進行したら痛みや、排尿困難を改善することを重視
前立腺がんは成長が非常に遅いがんであるとともに、がんのなかでも自覚症状がとくに乏しいがんです。しかし、がんが進行し、いわゆる末期に至ると、さまざまな症状が現れます。この段階では、がんを取り除いたり、小さくしたりする治療ではなく、辛い症状を抑えるための治療法が行われます。
前立腺がん末期で見られる主な症状は、骨転移が進んでおこる骨の痛みや脊椎の圧迫骨折、そして脊髄麻痺(下半身麻痺)などです。これらは非常に大きな苦痛をもたらします。
それとともに、前立腺の周辺の臓器に影響が及んだために出てくる症状もあります。前立腺内でがんが大きくなっていくと血尿、直腸のなかに向かい背後に大きくなっていくと血便、がんが前立腺全体を満たしてしまうと排尿困難、さらにそれが進むと尿が出せなくなり、腎不全を引きおこすこともあります。
これらの症状緩和のために、次のような治療が考えられます。
・放射線療法
完治をめざした放射線療法とはまったく目的が違い、線量も異なります。末期症状緩和のためには、通常の照射量の半分以下(30Gy程度)となります。骨の痛みや麻痺にも有効です。
・骨セメント
脊椎への転移による骨の痛みや麻痺に対しては、骨セメントの注入療法という治療法があります。背中から専用の針を刺して、医療用のセメントを転移したところに注入するものです。がんのために腰が痛くて立てなかった人が、再び歩けるようになることもありQOL向上が期待できます。
・鎮痛薬による痛みの緩和
前立腺がんに限らず、ほとんどのがんの末期には疼痛(とうつう。痛み)がおこります。そこで、がんの痛みに対しては疼痛を緩和する標準的な方法が確立しており、WHO(世界保健機関)により推奨されています。三段階のアプローチにより、痛みはほぼ完全にコントロールできるといわれています。
第一段階では非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)、第二段階は弱オピオイドと非ステロイド抗炎症薬の併用、それでも十分に疼痛が緩和されない場合、第三段階としてモルヒネ製剤が使用されます。モルヒネ製剤を使うときには医師の管理のもと体調の管理が特に重要です。
尿路を確保する経尿道的前立腺切除術
前立腺がんの悪化とともに、排尿困難が進行した場合は、尿路を確保するために経尿道的前立腺切除術(TUR-Pが行われる場合もあります。
これは、前立腺肥大症に対して行われる標準的な手術であり、前立腺がんそのものに効果があるというわけではありません。あくまでも排尿困難を緩和するために、尿路を確保して尿を通す治療です。
尿道から機器を挿入し、前立腺の腫れた部分をトンネルを掘るようにくり抜いていく手術です。手術後、がんがさらに大きくなって、再び尿道がふさがった場合には、また手術を行います。
がんが大きくなると、排尿困難だけでなく、尿管の閉塞により、腎臓から尿を膀胱に送り出せずに腎不全に至る危険性が高まります。これを避けるために、尿道以外の別のルートをつくることもあります。背中から穴をあけて腎臓に尿道を通す「腎ろう」、腎臓と膀胱のあいだに細い管を通す「尿管ステント」などです。
末期になれば死に対する準備も必要ですが、どこで「治療を止める」と判断をするのも難しいことです。抗がん剤をしないのか続けるのか、などの判断はとても重要な要素です。