
はじめに
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
ベバシズマブ(商品名:アバスチン)は、がん治療で広く使用されている分子標的薬の一つです。従来の抗がん剤とは異なる作用機序を持ち、多くのがん種で治療効果が認められています。
しかし、費用面での負担や特有の副作用があるため、治療を受ける前に正しい知識を持つことが大切です。この記事では、ベバシズマブの特徴、効果、副作用、費用、日常生活への影響について、患者さんが治療を選択する際に役立つ情報をお伝えします。
ベバシズマブ(アバスチン)の基本情報
ベバシズマブは、2007年に日本で承認された分子標的薬です。一般名をベバシズマブ、商品名をアバスチンといいます。
この薬は点滴静注によって投与され、血管外への漏出による皮膚障害のリスクは低いとされています。また、吐き気を引き起こすリスクも最小限に抑えられています。
2025年には神経線維腫症II型に対する適応拡大申請が行われ、適応症の範囲が広がりつつあります。また、複数のバイオシミラー(後続品)も承認されており、治療の選択肢が増えています。
ベバシズマブの作用機序と特徴
血管新生を抑制する仕組み
ベバシズマブは、ヒト化モノクローナル抗体と呼ばれるタイプの薬剤です。がん細胞は増殖するために、自身に栄養を供給する血管を新しく作り出します。この過程を「血管新生」といいます。
ベバシズマブは、血管新生に重要な役割を果たすVEGF(血管内皮増殖因子)というタンパク質に特異的に結合し、その働きを阻害します。これにより、腫瘍組織への栄養供給が制限され、がんの増殖が抑制されます。
腫瘍血管の正常化作用
ベバシズマブには、もう一つ興味深い作用があります。がん組織の血管は構造が異常で、血流が不安定なことが知られています。
ベバシズマブは、これらの異常な腫瘍血管を一時的に正常化する働きがあります。血管が正常化すると、併用する他の抗がん剤が腫瘍組織に到達しやすくなり、治療効果の向上につながります。
対象となるがん種と併用療法
ベバシズマブは、複数のがん種で保険適応が認められています。それぞれのがん種で推奨される併用療法があります。
大腸がん(結腸がん・直腸がん)
治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がんに対して使用されます。他の抗がん剤との併用が基本となります。
主な併用療法は以下の通りです。
・FOLFOX療法(フルオロウラシル+レボホリナート+オキサリプラチン)とベバシズマブ
・FOLFIRI療法(フルオロウラシル+アイソボリン+イリノテカン)とベバシズマブ
・CapeOX療法(カペシタビン+オキサリプラチン)とベバシズマブ
・5FU/LV療法とベバシズマブ
・カペシタビン単剤とベバシズマブ
国内の臨床試験では、未治療の進行・再発大腸がん患者さんにXELOX療法とベバシズマブを併用した場合、奏効率は71.9%でした。無増悪生存期間の中央値は約11ヶ月(336日)という結果が報告されています。
肺がん(非小細胞肺がん)
扁平上皮がんを除く切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんが対象です。
主な併用療法には以下があります。
・カルボプラチン/パクリタキセルとベバシズマブ
・シスプラチン(またはカルボプラチン)/ペメトレキセドとベバシズマブ
肺がんの場合、扁平上皮がんでは肺出血のリスクが高いため、使用が制限されています。
乳がん
手術不能または再発乳がんに対して、パクリタキセルとの併用で使用されます。
投与量は1回10mg/kgで、2週間以上の間隔をあけて投与します。
卵巣がん
FIGO StageIII以上の卵巣がんに対して使用されます。
主な併用療法は、カルボプラチン/パクリタキセルとベバシズマブです。投与量は1回10mg/kg(2週間間隔)または1回15mg/kg(3週間間隔)です。
2022年には、卵巣がんにおける10mg/kg 2週間間隔投与が公知申請の事前評価を終了し、保険適用の対象となりました。
悪性神経膠腫
