
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
卵巣がんと診断され、手術を受けた後、多くの患者さんが直面するのが「化学療法は必要なのか」「どのような治療を受けるのか」という疑問です。
卵巣がんは、婦人科がんの中でも抗がん剤の効果が期待できるがんとして知られています。そのため、手術後の化学療法は治療戦略において重要な役割を担っています。
この記事では、卵巣がん手術後に行われる化学療法について、その目的、使用される薬剤、効果と副作用、そして卵巣がんの種類による治療の違いまで、詳しく解説します。
卵巣がん手術後に化学療法が必要な理由
卵巣がんのステージ2から4期では、手術後に化学療法を行うことが標準的な治療となっています。これには明確な理由があります。
卵巣がんは、診断時にすでに進行していることが多く、手術で目に見える腫瘍を取り除いても、顕微鏡レベルの小さながん細胞が体内に残っている可能性が高いためです。
化学療法の主な目的は、以下の3点です。
第一に、手術で取り切れなかった微小ながん細胞を攻撃し、死滅させることです。手術で肉眼的に確認できる腫瘍を切除しても、血液やリンパ液に乗って他の部位に移動したがん細胞は残存している可能性があります。
第二に、再発のリスクを低減することです。卵巣がんは再発しやすいがんの一つですが、術後の化学療法によって再発率を下げることが複数の臨床試験で示されています。
第三に、生存期間の延長です。適切な化学療法を行うことで、全生存期間や無増悪生存期間が改善されることが報告されています。
卵巣がんで標準となる化学療法の種類
卵巣がん手術後の化学療法では、複数の抗がん剤を組み合わせる「併用療法」が基本となります。これは、単剤で使用するよりも効果が高いことが証明されているためです。
TC療法|タキサン系とプラチナ系の併用
現在、卵巣がんの化学療法で最も標準的とされているのが「TC療法」です。これは、パクリタキセル(Paclitaxel、頭文字でT)とカルボプラチン(Carboplatin、頭文字でC)という2種類の抗がん剤を組み合わせた治療法です。
パクリタキセルは、タキサン系と呼ばれる抗がん剤で、がん細胞の分裂を阻害する働きがあります。一方、カルボプラチンはプラチナ系抗がん剤で、DNAに作用してがん細胞の増殖を抑えます。
この2つの薬剤は、作用機序が異なるため、併用することで相乗効果が期待できます。TC療法は通常、3週間を1サイクルとして、6サイクル(約4〜5か月間)行われることが多いです。
| 治療法 | 使用薬剤 | 投与間隔 | 標準サイクル数 |
|---|---|---|---|
| TC療法 | パクリタキセル + カルボプラチン | 3週間ごと | 6サイクル |
| dose-dense TC療法 | パクリタキセル(毎週) + カルボプラチン(3週間ごと) | パクリタキセルは毎週 | 18回(パクリタキセル) + 6サイクル(カルボプラチン) |
| DC療法 | ドセタキセル + カルボプラチン | 3週間ごと | 6サイクル |
dose-dense TC療法|より密な投与スケジュール
近年、「dose-dense TC療法」という投与方法が注目されています。これは、パクリタキセルを3週間ごとではなく、毎週投与する方法です。
カルボプラチンは従来通り3週間ごとに投与しますが、パクリタキセルの投与頻度を増やすことで、がん細胞に対する攻撃の機会を増やすという考え方に基づいています。
日本で行われた臨床試験では、dose-dense TC療法が従来のTC療法と比較して、無増悪生存期間を延長する効果が示されました。ただし、副作用の発現パターンが異なるため、患者さんの状態に応じて選択されます。
TC療法が使用できない場合の選択肢
何らかの理由でTC療法が使用できない場合、代替となる治療法も確立されています。
DC療法は、パクリタキセルの代わりに同じタキサン系のドセタキセル(Docetaxel)とカルボプラチンを組み合わせた治療法です。パクリタキセルにアレルギーがある場合などに選択されます。
また、プラチナ系薬剤の単剤療法も選択肢の一つです。カルボプラチンやシスプラチンを単独で使用する方法で、併用療法に耐えられない全身状態の患者さんに対して検討されることがあります。
ベバシズマブ(アバスチン)を用いた治療
2013年以降、卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんの治療に、ベバシズマブ(商品名:アバスチン)という分子標的薬が使用できるようになりました。
