がん治療で使われる放射線の種類は?
がんの放射線治療に用いられる放射線は大きく分類すると「電磁放射線」と「粒子線」です。
・電磁放射線=エックス線、ガンマ線
・粒子線=電子線、中性子線、陽子線、炭素線などがあります。
少し専門的な話になりますが、電磁放射線と粒子線の違いは、放射線自体に電荷を持っているか、それとも持っていないかの違いです。
また、エックス線とガンマ線はどちらも電磁放射線です。しかし、その違いは放射線を電気的に発生させるのか、放射性物質から出てくるのかの違いだけで、両方の放射線の性質は同じものです。
エックス線もガンマ線もがん治療に使われますが、放射線の種類が違ってもがんには同じ治療効果がもたらされます。
また、陽子線や炭素線は、電子線よりも質量がはるかに重いため「重粒子線」と呼ばれています。
放射線はどうやって人体に作用するのか
人間の組織に伝わった放射線エネルギーは、物理的な作用、化学的な作用、そして生物学的な作用を経て、最終的に「DNA」に変化をもたらします。
どうやって変化をもたらすか、という物理的な話になると「光電効果」「コンプトン効果」「電子対創生」などかなり難しい話になるので、そこまで理解する必要はないと思います。
大事なのは放射線がなぜがんに効くのか、という点です。
その理由を知るためには、まず、人間の細胞の構造を把握する必要があります。
細胞は生物の基本単位であり人間の細胞数は約60兆個もあります。細胞の「種類」は、骨を形成している細胞、皮膚を形成している細胞など200以上あるといわれています。
それぞれの細胞には「核」があります。通常細胞に1個の核が存在します。核は細胞の心臓部ともいえますが、この心臓部である核が放射線の標的です。
核の主成分は染色体であり、DNA(デオキシリボ核酸)およびタンパク質の複合体から成り立っています。核はDNA合成、RNA(リボ核酸)合成、ゲノムの収納を担う重要な物質なのです。放射線で狙う具体的な的は「核の中にある染色体内のDNA」です。
DNAに放射線が照射されると、DNAが損傷を受けます。DNAは(よくイラストでみるような形で)二重らせん構造になっています。
らせん構造の一部が損傷を受けただけであればDNAは元通りに修復してきます。しかし、完全に切断され、つながることができなければ、細胞は修復できずに死ぬことになります。放射線治療ではがん細胞のDNAに損傷を与えることでがん細胞が死滅させる治療法だといえます。
がん治療に用いられる放射線は、がん病巣を取り除く強力なメスになり、がんを損傷させることができるといえますが、いっぽうで、正常細胞にがんを誘発させる性質をもっていることもわかっています。
そのため、がん治療に用いられる放射線は、がんにどれだけ効いたとしても、正常組織が耐えられないほどの線量を照射してはならない、ということです。
つまり、がん病巣への投与線量には限界があるということになります。
どのくらいの放射線なら当ててもよいのか?
がんの放射線治療では、がん病巣に1日1回2グレイ、1週間に5回、総線量60グレイの割合で照射します。これが、がんに対する普通の標準的照射法です。
この標準的な照射法は理屈で求められたのではありません。昔からの長い臨床経験に基づいて決められた方法です。
たとえば、放射線を人間の全身に4グレイ照射したと仮定します。1回当たりの照射線量は、通常の照射法の2グレイの2倍にしかすぎません。しかし、照射を受けたヒトは2か月以内に確実に死亡します。全照射の4グレイとは、かなり強い線量なのです。
そのため現在、がんの外部照射法では、コンピュータ技術の発展によってできるだけ正常細胞に傷をつけずに、がん細胞に放射線でピンポイントで狙い撃ちできるような最新の照射技術の開発が年々進んでいるのです。
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以上、放射線治療についての情報でした。
がんと闘うには、行われる治療の情報(目的や効果)を具体的に理解しておくことが大切です。
何をすべきか、正しい判断をするためには正しい知識が必要です。