前立腺全摘除術のあとに、ほとんどの人が経験する尿失禁や尿もれは、月日を追うごとに改善するのが普通です。
しかし、手術によって1~3%くらいの人が、骨盤底筋体操や薬物療法も効かないほどの重症になることがあります。
このような人は、膀胱におしっこを貯めておくことができないので、尿もれパッドを手放せなかったり、おむつに頼るしかありません。がんの治療がうまくいっても、精神的ストレスを伴い、QOL(生活の質)が著しく損なわれます。
そんな中、内服薬による治療や骨盤底筋体操を行って、1~2年ほどたっても改善が見られず、重度の尿失禁に悩む人を対象として、人工尿道括約筋の埋め込み術が行われてきました。100万円以上の費用がかかっていたのですが、2012年に保険適用になりました。
手術は全身麻酔。2時間ほどで終了
人工尿道括約筋の埋め込み術は、膀胱や尿道に異常がないことが前提です。全身麻酔で行われ、1時間半~2時間くらいで終わります。手術翌日は多少痛みはありますが、歩行ができ、食事もスタート。2日目には尿道カテーテルと腹部ドレーンが抜かれ、3日日にはシャワーが許可されます。
感染症の兆候がないことを毎日確認したうえで、特に問題がなければ1週間以内に退院できるでしょう。手術直後はまだ人工尿道括約筋を作動させず、術後の影響がなくなる6~8週間後に1泊2日入院し、実際に使い始めます。
外見上では、人工尿道括約筋が埋め込まれていることはまったくわかりません。この手術により、完全に尿失禁がなくなることはむずかしいかもしれませんが、尿もれパッド1日1枚くらいで対応できるようになります。
感染症や初期不良さえなければ長期間の継続使用が可能で、10年間継続している人も珍しくありません。患者さんの満足度も高いといえます。
以上、前立腺がんの排尿トラブルについての解説でした。