悪性神経膠腫に対しては、単剤投与も認められています。投与量は1回10mg/kg(2週間間隔)または1回15mg/kg(3週間間隔)です。
再発悪性神経膠腫の患者さんでは、ベバシズマブとイリノテカンの併用で約47%の奏効率が報告されています。ただし、無増悪生存期間の延長は得られても、全生存期間の延長効果については明確ではないという課題もあります。
子宮頸がん
進行または再発の子宮頸がんに対して使用されます。
主な併用療法は、シスプラチン/パクリタキセルまたはトポテカン/パクリタキセルとベバシズマブ(15mg/kg、3週間間隔)です。
肝細胞がん
切除不能な肝細胞がんに対して、アテゾリズマブとの併用で使用されます。投与量は1回15mg/kg、3週間以上の間隔で投与します。
投与方法と投与スケジュール
投与方法の詳細
ベバシズマブは点滴静脈内注射で投与されます。投与に際しては、生理食塩液で希釈して約100mLとして使用します。
注意すべき点として、ブドウ糖溶液と混合すると薬剤の効力が減弱する恐れがあるため、ブドウ糖溶液との混合や同時投与は避ける必要があります。
投与時間
初回投与時は90分かけて点滴します。初回投与の忍容性が良好であれば、2回目の投与は60分で行うことができます。
2回目の投与でも問題がなければ、3回目以降は30分での投与が可能です。このように、徐々に投与時間を短縮できるため、患者さんの負担も軽減されます。
投与量と投与間隔
投与量と投与間隔は、がんの種類や併用する薬剤によって異なります。
一般的には、体重1kgあたり5~15mgを投与し、2~3週間ごとに繰り返します。患者さんの状態により、投与間隔は適宜延長されることもあります。
| がん種 | 投与量 | 投与間隔 |
|---|---|---|
| 大腸がん | 5mg/kgまたは10mg/kg | 2週間以上 |
| 大腸がん(XELOX併用) | 7.5mg/kg | 3週間以上 |
| 非小細胞肺がん | 15mg/kg | 3週間以上 |
| 乳がん | 10mg/kg | 2週間以上 |
| 卵巣がん | 10mg/kgまたは15mg/kg | 2週間または3週間 |
| 悪性神経膠腫 | 10mg/kgまたは15mg/kg | 2週間または3週間 |
| 子宮頸がん | 15mg/kg | 3週間以上 |
| 肝細胞がん | 15mg/kg | 3週間以上 |
治療期間
ベバシズマブの治療期間は、患者さんの状態や腫瘍の反応によって個別に決定されます。
一般的には、病勢進行が確認されるまで、または許容できない副作用が出現するまで継続投与を行います。長期投与では、数ヶ月から数年に及ぶこともあります。
ベバシズマブの血中半減期は約21日間と長いため、1回の投与で発現した副作用は約1ヶ月続く可能性があります。
ベバシズマブの効果と奏効率
大腸がんでの効果
大腸がんは、ベバシズマブが最も広く使用されているがん種の一つです。
未治療の進行・再発大腸がん患者さんを対象とした国内試験では、FOLFOX療法との併用で奏効率79.4%、既治療例でも47.8%の奏効率が報告されています。
また、XELOX療法との併用では奏効率71.9%、無増悪生存期間の中央値は336日という結果が得られています。
肺がんでの効果
非小細胞肺がんでは、化学療法との併用で無増悪生存期間の延長が認められています。
バイオシミラーの臨床試験では、客観的奏効率が先行品と同等であることが確認されています。
その他のがん種での効果
卵巣がんや子宮頸がんなどの婦人科領域のがんにおいても、ベバシズマブの有効性が示されています。
ただし、卵巣がんでは投与終了後に悪化リスクが高まる「リバウンド効果」が観察されており、投与期間や中止後の管理に注意が必要です。
悪性神経膠腫では、無増悪生存期間は延長するものの、全生存期間の有意な延長は確認されていないという報告もあります。
主な副作用と対処法
重大な副作用
ベバシズマブには、従来の抗がん剤とは異なる特有の副作用があります。重大な副作用として、以下が報告されています。
血栓塞栓症
血管内で血液が固まり、血流が途絶える状態です。深部静脈血栓症や肺塞栓症などが含まれます。