ベバシズマブは、抗VEGFヒト化モノクローナル抗体と呼ばれる薬剤で、がんの血管新生を阻害することで、腫瘍の成長を抑える働きがあります。
ベバシズマブの使用方法
ベバシズマブは、TC療法などの化学療法と併用して使用した後、化学療法が終了してからも単剤で継続投与されます。この維持療法により、再発のリスクを低減する効果が期待されています。
通常、化学療法との併用期間は約4〜5か月、その後の維持療法は最長で約1年間行われます。投与は3週間ごとに静脈内点滴で行われます。
ベバシズマブの副作用と注意点
ベバシズマブには、従来の抗がん剤とは異なる特有の副作用があります。
最も重要な副作用は消化管穿孔です。これは、腸に穴が開く状態で、緊急手術が必要となる深刻な合併症です。腹痛や発熱などの症状が現れた場合は、すぐに医療機関に連絡する必要があります。
血栓塞栓症も注意すべき副作用です。血管内に血栓ができ、脳梗塞や肺塞栓症などを引き起こす可能性があります。
また、高血圧の出現や悪化も見られることがあります。治療中は定期的な血圧測定が必要で、必要に応じて降圧薬による管理が行われます。
その他、タンパク尿、創傷治癒の遅延、出血などの副作用も報告されています。これらのリスクを考慮し、患者さんの状態を評価したうえで使用が決定されます。
卵巣がんの種類と化学療法の効果
卵巣がんは、発生する場所や細胞の種類によって複数のタイプに分類されます。化学療法の効果は、このがんの種類によって異なることが知られています。
卵巣がんの主な分類
卵巣がんは、発生部位により以下のように分類されます。
1. 表層上皮性・間質性腫瘍
2. 性索間質性腫瘍
3. 胚細胞性腫瘍
4. その他
それぞれの分類の中に、良性腫瘍、境界悪性腫瘍、悪性腫瘍が存在します。卵巣がん全体の約90%を占めるのが表層上皮性・間質性の悪性腫瘍、いわゆる上皮性卵巣がんです。
上皮性卵巣がんの組織型と化学療法の効果
上皮性卵巣がんは、さらに細かい組織型に分類されます。主なものは以下の通りです。
| 組織型 | 特徴 | TC療法の効果 |
|---|---|---|
| 漿液性腺がん | 最も多いタイプ。進行が早い傾向 | 効果が期待できる |
| 類内膜腺がん | 子宮内膜症との関連が指摘される | 効果が期待できる |
| 明細胞腺がん | 日本人に多い。子宮内膜症との関連 | 他の組織型より効きにくい |
| 粘液性腺がん | 発生頻度は低い。大きくなりやすい | 他の組織型より効きにくい |
漿液性腺がんと類内膜腺がんでは、TC療法が良好な効果を示すことが多く報告されています。これらのタイプでは、化学療法により腫瘍の縮小や消失が期待できます。
一方、明細胞腺がんは、日本人の卵巣がん患者さんでは2番目に多いタイプですが、漿液性腺がんや類内膜腺がんと比べると、TC療法に対する反応が低いことが知られています。
粘液性腺がんも、発生頻度は最も少ないものの、同様にTC療法が効きにくい傾向があります。
明細胞腺がんと粘液性腺がんへの対応
明細胞腺がんや粘液性腺がんに対しては、TC療法よりも効果的な化学療法がまだ確立されていないのが現状です。
そのため、現時点では、これらのタイプの卵巣がんに対してもTC療法が標準的な化学療法として用いられています。ただし、効果が限定的である可能性を考慮し、手術でできるだけ腫瘍を取り除くことがより重要視されます。
また、臨床試験などで新しい治療法の開発が進められており、将来的にはより効果的な治療選択肢が増えることが期待されています。
胚細胞性腫瘍に対する化学療法
若年者に多く見られる胚細胞性腫瘍は、上皮性卵巣がんとは異なる特徴を持っています。
胚細胞性腫瘍の特徴
胚細胞性腫瘍は、20代以下の若い女性に発生しやすく、未成熟奇形腫、卵黄嚢腫瘍、未分化胚細胞腫などのタイプがあります。
このタイプの卵巣がんの大きな特徴は、化学療法が非常に効きやすいという点です。そのため、妊娠・出産の可能性を残すための治療戦略が検討できます。
妊孕性温存手術と化学療法
胚細胞性腫瘍では、がんの部分のみを核出し、健常な卵巣組織を温存する手術が可能な場合があります。これにより、将来の妊娠の可能性を残すことができます。
ただし、患者さんに出産希望がない場合や、がんの進行度合いによっては、付属器(卵巣と卵管)を切除することが推奨されます。
BEP療法|胚細胞性腫瘍の標準的化学療法
胚細胞性腫瘍の手術後には、上皮性卵巣がんで用いられるTC療法とは異なる化学療法が行われます。
標準的な治療は、ブレオマイシン(Bleomycin、頭文字でB)、エトポシド(Etoposide、頭文字でE)、シスプラチン(Cisplatin、頭文字でP)の3剤を組み合わせたBEP療法です。
