前立腺がんは、ほとんどがゆっくり進行するがんです。大きくなったり、浸潤して広がったりするまでには時間がかかるので、がんが見つかったからといってそれほど慌てる必要はなく、どうすべきかを考える時間は十分にあります。
がんであることがわかったら「早くなんとかしたい」と考えるのがふつうですし「慌てないでゆっくり考えて」といってもなかなか難しいのが現実ですが、(早期であれば)前立腺がんは、時間をかけて納得いくまで自分に合う治療法について検討できるがんだといえます。
実際に、診断が確定してから治療を開始するまでの期間とその治療効果を比較したアメリカの研究によると、低リスクの場合、前立腺がんの診断がついてから手術を行うまでの期間が、2カ月、4カ月、6カ月の3つのグループで、最終的な生存期間に差がありませんでした。
つまり、この研究報告によれば「放射線治療の密封小線源療法(ブラキセラピー)の対象になるような患者さん、すなわち、低リスクの方であれば、少なくとも数カ月は治療を待ってもよい」ということができます。
治療をすぐに始めなくても経過の観察は必要。
ただ、治療を待ってもよいとはいうものの、なにもせず漫然と待つわけではありません。PSA値の定期的なチェックは続け、ある程度がんが進んできた兆候が確認されたら、すぐに手術や放射線治療を行えるようにしておく必要はあります。何かあったら、即座に対応できる体制を整えつつ、経過を観察するということです。
このようにすぐに治療を開始せずに経過をみることを「待機療法」といいます。何も手は入れないので療法というには違和感がありますが、医療の世界ではこう呼ばれます。
治療を途中で休むこともある。
前立腺がんには手術、放射線治療、ホルモン療法などの治療法があります。リスク分類によって選択肢はいろいろですが、患者さんの意向によっては、当初からホルモン療法を行う場合もあります。ただし、ホルモン療法は薬の耐性によりいずれ効果が期待できなくなることがわかっています。
そこで、PSA値をチェックしながら、がんが増悪をし始めてから薬を使えばよいのではないか、薬を使い始める時期をできるだけ後ろに延ばせば、それだけ寿命も延ばせるのではないかとの考え方もあります。
しかし、ホルモン療法を選んだ患者さんで、PSA値の定期的な監視は続けながら、治療の開始時期を延ばすことがよい結果をもたらすかどうかについては、まだ結論が出ていません。
またホルモン療法を始めてから、途中で休止期間を設け、時間を置いてから再開するという方法もあります。これにより薬が効果を発揮する期間を長く使用とする試みです。これを間欠療法といいます。
以上、前立腺がんの治療に関する解説でした。