
ベンダムスチン(トレアキシン)
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
濾胞性リンパ腫は、非ホジキンリンパ腫に分類される悪性リンパ腫の一種です。日本では悪性リンパ腫全体の10~20%を占め、近年増加傾向にあります。年間の罹患者数は約5,000~9,000人と推定されています。
この記事では、濾胞性リンパ腫の特徴、ステージ分類、検査方法、そして2025年以降の最新治療法と新薬について詳しく説明します。
濾胞性リンパ腫の基本的な特徴
濾胞性リンパ腫は、白血球の一種であるBリンパ球ががん化してできるリンパ腫です。リンパ節の中にある「リンパ濾胞」という部分に由来することから、この名前が付けられています。
進行速度による分類
悪性リンパ腫は進行の速度によって分類されます。シンプルに説明すると以下のような3分類になっています。
| 分類 | 進行速度 |
|---|---|
| 高悪性度 | 数日から数週間で進行 |
| 中悪性度 | 数週間から月単位で進行 |
| 低悪性度 | 月から年単位で進行 |
濾胞性リンパ腫は「低悪性度」に分類されます。進行が緩やかで、年単位でゆっくりと進行するため「インドレントリンパ腫」とも呼ばれます。急激に進行するケースはほとんどありません。
診断時の病期について
進行が遅いことは一見良いことのように思えますが、実際には注意が必要です。その理由は、濾胞性リンパ腫だと分かったときには既に進行していることが多いからです。
初期の状態では「リンパ節の腫れ」が起きますが、これは自覚症状がありません。痛みや違和感を感じることが少なく、気が付いた時には進行している(ステージIIIや4の段階になっている)ケースがほとんどです。
診断時には70~85%の患者さんが進行期(ステージIII・IV期)の状態であり、約半数は骨髄にまでリンパ腫細胞が浸潤しているステージIVの段階で告知されています。
濾胞性リンパ腫のステージ分類
濾胞性リンパ腫の病期分類には「Ann Arbor分類」が用いられます。これは、リンパ腫の広がりによって4つの段階に分類する方法です。
Ann Arbor分類の4段階
| ステージ | 病変の広がり |
|---|---|
| I期 | 単独のリンパ節領域、または単独のリンパ外臓器に限局した病変 |
| II期 | 横隔膜の同じ側(上半身または下半身)にある2つ以上のリンパ節領域の病変 |
| III期 | 横隔膜の両側(上半身と下半身)にわたるリンパ節領域の病変 |
| IV期 | 1つ以上のリンパ外臓器に広範囲に病変が及んでいる状態 |
病期I期・II期のように広がりが限定的な場合を「限局期」といい、より広範囲にリンパ腫が広がった病期III期・IV期を「進行期」といいます。濾胞性リンパ腫では、診断時に進行期となっている患者さんが3分の2以上を占めます。
予後予測に用いられる指標
濾胞性リンパ腫では、病期以外にも予後を予測する指標があります。
FLIPI(濾胞性リンパ腫国際予後指標)とFLIPI2という2つの予後予測モデルが広く使われています。これらは、年齢、病期、血液検査の結果(LDH値、ヘモグロビン値、β2ミクログロブリン値など)、リンパ節病変の数や大きさなどの予後因子を組み合わせて、患者さんのリスクを評価するものです。
| リスク分類 | 該当する予後因子の数 | 5年生存率の目安 |
|---|---|---|
| 低リスク | 0~1個 | 90%以上 |
| 中間リスク | 2個 | 70~80%程度 |
| 高リスク | 3個以上 | 50~60%程度 |
近年の治療の進歩により、濾胞性リンパ腫の10年生存率は約80%まで改善しており、生命予後に直接影響しない症例も増えつつあります。
「自分の判断は正しいのか?」と不安な方へ
がん治療。
何を信じれば?
