
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
肝臓がんが進行すると、がん細胞が肝臓から離れて血液やリンパの流れに乗り、体内の他の臓器に移動して新たな腫瘍を形成することがあります。これを遠隔転移と呼びます。
肝臓がんの遠隔転移は、患者さんとご家族にとって大きな不安の原因となりますが、転移が見つかった場合でも、適切な治療を選択することで症状をコントロールし、生活の質を保つことが可能です。
この記事では、肝臓がんの遠隔転移について、起こりやすい部位、検査方法、そして2026年現在の治療法について詳しく解説します。
肝臓がんの遠隔転移とは
がん細胞は最初に発生した場所(原発巣)から遊離すると、血管やリンパ管に入り込み、血流やリンパの流れに乗って体内を移動します。そして別の臓器や組織に到達したがん細胞がそこで増殖を始めると、新しい腫瘍が形成されます。これが遠隔転移です。
肝臓がんには大きく分けて肝細胞がんと肝内胆管がんがありますが、それぞれ転移の特徴が異なります。
肝細胞がんの転移の特徴
肝細胞がんの場合、転移のほとんどは肝臓内で起こります。つまり、肝臓内の原発した場所から同じ肝臓内の別の場所に転移するケースが多いのです。これを肝内転移と呼びます。
しかし、進行すると肝臓以外の臓器にも転移することがあります。肝細胞がんが肝臓外に転移する場合、転移しやすい部位には一定の傾向があります。
肝内胆管がんの転移の特徴
肝内胆管がんは、肝細胞がんと比べて肝臓外への転移が起こりやすい傾向があります。肝臓内の転移も見られますが、リンパ節や肺、腹膜などへの転移が肝細胞がんよりも高い確率で発生します。
診断時にすでに遠隔転移が見つかることも少なくありません。また、手術で肝臓内の腫瘍を切除した後に、他の臓器への転移が発見されることもあります。
肝臓がんの遠隔転移が起こりやすい部位
肝臓がんが遠隔転移を起こす場合、以下の部位に転移しやすいことが知られています。
| 転移部位 | 特徴 | 頻度 |
|---|---|---|
| 肺 | 最も多い遠隔転移部位。血行性転移により発生 | 高 |
| 骨 | 強い痛みを伴うことが多い。脊椎、肋骨、骨盤に多い | 中 |
| リンパ節 | 肝門部、腹腔内のリンパ節に転移しやすい | 中 |
| 副腎 | 腎臓の上にある小さな臓器。片側または両側に発生 | 中 |
| 腹膜 | 腹水を伴うことが多い。がん性腹膜炎を引き起こす | 中 |
| 脳 | 頭痛、麻痺、言語障害などの症状が現れる | やや低 |
これらの転移は単独で起こることもあれば、複数の部位に同時に転移が見つかることもあります。
遠隔転移を調べる検査方法
肝臓がんの遠隔転移を調べるために、以下のような検査が行われます。
血液検査(腫瘍マーカー)
AFP(アルファフェトプロテイン)、PIVKA-II、AFPレクチン分画などの腫瘍マーカーを測定します。これらの値が上昇している場合、がんの進行や転移の可能性を示唆します。ただし、腫瘍マーカーは絶対的な指標ではなく、転移があっても正常値を示すことがあります。
CT検査(コンピュータ断層撮影)
造影剤を使用したCT検査により、肺、肝臓、リンパ節、骨などの転移を調べます。胸部から腹部、骨盤まで広範囲を撮影することで、全身の転移の有無を確認できます。
MRI検査(磁気共鳴画像検査)
特に脳転移や骨転移の検出に優れています。造影剤を使用することで、より小さな病変も発見できる可能性があります。肝臓内の病変の詳細な評価にも用いられます。
PET-CT検査(陽電子放射断層撮影)
全身のがん細胞の活動性を一度に調べることができる検査です。肝細胞がんは必ずしもPETで検出されやすいわけではありませんが、肝内胆管がんや転移巣の検出には有用な場合があります。
骨シンチグラフィ
骨転移が疑われる場合に実施します。放射性物質を注射し、全身の骨を撮影することで、骨転移の有無や範囲を評価します。
肺への転移の治療法
肺は肝臓がんが最も転移しやすい臓器の一つです。血液が肝臓から心臓を経由して肺に流れる経路があるため、血行性転移として肺転移が発生します。
手術による切除
転移した腫瘍が1個だけで、肝臓の原発巣が治療によってコントロールされており、患者さんの全身状態が良好な場合には、手術で肺の転移巣を切除することがあります。