この治療法は、精巣腫瘍などの胚細胞性腫瘍全般に対して高い効果が証明されており、卵巣の胚細胞性腫瘍でも同様に優れた治療成績が報告されています。
BEP療法は通常、3週間を1サイクルとして3〜4サイクル行われます。治療により多くの患者さんで長期生存や治癒が期待できます。
化学療法の副作用と対処法
卵巣がんの化学療法では、様々な副作用が現れることがあります。副作用の種類や程度は、使用する薬剤や患者さんの体質によって異なります。
TC療法の主な副作用
パクリタキセルとカルボプラチンを用いるTC療法では、以下のような副作用が見られることがあります。
骨髄抑制は、最も注意が必要な副作用の一つです。白血球、赤血球、血小板などの血液細胞が減少し、感染症のリスクが高まったり、貧血や出血傾向が現れたりします。定期的な血液検査でモニタリングし、必要に応じて白血球を増やす薬剤(G-CSF製剤)の使用や輸血が検討されます。
末梢神経障害は、パクリタキセルに特徴的な副作用です。手足のしびれや感覚の鈍さ、痛みなどが現れます。多くの場合、治療終了後に徐々に改善しますが、症状が強い場合は薬剤の減量や休薬が検討されます。
脱毛は、外見に関わる副作用として患者さんの精神的負担が大きいものです。TC療法では高い頻度で脱毛が起こりますが、治療終了後には再び髪が生えてきます。ウィッグや帽子の使用で対応することができます。
悪心・嘔吐は、以前は化学療法の代表的な副作用でしたが、現在は制吐剤の進歩により、かなりコントロールできるようになっています。治療前後に制吐剤を使用することで、症状を軽減できます。
その他、倦怠感、食欲不振、口内炎、下痢や便秘などの消化器症状が現れることもあります。
dose-dense TC療法の副作用の特徴
毎週パクリタキセルを投与するdose-dense TC療法では、従来のTC療法と比べて副作用のパターンが若干異なります。
貧血の発生頻度が高くなる傾向がありますが、重篤な副作用の発生率は従来法と大きく変わらないとされています。投与頻度が多いため、通院の負担は増えますが、1回あたりの投与量は少なくなります。
BEP療法の副作用
胚細胞性腫瘍に対して行われるBEP療法では、TC療法とは異なる副作用プロファイルがあります。
ブレオマイシンによる肺障害が特徴的な副作用です。間質性肺炎などが起こる可能性があるため、定期的に胸部レントゲン検査や呼吸機能検査が行われます。
シスプラチンは、腎機能障害や聴力障害、末梢神経障害を引き起こすことがあります。十分な水分補給を行いながら投与することで、腎機能への影響を軽減します。
化学療法を受ける際の生活上の注意点
化学療法を受けている期間は、感染予防が重要です。骨髄抑制により免疫力が低下するため、手洗いやうがいを徹底し、人混みを避けるなどの対策が推奨されます。
食事は、体力を維持するために重要ですが、副作用により食欲が低下することがあります。無理に食べる必要はありませんが、少量でも栄養価の高いものを摂取するよう心がけます。
十分な休息と適度な運動のバランスも大切です。過度な安静は体力の低下を招くため、体調に合わせて軽い運動を行うことが推奨されます。
治療効果の評価と今後の方針
化学療法の効果は、定期的な画像検査や腫瘍マーカー(CA125など)の測定により評価されます。
治療により腫瘍が縮小または消失し、腫瘍マーカーが正常化した場合を「完全奏効」、腫瘍が一定程度縮小した場合を「部分奏効」と呼びます。
化学療法が終了した後も、定期的な経過観察が必要です。卵巣がんは再発しやすいがんであるため、画像検査や腫瘍マーカーの測定を継続的に行い、早期に再発を発見できるようにします。
再発した場合でも、再度化学療法を行うことで病状をコントロールできることがあります。プラチナ製剤に対する感受性や前回治療からの期間などを考慮して、最適な治療法が選択されます。
まとめ
卵巣がん手術後の化学療法は、再発予防と生存期間の延長を目的とした重要な治療です。
標準的なTC療法をはじめ、dose-dense TC療法、ベバシズマブの追加など、治療選択肢は広がっています。一方で、明細胞腺がんや粘液性腺がんのように化学療法が効きにくいタイプも存在します。
若年者に多い胚細胞性腫瘍では、BEP療法により高い治療効果が期待でき、妊孕性を温存できる可能性もあります。
副作用への対策も進歩しており、多くの患者さんが外来通院で治療を継続できるようになっています。
治療方針は、がんの組織型、進行度、患者さんの年齢や全身状態、妊娠希望の有無などを総合的に考慮して決定されます。よく相談し、ご自身の状況に最適な治療を選択することが大切です。

