副作用と一口にいっても、従来の抗がん剤と分子標的薬とでは、その作用や症状などが異なります。
抗がん剤で生じる副作用
抗がん剤は細胞の遺伝子を傷つけたり、細胞分裂を邪魔したりして細胞を殺す作用をもっています。この性質は細胞にとって毒であることから「細胞毒性」といい、がん細胞だけでなく、正常な細胞にも発揮されます。副作用が起こるのは、そのためです。
抗がん剤の影響をとくに強く受けるのが、分裂・増殖が盛んな細胞です。骨髄の中にある造血幹細胞、消化管の粘膜細胞、毛根の細胞(毛母細胞)などが該当します。造血幹細胞が壊され骨髄抑制が起こると白血球が減って免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなります。
また、胃腸の粘膜細胞が影響を受けると吐き気やおう吐、下痢や便秘が、口の粘膜細胞が影響を受けると口内炎が起こります。脱毛するのも毛母細胞が障害を受けるからです。
分子標的薬で生じる副作用
分子標的薬は、細胞のがん化や増殖に関わる特定の遺伝子のタンパクを標的にして、そこだけに作用します。そのため、従来の抗がん剤に比べて副作用は少ないのではと考えられていました。
しかし、標的となるタンパクはがん細胞だけでなく、正常細胞にも存在していることがあり、その場合は、正常細胞も攻撃対象になって、副作用が生じることが分かってきました。
代表的なのが、トラスツズマブなどの抗体製剤で起こる「インフュージョン・リアクション」、ゲフィチニブやボルテゾミブ、セツキシマブなどで起こる皮膚症状です。
分子標的薬が抗がん剤と違うのは、副作用が出るのは薬が効いている証拠ともいえることがあるという点です。そのため、できるだけ休薬せず、副作用をコントロールしながら治療を続けることが大切になります。
副作用の分類
・骨髄抑制
感染症、出血、貧血など
・アレルギー症状
アナフィラキシ一・ショック、インフュージョン・リアクション
・神経症状
しびれ、味覚障害など
・皮膚症状
皮疹、ニキビ、手足症候群など
・呼吸器症状
咳、息切れ、呼吸困難(間質性肺炎)など
・臓器障害
心不全、不整脈、高血圧、腎障害など
・毛髪障害
脱毛
・粘膜障害
口内炎
代表的な分子標的薬の主な副作用
<抗体製剤>
・トラスツズマブ
インフュージョン・リアクション、心毒性など
・リツキシマブ
インフュージョン・リアクション、感染症、劇症肝炎(B型肝炎ウイルス感染者)など
・セツキシマブ
インフュージョン・リアクション、皮膚障害、間質性肺炎など
・パニツムマブ
インフュージョン・リアクション、皮膚障害、間質性肺炎など
・モガムリズマブ
インフュージョン・リアクション、感染症、皮膚障害、劇症肝炎(B型肝炎ウイルス感染者)など
<シグナル伝達系阻害薬 - チロシンキナーゼ阻害薬>
・ゲフィチニブ
皮膚障害、間質性肺炎など
・エルロチニブ
皮膚障害、間質性肺炎など
・イマチニブ
皮膚障害、心毒性など
・ダサチニブ
骨髄抑制、むくみ、感染症、間質性肺炎など
・ニロチニブ
骨髄抑制、心毒性など
・ラパチニブ
間質性肺炎、肝機能障害、心毒性など
・クリゾチニブ
間質性肺炎、肝機能障害、不整脈など
・アキシチニブ
高血圧、血栓症など
<シグナル伝達系阻害薬 - mTOR阻害薬>
・エベロリムス
間質性肺炎、感染症、腎障害、高血糖(糖尿病の悪化)など
・テムシロリムス
インフュージョン・リアクション、血栓症、腎障害、間質性肺炎など
<血管新生阻害薬>
・ベバシズマブ
インフュージョン・リアクション、高血圧、血栓症など
・ソラフェニブ
皮膚障害、高血圧、手足症候群など
・スニチニブ
骨髄抑制、高血圧、感染症など
<プロテアソーム阻害薬>
・ボルテゾミブ
皮膚障害、間質性肺炎など
副作用が現れやすい時期(点滴の場合)
・急性期(投与中)
アレルギー反応、アナフィラキシーショック、吐き気・おう吐、発熱、悪寒、皮疹、インフュージョン・リアクション(24時間以内)など
・早期(投与後から2~3日間)
アレルギー反応、吐き気・おう吐、下痢、便秘、口内炎、皮疹など
・中後期(次の治療まで)
アレルギー反応、骨髄抑制、下痢、便秘、口内炎、全身倦怠感、手足のしびれ、脱毛、貧血、むくみ、膀胱炎など
・晩期(2コース目以降と治療終了後)
アレルギー反応、心不全、腎障害など
以上、副作用についての解説でした。