市販後の全国調査では、約0.9%の患者さんに発現しています。
下肢の腫脹や疼痛、呼吸困難、胸痛などの症状が現れた場合は、すぐに医療機関に連絡する必要があります。
消化管穿孔
腸管に穴があく深刻な副作用です。市販後調査では約0.4%と頻度は低いですが、命に関わる可能性があります。
突然の強い腹痛が出現した場合は、緊急処置が必要となるため、直ちに病院へ連絡してください。
高血圧
ベバシズマブ投与中は、血圧が上昇することがあります。
毎日、血圧測定を行って記録することが推奨されています。急激な血圧上昇が見られた場合は、医師に相談してください。
出血
脳出血、肺出血、消化管出血などの重篤な出血が報告されています。
特に肺がんの患者さんでは、25mL以上の鮮血の喀血(かっけつ)の既往がある場合、投与が禁忌となります。
喀血、吐血、下血などの症状が現れた場合は、すぐに医療機関に連絡してください。
創傷治癒遅延
ベバシズマブは血管新生を抑制するため、傷の治りが遅くなることがあります。
手術を受ける場合は、以下の期間を守る必要があります。
・手術前:ベバシズマブ最終投与から少なくとも28日以上あける
・手術後:手術創が十分に治癒してから投与を再開する
タンパク尿
尿中にタンパクが漏れ出る副作用です。定期的な尿検査で監視します。
重度の場合は、投与を中止する必要があります。
その他の注意が必要な副作用
インフュージョンリアクション(投与時の反応)や粘膜出血(鼻出血、歯肉出血など)も報告されています。
鼻出血は比較的よく見られる副作用で、多くの場合、軽度です。
副作用発現率
臨床試験では、併用する化学療法によって副作用の発現率が異なります。
XELOX療法とベバシズマブを併用した場合、副作用発現率は100%でした。主な副作用は、末梢性感覚ニューロパシー(93.1%)、食欲不振(89.7%)、疲労(82.8%)、手足症候群(77.6%)、悪心(74.1%)でした。
ただし、これらの多くは併用する化学療法による副作用であり、ベバシズマブ特有の副作用ではありません。
日常生活への影響と注意点
血圧管理
ベバシズマブ治療中は、毎日の血圧測定が重要です。
家庭用血圧計を準備し、朝晩の決まった時間に測定して記録しましょう。血圧が高い状態が続く場合は、降圧薬による管理が必要になることもあります。
出血への注意
ベバシズマブ投与中は、出血しやすい状態になることがあります。
歯磨きは柔らかい歯ブラシを使用し、強くこすらないようにしましょう。鼻を強くかむことも避けてください。
抗凝固剤(血液をサラサラにする薬)を服用している場合は、特に注意が必要です。
手術や歯科治療
手術や抜歯などの処置を受ける予定がある場合は、必ず主治医に相談してください。
ベバシズマブは創傷治癒を遅らせるため、手術前には一定期間の休薬が必要です。
感染症予防
併用する化学療法によって、白血球が減少することがあります。
手洗いやうがいを励行し、人混みを避けるなど、感染予防に努めましょう。
体調変化の観察
以下のような症状が現れた場合は、すぐに医療機関に連絡してください。
・突然の強い腹痛
・呼吸困難や胸痛
・意識障害
・下肢の腫れや痛み
・喀血、吐血、下血
・急激な血圧上昇
長期投与時の注意
ベバシズマブを長期間使用する場合、疲労感の増強やQOL(生活の質)の低下が見られることがあります。
定期的な副作用モニタリングと用量調整を行うことで、長期間の安全な投与が可能になります。症状がつらい場合は、我慢せずに医師に相談してください。
費用と保険適応
薬価
ベバシズマブ(アバスチン)の薬価は以下の通りです(2026年1月時点)。
・100mg/4mL:27,451円
・400mg/16mL:109,804円
月額費用の目安
体重60kgの患者さんが15mg/kg(900mg)を3週間ごとに投与する場合を例にすると、1回の投与に必要な薬剤費は約24万円です。
月に約2回投与すると仮定すると、月額の薬剤費は約50~60万円となります。これに検査費用や診察料などが加わります。
保険適応と自己負担
ベバシズマブは、承認されたがん種に対しては健康保険が適用されます。