不安と恐怖で苦しい。
がん治療を左右するのは
治療法より“たった1つの条件”です。
まず、それを知ってください。
がん専門アドバイザー 本村ユウジ
濾胞性リンパ腫の検査方法
濾胞性リンパ腫の診断と病期の判定には、さまざまな検査が行われます。
確定診断のための検査
診断の確定には「リンパ節生検」が最も重要です。腫れているリンパ節の一部または全体を切り取って、採取した組織を顕微鏡で観察します。同時に、染色体検査や細胞表面マーカー検査も行います。
濾胞性リンパ腫では、染色体検査で14番目と18番目の染色体に異常(転座)がみられることが特徴です。また、細胞表面マーカー検査では、CD10、CD20という抗原が認められます。
病気の広がりを調べる検査
診断が確定した後は、病気の広がりや全身の状態を詳しく調べるために以下の検査を行います。
血液検査では、白血球数、赤血球数、血小板数などの血球算定のほか、LDH(乳酸脱水素酵素)、β2ミクログロブリンなどの値を測定します。これらは予後予測にも使われる重要な指標です。
画像検査としては、CT検査やPET-CT検査が行われます。特にPET-CT検査は、全身のリンパ腫の広がりを一度に把握でき、病期診断や治療効果の判定に有用です。濾胞性リンパ腫はFDG(放射性ブドウ糖)が集まりやすいタイプのリンパ腫であるため、PET-CT検査で病変を明瞭に描出できます。
骨髄検査(骨髄穿刺・骨髄生検)も重要な検査です。濾胞性リンパ腫では骨髄浸潤の頻度が高く、40~70%の患者さんで骨髄にリンパ腫細胞が認められます。腰の骨(腸骨)に針を刺して骨髄液や骨髄組織を採取し、リンパ腫細胞の有無を調べます。
濾胞性リンパ腫の治療方針
基本的な治療の考え方
濾胞性リンパ腫は、他のリンパ腫と比べて化学療法が効きにくいという特徴があります。一度寛解(がんが消失した状態)したように見えても、体内にリンパ腫細胞が残っており、再発することが多いのが特徴です。
そのため、他のリンパ腫での「がんを完全に死滅させ、治癒を目指す」という治療方針とは異なり、「完全治癒を期待せずに、時間をかけて進行を抑え、できるだけ長く元気に生活できることを目指す」という方針になります。つまり、リンパ腫が存在することはやむを得ないとして、長期的に病気と付き合っていくアプローチです。
腫瘍量による治療方針の違い
診断された段階での症状や腫瘍の状態によって、治療方針が異なります。
低腫瘍量(症状がほとんどない、腫瘍が小さい、数も少ない)の場合は、積極的な化学療法を行わずに経過観察(watchful waiting)を選択することもあります。GELF基準やBNLI基準という治療開始基準を用いて、治療が必要かどうかを判断します。
| GELF基準(以下のいずれか1つ以上で高腫瘍量) |
|---|
| 最大長径7cm以上の病変 |
| 長径3cm以上の腫大リンパ節領域が3つ以上 |
| B症状(発熱、寝汗、体重減少) |
| 臍線より下に及ぶ脾腫 |
| 胸水または腹水の貯留 |
| 臓器圧迫症状 |
| 骨髄機能障害 |
早期に化学療法を行うデメリットとして、使える薬剤に耐性ができて将来的に使えなくなる可能性があること、進行が遅く薬が効きにくいため、症状がない段階では副作用を受けるだけになってしまうことが挙げられます。
高腫瘍量(症状が出ている、大きな腫瘍がある、数も複数に及ぶ)の場合には、抗CD20抗体を含む化学療法を行います。
濾胞性リンパ腫の最新治療法(2026年版)
初回治療の標準的レジメン
進行期の高腫瘍量濾胞性リンパ腫に対しては、抗CD20抗体と化学療法の併用が標準治療です。
代表的な治療法として以下があります。
R-CHOP療法:リツキシマブ(リツキサン)、シクロホスファミド(エンドキサン)、ドキソルビシン(アドリアシン)、ビンクリスチン(オンコビン)、プレドニゾロンを組み合わせた多剤併用療法です。
R-CVP療法:R-CHOPからドキソルビシン(アドリアシン)を抜いた組み合わせです。ドキソルビシンは効果が高い一方で副作用も強いため、心臓への負担が懸念される患者さんなどで選択されます。
BR療法:ベンダムスチン(トレアキシン)とリツキシマブの組み合わせです。R-CHOPと同等の治療効果がありながら、脱毛が少なく、末梢神経障害がないという特徴があります。ただし、骨髄抑制が強く現れ、リンパ球減少の程度が強いため、感染症のリスクは高くなります。
オビヌツズマブ併用療法:リツキシマブと同様の抗CD20抗体であるオビヌツズマブ(ガザイバ)と化学療法を併用する方法です。リツキシマブよりも無増悪生存期間が優れることが示されていますが、全生存期間には差がありません。輸注反応、好中球減少症、感染症の頻度が高いことに注意が必要です。
治療によって寛解が得られた後は、再発や再燃を防ぐ目的でリツキシマブを単独で使い続ける「維持療法」が行われることがあります。約2か月に1回、2年間定期的に投与します。
再発・難治性に対する治療選択肢
濾胞性リンパ腫は再発を繰り返すことが多く、再発時の治療選択肢が重要です。2025年以降、再発・難治性濾胞性リンパ腫に対する治療選択肢は大きく広がっています。
