与するという方法です。いっぽうで「効果があったとされる患者の症例報告」などは信頼性に乏しいとされます。
臨床試験に参加するメリット
臨床試験の内容によって、参加する患者にもたらされるリスクや利益はさまざまです。
例えば治験では、市販前の薬を使うので、その薬が良いものであった場合には早く使えることや、薬剤や検査の費用が無償で提供されることがあります。しかし第Ⅰ相試験のように、まだ人での経験が少ない段階の場合では、予期しない副作用が出る可能性もあります。
一方、市販後の薬剤を組み合わせてよりよい治療を開発するための試験では、市販されている薬を使うため、効果や副作用についてはデータが揃っていて実験的な部分はほとんどありません。標準的な治療と同じくらいかそれ以上に有益な治療が受けられますが、試験に参加しなくても受けられる場合も多いので、試験に参加することによる利益はあまりありません。
しかし、抗がん剤を用いた治療では、薬を1つだけ使ったのでは効果が限られることが多く、より高い効果を期待するためには、効き方の違う薬を組み合わせる必要があります。
臨床試験への参加を依頼されたら?
臨床試験はそれぞれに目的があるので、前提となる条件・基準があります。それに合致した人だけに参加要請があります。
臨床試験ヘ参加を依頼された場合は治験か市販後の臨床試験か、どのような段階の試験か、目的や方法、利益やリスクなどについて詳しく話を聞いて、「参加する意味がある」と判断したときに参加しましょう。
臨床試験の説明を受ける際には、詳しい説明文書がもらえますし、臨床試験コーディネータと呼ばれる専門の人がいる場合があるので、相談するとよいです。
よくある質問は次のとおりです。
1.臨床試験の目的は何ですか。実験的な部分(市販前の薬か、すでに他のがんでの有効性が確かめられているかなど)はどんなところですか
2.具体的な内容はどんなものですか(どんな薬をどれくらいか、入院か外来かなど)
3.リスク(副作用など)や利益は何ですか
4.目に見えないリスク(お金や仕事を休むことなど)は何ですか
5.試験に参加しないときの治療は何ですか、それらと比べて何がよいですか
臨床試験への参加は強制ではなく患者の自由です。断ったら医師と気まずくなるとか、病院で診てもらえないのではと思うかもしれませんが、そのようなことはありません。また参加した場合でも、理由がどうであれ途中でやめることも可能です。
以上、臨床試験についての解説でした。