肝動注は抗がん剤を使う治療法です。体に与える影響も大きいのでその特徴と効果(再発率・生存率)を知っておくことが重要です。
肝臓がん 肝動注療法の長所
1.進行がんでも治療可能
肝細胞がんが進行して門脈や胆管に浸潤すると、他の治療を選択できなくなる例が少なくありません。このような場合でも、動注療法による治療は可能です。動注療法だけで完治を目指すことは困難ですが、動注療法によって腫瘍を小さくした後、他の治療法を選択できる例もあります。
2.侵襲度が比較的小さい
動注療法は、体に対する負担が比較的小さい治療法の1つです。そのため、全身状態が悪くて手術を受けられない人でも、この治療を受けることができます。
3.抗がん剤の副作用が小さい
進行した肝細胞がんの最終的な選択肢の1つである全身の化学療法に比べると、抗がん剤の副作用をはるかに小さく抑えることができます。
4.外来で治療が可能
動注療法は、全身に対する化学療法とは異なり、副作用が小さいため、患者の体に対する厳重な管理を必要としません。そのため、通院しながら治療を受けることができます。ただし、リザーバーを留置するための手術には入院が必要です。
また、動注を始めてから1週間~1カ月間は、副作用が強く出るなどの問題が生じる可能性が高いため、通常は入院して治療を受けます。
肝動注療法の問題点
1.治療の有効性が低い
動注療法は不確実な治療法であり、治療を行っても治療効果が得られないことも少なくありません。その理由は、肝細胞がんが、抗がん剤に敏感に反応して死ぬ種類のがんではないからです。
抗がん剤による治療の効果があるかどうかは、「奏功率」という言葉で表します。奏功率とは、特定の抗がん剤治療を受けた人のうち、薬に反応して腫瘍が小さくなった人の割合です。
ここで「奏功した(効果が現れた)」とは、治療後に腫瘍が2分の1以下まで小さくなり、その状態が4週間以上続いたことをいいます。薬の組み合わせや投与法によって異なるものの、動注療法の奏功率は15~50パーセント程度です。ただし、残りの50~85パーセントの患者にもまったく効果がないわけではありません。
腫瘍が多少なりとも小さくなる、あるいは進行が止まるだけでも、効果があるといえます。反面、治療を行ってもがんが進行する例もあります。
こうしたことから、動注療法によって根治することはまれです。動注療法の目的は完治ではなく、むしろ肝臓をできるだけ良好な状態に保ちながら、腫瘍の成長を抑えることにあります。
2.治療が長期にわたる
動注療法は、エタノール注入療法や熱凝固法などとは異なり、1回の治療によって、すべてのがん細胞を殺すことを目指す種類の治療ではありません。
抗がん剤を使って少しずつがん細胞を殺していき、全身や肝臓などの状態が悪くなれば、そこでいったん治療をやめる必要があります。そのため、治療が長期にわたることは免れません。長期間治療を続けても、完全にがんが消えることは少ないのが現状です。
また、いったんがんが沈静化しても、ふたたび成長しはじめたり、新しいがんが発生する可能性はかなり高いと考えなくてはなりません。
3.肝機能を損なう例がある
動注療法は、腫瘍の存在する肝臓に集中的に抗がん剤を投与するため、全身への副作用を抑えることができます。しかし、抗がん剤の一部は、肝臓に損傷を与える危険をもっています。
また、肝臓は、投与された薬を化学反応によって別の物質へと変化させ(代謝)、体の外へと排出する準備をする臓器です。このとき代謝によってできた物質が、肝臓に障害を与えることもあります。
このような肝障害は「中毒性の薬物性肝障害」と呼ばれ、肝臓に入る薬の量が多いときにしばしば現れます。また、薬の量が増えると、当然肝臓の負担も大きくなります。
さらに、薬に対するアレルギーによって肝臓の障害を起こし、肝炎や胆汁うっ滞(胆汁がとどこおる)を発症する例もあります。薬剤性のアレルギーは、はじめて使う薬だけではなく、いままで使用していてとくに問題のなかった薬によっても起こる可能性があります。特定の薬の使用によってアレルギーを起こすかどうかを予測することは、困難です。
肝細胞がんでは、肝臓の障害度が高いほど予後も悪くなるので、動注療法ではつねに肝臓の状態に気を配り、患者によっては抗がん剤の投与量を少なくするなどして、治療を進めます。
4.施設によって治療法が異なる
動注療法は、いまのところ試行錯誤の段階にあります。いくつものプロトコルがあるものの、どれがもっとも治療効果の高い方法なのかはわかっていません。
というのも、動注療法のプロトコルについては、ランダム化比較試験のような、科学的な臨床試験がまだほとんど行われていないからです(低用量FP療法の臨床試験などは、最近開始されています)。
大きな医療機関では、各プロトコルの奏功率や生存率を出していることもあります。しかし、病院によって動注療法の対象となる患者の状態がかなり違うため、奏功率や生存率の高さが必ずしも、治療効果の高さを客観的に反映するわけではありません。
がんが進行しておらず、また肝臓の機能が良好な患者をも治療対象に含めていれば、それだけ生存率は高く現れます。さらに、動注療法では、2つのプロトコルを比べたときに、一方の奏功率が高くても、2年生存率はほとんど同じという例も少なくありません。
肝臓がん肝動注療法の生存率
動注療法の生存率については、まだまとまった報告がありません。全身化学療法も含め、化学療法および免疫療法全体(他の治療を受けない)では、2年生存率が10パーセント程度です。このうち、70パーセント足らずが動注療法を受けています。
-部の病院では、1年生存率が60~80パーセント、2年生存率が30~40パーセントと、やや高い生存率のデータも出ています。しかし、3年生存率になると、10パーセント前後に下がります。ただし動注療法は、進行したがんに対してのみ行われる治療であること前提としてこの数字を見る必要があります。
以上、肝臓がんの動注療法についての解説でした。