保険適用により、通常は3割負担となりますが、それでも月額15~18万円程度の自己負担が発生します。
高額療養費制度の活用
高額療養費制度を利用することで、実際の自己負担額を月8万円程度に抑えることができます。
自己負担限度額は、患者さんの年収や年齢によって異なります。70歳未満で年収約370~770万円の場合、自己負担限度額は月額約8~9万円です。
高額療養費制度の申請方法については、加入している健康保険組合や病院の医療相談窓口で確認してください。
事前に「限度額適用認定証」を取得しておくと、窓口での支払いが自己負担限度額までで済みます。
バイオシミラーの利用
ベバシズマブのバイオシミラー(後続品)も複数承認されており、先発品よりも薬価が低く設定されています。
バイオシミラーを選択することで、医療費の削減につながります。主治医と相談してみてください。
投与時の禁忌と慎重投与
投与禁忌
以下の場合は、ベバシズマブの投与が禁止されています。
・25mL以上の鮮血の喀血の既往がある患者さん
・過去にベバシズマブでショックやアナフィラキシーを起こしたことがある患者さん
慎重投与が必要な場合
以下の場合は、慎重に投与する必要があります。
・腹腔内の炎症を合併している
・大きな手術の創が治癒していない
・脳転移がある
・先天性出血素因や凝固系異常がある、または抗凝固薬を投与中
・血栓塞栓症の既往がある
・高血圧症を合併している
・重篤な心疾患を合併している
バイオシミラーについて
ベバシズマブのバイオシミラー(バイオ後続品)が複数承認されています。バイオシミラーは、先行品と同等の有効性と安全性を持つことが確認された医薬品です。
主なバイオシミラーには、ベバシズマブBS「ファイザー」、ベバシズマブBS「日医工」、ベバシズマブBS「CTNK」などがあります。
2025年にはベバシズマブBS「第一三共」が「アムジェン」に承継されましたが、その後発売中止となりました。
バイオシミラーは、先行品と比較して品質、有効性、安全性において類似していることが確認されています。国際共同第III相試験では、先行品と同等の客観的奏効率を示しました。
ただし、バイオシミラーと先行品では承認されている適応症が異なる場合があるため、注意が必要です。
最新の適応拡大の動き
2025年8月、中外製薬は神経線維腫症II型(NF2)に対するアバスチンの適応拡大申請を厚生労働省に行いました。
この申請は、医師主導の国内第II相臨床試験(BeatNF2試験)の成績に基づいています。承認されれば、アバスチンは世界初のNF2治療薬となる見込みです。
NF2は遺伝性の難病で、治療選択肢が限定的な疾患です。このような希少疾患への適応拡大は、患者さんにとって新たな治療の選択肢となります。
まとめ
ベバシズマブ(アバスチン)は、血管新生を抑制することでがんの増殖を抑える分子標的薬です。
多くのがん種で他の抗がん剤との併用により、無増悪生存期間の延長効果が認められています。
一方で、血栓塞栓症、消化管穿孔、高血圧、出血などの特有の副作用があり、注意深い管理が必要です。
費用面では月額50~60万円程度の薬剤費がかかりますが、高額療養費制度を利用することで、実際の自己負担は月8万円程度に抑えることができます。
治療を受ける際は、効果と副作用、費用について主治医とよく相談し、自分に合った治療選択をすることが大切です。
この記事が、ベバシズマブによる治療を検討されている患者さんの役にたてば幸いです。
参考文献・出典
1. 医療用医薬品:アバスチン - KEGG MEDICUS
2. アバスチン、神経線維腫症II型に対する適応拡大申請 - 中外製薬
3. アバスチン(ベバシズマブ)の作用機序とバイオシミラー - 新薬情報オンライン
4. ベバシズマブ(アバスチン)の特徴と副作用 - 抗がん剤治療情報
5. 卵巣がんに対するアバスチン投与期間と効果の関係 - がんプラス
6. 卵巣がんに対する分子標的薬「ベバシズマブ」の効果を解析 - 近畿大学
7. アバスチン点滴静注用の基本情報 - 日経メディカル処方薬事典
8. ベバシズマブの卵巣癌における10mg/kg 2週間間隔投与について - 日本婦人科腫瘍学会

