がん専門のアドバイザー、本村です。
キチン・キトサンとは、カニの殻などから抽出される不溶性の食物繊維のことをいいます。現在では製品化され、主にサプリメントとして販売されています。
キチンをさらに加工したものをキトサンといいますが、キトサンの中にはキチンも含まれていることから、一般的には「キチン・キトサン」として扱われています。
現在、キトサンを関与成分として、「コレステロールの高い方または注意している方の食生活の改善に役立ちます」などの表示が許可された特定保健用食品があります。
キチン・キトサンと癌との関連
キチン・キトサンに関する科学的検証、特に人間に対する臨床試験という形で、キチン・キトサンの効果はどこまで検証されているのでしょうか。
「研究報告」はどんな機関や会社でも自由に報告することができますし、学会での発表も「発表だけ」ならどんな内容でも(ある程度限度はありますが)可能です。
重要な要素となるのは論文での報告ですが、論文は「どこに掲載されているものか」がとても重要です。
世界的な論文掲載機関といえるのは、アメリカ国立衛生研究所のアメリカ国立医学図書館(NLM)によるPubmed(パブメド)です。
ここに掲載される論文は医学的に信用できるものとされており、現役の医大生、医師などもこれを利用しています。
さて、Pubmedでの検索の結果、重複している文献を省いたり、キチン・キトサンによる抗がん効果やがん患者のQOLの改善を検討している論文だけを選び出したりすると、最終的には2件の論文が該当しました。
キチン・キトサンを癌患者さんが摂取したときの臨床試験
1つめは2002年に発表された論文について説明します。
この臨床試験では、がんによる痛みの症状を抱えた14名のがん患者さんにモルヒネ(痛み止め)とキトサンの合成製剤を鼻から投与して、痛みの症状軽減への効果を検討しています。
一般的に、がんによる痛みに対してモルヒネが使われることは多いのですが、口からモルヒネが投与された場合、効果を発揮するまでの時間がかかることがありました。
一方でモルヒネ単独では鼻から投与しても吸収される率が悪いことなどの理由から、鼻からの投与は行われていませんでした。しかし、この臨床試験では、モルヒネとキトサンの合成製剤を用いることで、鼻からの投与が可能となり効率的に痛みの軽減効果を得ることができたとしています。
2つめは、2006年に発表された論文で報告されている臨床試験です。
この臨床試験では、肝細胞がん患者さん40名に血管からキトサンが結合した放射性物質を投与して、がんの治療効果を判定するとともに安全にこの治療が行えるかどうかを検討しています。
その結果、大きさが比較的小さい肝細胞がんに対しては、有効性と安全性を確認できたとしています。
しかし、この臨床試験では、他の治療法を行った患者との比較などは行っていないため、この治療法がどこまで有効でどこまで安全なのか断定はできません。
キチン・キトサンによる副作用や健康被害
Pubmedで調べた文献の中では、キチン・キトサンが原因と思われる健康被害の報告はありません。
また、キチン・キトサンの安全性について、独立行政法人「国立健康・栄養研究所」のホームページ内にある「健康食品の安全性・有効性情報」の項目には以下のように記載されています。
・キチン=「ヒトでの安全性については信頼できるデータは見当たらない」
・キトサン=「安全性については、経口摂取、および外用で安全性が示唆されているが、妊娠中・授乳中の安全性については十分なデータがないことから使用は避けることとされている」。
このように摂取に関して大きな問題があるとはされていません。
キチン・キトサンが、がん患者さんに与える影響
【QOL(生活の質)を改善するか?】
キチン・キトサンを摂取することによって、QOL(生活の質)を改善することを人間を対象とした臨床試験で証明した報告は、現段階ではありません。
しかし、キトサンとモルヒネの合成製剤は、鼻からの投与が可能で、効率的ながんによる痛みの軽減に役立つ可能性があるので、QOLの改善につながることはあるかもしれません。
【手術、抗がん剤、放射線治療の副作用や後遺障害を軽減するか?】
キチン・キトサンを摂取することによって、手術、抗がん剤、放射線治療の副作用や後遺障害の軽減を人間の臨床試験で証明した報告は、現段階ではありません。
【再発を予防したり、生存期間を延長したりするか?】
キチン・キトサンを摂取することによって、再発を予防したり、生存期間を延長したりすることを人間を対象とした臨床試験で証明した報告は、現段階ではありません。
キトサンが結合した放射性物質を肝細胞がんの患者に血管から投与した臨床試験の報告がありますが、この報告からだけでは、再発を予防できるのか、生存期間を延長できるのかは分かりませんし、現在はこのような放射線物質を用いる医療機関はないと思われます。