複数個の転移があっても、それらが片側の肺のみに存在し、切除可能な位置にある場合には手術を検討します。近年では胸腔鏡を用いた低侵襲手術が増えており、患者さんの体への負担を軽減できるようになっています。
放射線治療
肺は放射線に弱い臓器ですが、技術の進歩により腫瘍とその周辺のみに集中して放射線を照射する定位放射線治療(SBRT)が可能になっています。
この治療法では、周囲の正常な肺組織への影響を最小限に抑えながら、腫瘍に高線量の放射線を照射できます。数回の治療で完了することが多く、通院での治療も可能です。
全身化学療法
肺転移が多発している場合や、手術・放射線治療が困難な場合には、全身化学療法が選択されます。肝細胞がんに対しては、レンバチニブ(レンビマ)、ソラフェニブ(ネクサバール)、レゴラフェニブ(スチバーガ)などの分子標的薬が使用されます。
これらの薬剤は、がん細胞の増殖に関わる特定の分子を標的とすることで、抗腫瘍効果を発揮します。副作用の管理を行いながら治療を継続することが重要です。
免疫チェックポイント阻害薬
2020年以降、肝細胞がんに対してアテゾリズマブとベバシズマブの併用療法(アテゾリズマブ・ベバシズマブ療法)が使用できるようになりました。免疫の働きを利用してがん細胞を攻撃する治療法で、一部の患者さんに効果を示しています。
骨への転移の治療法
骨転移は強い痛みを引き起こすことが多く、患者さんの生活の質を大きく低下させます。また、骨が脆くなることで骨折のリスクが高まり、脊椎への転移では神経の圧迫による麻痺の可能性もあります。
放射線治療
骨転移に対する主な治療法は放射線治療です。痛みの緩和と骨折の予防を目的として実施されます。通常、1回の線量を少なくして10回から15回程度の治療を行います。
多くの場合、治療開始から数日から数週間で痛みが軽減します。治療は外来で受けることができ、日常生活を続けながら治療を受けられます。
骨修飾薬
ゾレドロン酸やデノスマブなどの骨修飾薬を投与することで、骨の破壊を抑制し、骨折や痛みのリスクを低減できます。これらの薬剤は定期的に投与され、骨転移による合併症の予防に役立ちます。
手術
脊椎への転移により神経が圧迫されて麻痺の危険がある場合や、荷重のかかる骨に転移があり骨折のリスクが高い場合には、手術を検討することがあります。
手術では腫瘍を切除し、必要に応じて人工骨や金属プレートで補強します。ただし、肝臓の原発巣がコントロールされており、患者さんの全身状態が手術に耐えられることが条件となります。
疼痛管理
骨転移による痛みに対しては、鎮痛薬による管理が重要です。非ステロイド性抗炎症薬から始めて、必要に応じて弱オピオイド、強オピオイドへと段階的に使用します。痛みを我慢せず、適切な疼痛管理を受けることが生活の質の維持につながります。
腹膜への転移の治療法
腹膜は腹腔内の臓器を覆う膜です。がん細胞が腹腔内に散らばって腹膜に付着し、増殖するとがん性腹膜炎となります。
腹水の管理
がん性腹膜炎では腹膜から水分がにじみ出て、腹腔内に腹水が貯留します。腹水が増えると腹部膨満感、呼吸困難、食欲不振などの症状が現れます。
腹水が多量に貯留している場合は、腹腔穿刺により腹水を抜きます。同時に利尿薬を使用して腹水の再貯留を抑えることもあります。
腹腔内化学療法
腹腔内に直接抗がん剤を注入する治療法です。腹水を抜いた後に抗がん剤を腹腔内に投与することで、腹膜に付着したがん細胞に対して局所的に高濃度の薬剤を作用させることができます。
全身化学療法
腹膜転移に対しても、全身化学療法が治療の選択肢となります。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を使用することで、腹膜転移の進行を抑えることを目指します。
脳への転移の治療法
脳転移は肝臓がんでは比較的まれですが、発生すると重篤な症状を引き起こす可能性があります。転移した部位によって、頭痛、吐き気、麻痺、言語障害、意識障害などさまざまな症状が現れます。
手術
転移巣が1個だけで、手術で安全に切除できる位置にあり、患者さんの全身状態が良好な場合には、開頭手術により腫瘍を摘出することがあります。
定位放射線治療(ガンマナイフ・サイバーナイフ)
複数の転移巣がある場合や、手術が困難な部位に転移がある場合には、定位放射線治療が選択されます。ガンマナイフやサイバーナイフといった装置を用いて、腫瘍に集中的に放射線を照射します。
周囲の正常な脳組織への影響を最小限に抑えながら、腫瘍を治療できます。治療は1回から数回で完了し、多くの場合入院の必要はありません。
