前立腺がんの放射線治療には、体の外から前立腺全体に放射線を照射する外照射治療と、前立腺のなかに放射線を発するもと(線源)を埋め込んで、前立腺内部から前立腺全体に放射線を照射する組織内照射療法(小線源治療=ブラキセラピー)があります。
ここでは外照射の放射線治療について説明します。
外照射を根治的に行うのは、TNM分類でT2以下の、前立腺部にとどまっているがんです。T2までの前立腺がんであれば、放射線の外照射治療と、前立腺を丸ごと摘出する手術とを比較した場合、治療成績がほとんど変わらないことがわかっています。
ただし1つの大きな違いとして、最初に手術を選べば、手術後にPSA値が下がらない、下がったものの再度上昇するなど再発がおこった場合に手術の後に放射線治療を行うことができます。
いっぽう最初に放射線治療を行った場合には、再発後に手術でがんを切除することはできません。放射線治療は手術に比べ身体的な負担が少なく、低リスクであれば治療効果もほとんど変わりませんが、治療法を選択するにあたっては、術後のこのような違いをよく考慮する必要があります。
なお、放射線治療を行った際は、治療後にもっとも低くなったPSA値プラス2.0ng/ml以上上昇した場合に再発と判断しています。
外部照射はライナックで分割照射するのが基本
外照射治療は通院で行うことができます。装置としては、直線加速器(ライナックまたはリニアックと呼ばれる)がもっとも一般的です。以前のコバルト照射とは比較にならないほど、ターゲットに対するピンポイント率が上がり、安全性、有効性共に非常に高まっています。
放射線治療では、がんの部位によって効果が期待できる放射線量が決まっていますが、その必要量を何回かに分けて照射します(分割照射)。一般には74Gy(グレイ)の線量を37回に分けて照射します。土曜・日曜は休んでウイークデーに毎日照射し、これを1カ月半続ける、というのが標準的なスケジュールです。
1回に照射する時間は数分です。1回ごとの時間は短くても、仕事をもっていたり、通院の距離が長かったりすると、毎日通わなければいけないことが、少なからず負担となることもあります。
照射する部位を確定するための3D-CRT
外照射治療には、まだ試験的な段階にあるものも含め、いくつかの照射法があります。ライナックに改良を重ねたり、あるいは新たに開発された装置を用いたりすることで、さらにピンポイント性が追求されています。
照射する部位を確定するのに有効な方法として多く用いられているのが、3D-CRT(三次元原体照射法)です。これは、三次元のCT(X線コンピューター断層画像)情報に基づいてターゲットを絞り込み、色分けで表示される精密な放射線量分布のシミュレーション画像によって照射の部位を決定する方法です。
放射線治療では、線量が多いほど前立腺がんを確実に死滅させることができます。しかし、単純に線量を増やすだけでは、直腸や膀胱などの周辺臓器への副作用の危険性も高まってしまいます。その点を改善したのが3D-CRTです。
3D-CRTによって従来の二次元情報に基づく照射に比べ、照射のターゲットを絞り込むことができるようになりました。直腸や膀胱に放射線が当たる確立が明らかに抑制されたことから、より前立腺に集中して、効率的に放射線を照射することが可能になっています。
かつては60数Gy程度しか照射することができませんでしたが、70Gyを超えるような強い線量を使うことができるようになりました。その結果、手術と同等の効果が得られるようになっています。このように放射線治療による前立腺がんの治療成績は、がんのリスクの度合いと照射する線量で決まってきます。
ターゲットの形に合わせて強度を調節できるIMRT
3D-CRTのさらなる進化形がIMRT(強度変調放射線治療)です。これは、ターゲットを前立腺と精嚢に絞り込んだうえ、さらに放射線をターゲットの全域にくまなく照射することができる方法です。それを可能にしたのが、IT技術の進歩です。
IT技術を駆使することで、ターゲットの形に合わせて照射する放射線の強度を変え(変調)、再現されたターゲットのシミュレーション画像に基づきながら治療を行います。
IMRTによって、さらに前立腺と精嚢への線量は増加させ、直腸や膀胱への線量は低減させることができるようになっています。3D-CRTやIMRTにより、照射のターゲットを絞り込むことで、線量を増加させることが可能になります。
評価が定まっていない粒子線治療
ここまで挙げた方法で使われるのはおもにX線ですが、新しい方法として、X線の代わりに陽子線や重粒子線を使った、粒子線治療と呼ばれる方法が行われるようになってきています。
X線は、ターゲットではなく体の表面に当たるときにもっともエネルギーが大きくなる性質をもっています。これに対して、陽子線や重粒子線はターゲットに当たるときに、もっとも大きなエネルギーを発揮させることが可能であり、ターゲットを通過してから先のエネルギーは、無視できるほど小さくすることができます。
このため、前立腺のように体の奥のほうに位置する臓器であっても、周辺の臓器への影響が少なく、それによっておこる男性機能障害(勃起不全)や排尿障害などの副作用を抑える効果が期待できると考えられています。
しかし、粒子線治療は始まったばかりであり、十分な報告例が蓄積されているとはいえません。とくに、進行の遅い前立腺がんでは、再発の有無など治療効果が確定するには10年以上の実績が必要とされています。2020年頃にならないとある程度の結論を出すことができないのが実情です。
また、この方法を行うための装置は非常に高額であり、設置するにも大きなスペースが必要です。そのため、これらの治療を行っている施設は、日本にはまだわずか6施設しかありません。
陽子線治療を行っているのが、筑波大学陽子総医学利用研究センター(茨城県)、国立がんセンター東病院(千葉県)、静岡県立静岡がんセンター(静岡県)、若狭湾エネルギー研究センター(福井県)、兵庫県立粒子線医療センター(兵庫県)、重粒子線治療を行っているのが放射線医学総合研究所重粒子医科学センター(千葉県)、兵庫県立粒子線医療センター(兵庫県)です。
さらに、治療費が300万円前後と経済的負担も高額にならざるをえないのが大きな課題です。
放射線治療による副作用
外照射治療の場合の副作用には、照射中から照射期間終了後3カ月以内(急性期)におこるものと、照射期間終了後3カ月以降(晩期)におこるものがあります。
急性期におこる副作用は、治療が終われば自然に解消されます。症状は頻尿、排尿時の痛みなどの排尿障害、皮膚の赤みやただれなどです。照射の最中に徐々に悪化し、照射による治療直後にもっとも悪化し、その後1~2カ月ほどでおさまります。
晩期におこる副作用は、人によって時期も頻度もまちまちです。治療終了後数年経ってから出る人もいたり、何も出ない人もいたりして、大きな個人差がみられます。
おもな症状としては、血尿、血便、直腸狭窄などがあり、ひどい場合は入院が必要となることもあるので、注意が必要です。定期的な診察を欠かさないようにし、症状を見逃さないことが大切です。
男性機能障害(勃起不全)も晩期におこる副作用の一つであり、1年半から2年くらいの長期の経過観察が必要とされています。治療後1年間の状態を、手術と比較した場合、手術ではそれ以後も機能回復傾向がみられるのに対し、放射線治療ではむしろ低下傾向がみられたという報告があります。照射する線量が増えるにしたがって、男性機能障害が増えてきているとの指摘もあります。
以上、前立腺がんの放射線治療に関する解説でした。