リツキシマブ単剤療法や、リツキシマブとレナリドミド(レブラミド)の併用療法などが選択されます。
EZH2阻害薬(タゼメトスタット):濾胞性リンパ腫の患者さんの約2割にEZH2遺伝子の機能獲得型変異が認められます。2ライン以上の前治療歴のある再発・難治性症例で、EZH2変異が陽性であれば、タゼメトスタット(タズベリク)も治療の選択肢となります。
2025年以降に登場した画期的な新薬
抗CD20/CD3二重特異性抗体
2025年には、再発・難治性濾胞性リンパ腫に対する新たな治療選択肢として、2つの二重特異性抗体が日本で承認・発売されました。
モスネツズマブ(ルンスミオ):2025年3月に国内で発売が開始されました。B細胞上のCD20とT細胞上のCD3を同時に標的とする二重特異性抗体です。過去に少なくとも2つの標準治療を受けたことのある再発・難治性の濾胞性リンパ腫の患者さんが対象です。
この治療の特徴は、単剤で高い完全奏効割合と持続的な寛解が期待できること、投与期間があらかじめ定められている(fixed duration)ため、従来の長期間の継続投与や入院を必要とする治療と異なり、患者さんの治療負担を軽減できることです。
エプコリタマブ(エプキンリ):2023年9月に国内で承認されました。同様にCD20とCD3を標的とする二重特異性抗体で、皮下投与が可能という特徴があります。2回以上の全身療法後に再発または難治性となった濾胞性リンパ腫グレード3Bに対する治療薬として承認されています。
これらの二重特異性抗体は、従来の化学療法とは異なる作用機序で、患者さん自身のT細胞を活性化してリンパ腫細胞を攻撃させる治療法です。サイトカイン放出症候群などの特徴的な副作用に注意が必要ですが、再発を繰り返す患者さんにとって重要な治療選択肢となっています。
CAR-T細胞療法
チサゲンレクルユーセル(ブレヤンジ)は、患者さん自身のT細胞を取り出して、がん細胞を攻撃するように遺伝子改変を加えてから体内に戻す「CAR-T細胞療法」です。
2024年8月には効能・効果が拡大され、従前のグレード3Bに加えて、グレード1、2、3Aの再発・難治性濾胞性リンパ腫にも使用できるようになりました。2ライン以上の治療歴のある再発・難治性濾胞性リンパ腫に対して有効性が示されています。
CAR-T細胞療法は画期的な治療法ですが、極めて高額な医薬品であるため、最適使用推進ガイドラインによって使用可能な医療機関や対象患者の要件が定められています。サイトカイン放出症候群や神経毒性などの特徴的な副作用があり、集中管理が必要な重篤例も報告されるため、専門的な施設での治療が必要です。
形質転換した場合の治療
濾胞性リンパ腫の患者さんの一部(年間約2%)では、より進行の速いびまん性大細胞型B細胞リンパ腫への「形質転換」が起こることがあります。形質転換後の予後は不良ですが、R-CHOP療法などの化学療法で奏効が得られた場合、若年者では自家移植併用大量化学療法を実施することで全生存期間の延長が期待できます。
また、形質転換後の再発・難治例に対しても、CAR-T細胞療法や二重特異性抗体療法が有効性を示しており、新たな治療選択肢として重要です。
濾胞性リンパ腫と向き合うために
濾胞性リンパ腫は、進行が緩やかで長期生存が期待できる一方、再発を繰り返す特徴があります。そのため、病気と長期的に付き合っていくという考え方が重要です。
近年の治療の進歩により、10年生存率は約80%まで改善し、生命予後に直接影響しない症例も増えています。特に2025年以降は、二重特異性抗体やCAR-T細胞療法など、新たな治療選択肢が加わり、従来の予後不良群においても予後の改善が進んでいます。
診断を受けた際には、担当医とよく相談し、ご自身の病期や腫瘍量、年齢、全身状態などを考慮した上で、最適な治療方針を決定することが大切です。また、経過観察が選択された場合でも、定期的な検査を受けて病状の変化を把握することが重要です。
濾胞性リンパ腫の治療は個々の患者さんの状態によって異なります。わからないことや不安なことがあれば、遠慮せずに医療チームに相談しましょう。
参考文献・出典情報
- 日本血液学会. 造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版)濾胞性リンパ腫
- 国立がん研究センター がん情報サービス. 濾胞性リンパ腫
- 中外製薬株式会社. 再発又は難治性の濾胞性リンパ腫に対する二重特異性抗体「ルンスミオ点滴静注」国内発売のお知らせ
- GemMed. 画期的がん治療薬「ブレヤンジ静注」、「グレード1、2、3Aの再発・難治性の濾胞性リンパ腫」にも効能・効果拡大
- 日本血液学会. 造血器腫瘍診療ガイドライン 第3.1版(2024年版)悪性リンパ腫 総論
- HOKUTO. 【NCCNガイドライン】濾胞性リンパ腫の最新治療戦略
- アッヴィ 血液がんサポートネット. 濾胞性リンパ腫の検査と診断
- ブリストル・マイヤーズ スクイブ りんぱしゅ通信. 濾胞性リンパ腫の症状と病期
- 日本医事新報社. 濾胞性リンパ腫[私の治療]
- 日本臨床血液学会誌. 濾胞性リンパ腫の病態と治療