全脳照射
多発性の脳転移がある場合には、脳全体に放射線を照射する全脳照射が検討されます。転移巣の数が多い場合や、小さな転移巣が広範囲に散らばっている場合に適応となります。
症状緩和のための薬物療法
脳転移では脳浮腫(脳のむくみ)により頭蓋内圧が上昇することがあります。ステロイド薬(デキサメタゾンなど)を使用することで脳浮腫を軽減し、症状を改善できます。
また、脳圧が上昇している場合には利尿薬を使用して脳内の水分を減らし、脳圧を下げることもあります。けいれん発作が起こる場合には抗けいれん薬を使用します。
副腎への転移の治療法
副腎は腎臓の上に位置する小さな臓器で、さまざまなホルモンを産生しています。肝臓がんが副腎に転移することは比較的多く見られます。
手術
転移が片側の副腎のみで、肝臓の原発巣がコントロールされており、他に転移がない場合には、転移した副腎を切除することがあります。片方の副腎を切除しても、残った副腎が機能を補うため、通常はホルモン補充の必要はありません。
全身化学療法
両側の副腎に転移がある場合や、他の部位にも転移がある場合には、全身化学療法が選択されます。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を使用して、転移巣の増大を抑えることを目指します。
放射線治療
副腎転移による症状がある場合や、腫瘍が大きくなって周囲の臓器を圧迫している場合には、放射線治療を行うことがあります。症状の緩和と腫瘍の増大抑制が目的となります。
リンパ節への転移の治療法
肝臓がん、特に肝内胆管がんではリンパ節転移が比較的高頻度に見られます。肝門部(肝臓の血管や胆管が出入りする部分)周囲のリンパ節や、腹腔内のリンパ節に転移しやすい傾向があります。
全身化学療法
リンパ節転移に対しては、全身化学療法が主な治療となります。肝内胆管がんの場合は、ゲムシタビンとシスプラチンの併用療法が標準治療として用いられます。肝細胞がんの場合は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が使用されます。
放射線治療
転移したリンパ節が周囲の臓器や血管を圧迫して症状を引き起こしている場合には、放射線治療により腫瘍を縮小させることがあります。
遠隔転移した肝臓がんの治療方針
遠隔転移が見つかった場合の治療方針は、以下の要素を総合的に考慮して決定されます。
| 考慮する要素 | 内容 |
|---|---|
| 転移の数と部位 | 単発か多発か、どの臓器に転移しているか |
| 原発巣の状態 | 肝臓内の腫瘍がコントロールされているか |
| 肝機能 | Child-Pugh分類などで評価される肝臓の予備能 |
| 全身状態 | PS(パフォーマンスステータス)による活動度の評価 |
| 年齢 | 治療に耐えられる体力があるか |
| 患者さんの希望 | どのような治療を望むか、生活の質をどう考えるか |
積極的治療の適応
以下の条件を満たす場合には、手術や放射線治療などの積極的な治療が検討されます。
1. 転移が単発または数が少ない(1から3個程度)
2. 肝臓の原発巣が治療によりコントロールされている、または同時に治療可能
3. 肝機能が保たれている(Child-Pugh分類AまたはB)
4. 全身状態が良好(PS 0-1)
5. 主要な臓器の機能が保たれている
全身化学療法の適応
転移が多発している場合や、積極的治療が困難な場合には、全身化学療法が選択されます。近年、肝細胞がんに対する薬物療法の選択肢は増えており、以下のような治療が可能です。
一次治療:アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法、レンバチニブ、ソラフェニブなど
二次治療以降:レゴラフェニブ、ラムシルマブ、カボザンチニブなど
これらの治療を順次使用することで、治療期間の延長が期待できるようになっています。
緩和ケアの重要性
遠隔転移がある場合、治癒を目指すことは困難なことが多いですが、症状をコントロールし、生活の質を保つことは可能です。痛みや呼吸困難などの身体的症状の緩和だけでなく、精神的・社会的なサポートも含めた緩和ケアが重要となります。
緩和ケアは終末期だけのものではなく、診断時から抗がん治療と並行して受けることが推奨されています。症状が出る前から緩和ケアチームと連携することで、より良い生活の質を保つことができます。

