ビタミンEとαトコフェロール
ビタミンEは最初、動物の不妊症や流産を防ぐビタミンとして発見されました。
その後の研究で、天然には8種類のビタミンEが見付かっています。いずれも、植物だけが合成でき、動物は植物のビタミンEを利用しています。
この8種類のビタミンEの、人や動物に対する生理活性は、かなり大きな違いがあることがわかってきました。今では、1番生理活性が強いのはその内のαトコフェロールであることがわかっています。
それで、ビタミンEといえばαトコフェロールを指すのが普通です。特に医薬分野では、ビタミンEと言えばαトコフェロールを指すのが一般的です。
私たちの食べ物では量的にαトコフェロールとγトコフェロールの2つをたくさん取っています。事実、人間の血液ではα-トコフェロールが全ビタミンEの90%を占めています。
ビタミンEの抗酸化作用
さて、トコフェロールの仲間はその後の研究で抗酸化剤、つまり、食品の成分が空気中の酸素の作用で酸化されて、食品がだめになるのを防ぐ働きをしていることが注目を集めてきました。
抗酸化剤のことを酸化防止剤ともいいますが、食品の製造から流通、消費までの間に酸化が進むと食品としては食べられなくなるので、酸化防止は大問題でした。ビタミンEは天然物でしかも体に必要なビタミンということもあって、現在、他の合成酸化剤に取って代わってたくさん使われています。
ところで、ビタミンEは体の中でどのように働いているのでしょうか。現在までの研究では、食品の場合と同じように抗酸化剤として機能していることが解明されています。動物も植物もその成立ちは1つ1つの細胞によっています。たくさんの細胞が集まり、臓器や組織、腺や血管などを作っています。この細胞の表面には細胞膜といって、中と外を区別するためのものがあります。
体の成分で、1番多いのが水ですし、細胞の中身も大部分水です。この水と水を区別するには、水に溶けないが少しは水とも親和性のある成分が要求されます。最も都合のいいのが石鹸のように、水にも油にも馴染みやすい物質です。
生物は、こうした化合物としてリン脂質といわれる、水とも親和力を持ち、油とも親和力を持つ成分を選択しました。細胞膜はこのリン脂質を二重に並ぺて、膜の両方の表面共に水と親和力を持たせています。
このような膜構造は細胞の中にもあって、すべてを一緒に生体膜と呼びます。この膜が石鹸のように硬いと、私たちはうまく動けません。皮脂やお腹を押しても弾力性があるのは、この細胞膜が柔らかいためです。
膜を柔らかくするにはリン脂質に不飽和脂肪酸といわれるものを余分に入れる必要があります。牛の油が室温で固体なのは、不飽和脂肪酸が少なく、魚の油やサラダ油が液体なのは、この不飽和脂肪酸が多いためです。
この不飽和脂肪酸は細胞に柔らかさを与えましたが、1つ問題点を持ち込みました。それは、酸化され易いことです。私たちは酸素がなくては直ぐ死んでしまいます。1年中酸素を利用していると、時々過って酸素が細胞膜を攻撃してしまうことがあります。
この酸素の害から細胞を守るために、細施膜には必ずビタミンEがいて、抗酸化剤として機能しています。ですから、原理的には食品の場合も体の場合もビタミンEは抗酸化剤として働いていることになります。
人と食品が違う点は、人では使われたビタミンEを食べ物から補給できますが、食品では製造後は補給できない点にあります。ビタミンEの中でαトコフェロールは、酸素の害を直ちに除く働きが最も速いことが知られています。他の合成抗酸化剤ではそれほど速くありません。
生物は長い進化の過程で、最も優れた抗酸化剤を選択してきたのです。ですから、植物でも光合成をしている葉緑体には、ビタミンEの中でαトコフェロールが1番多く含まれています。ここも、酸素を出す位ですから、酸素以上に強い酸化剤の攻撃を受けやすい場所といってよいでしょう。
私たちの体の中では色々な時に、呼吸している酸素よりもっと強い酸素の仲間が作られることがあります。これを活性酸素といいますが、こうしたものが悪さをしないように、ビタミンE以外にも酵素やビタミンC、カロチンなどが働いています。
多くの発癌(がん)物質や環境汚染物質、オキシダントなども、この活性酸素を作りやすいことが知られています。ビタミンEは、こうしたことにも予防的に機能しています。