前立腺がんは他の部位のがんと比べても特に自覚症状に乏しいがんです。自覚症状はかなり進行した状態でないと感じないので、体の不調による早期発見は難しいといえます。早期発見に有効な検査法であるPSA検査の含まれる健診が普及し始めているとはいっても、実際には、がんが「前立腺にとどまっていない状態」で見つかるケースも多いといえます。
この段階で見つかった場合には、医療行為として根治を目指すことはできません。進行がん・転移がんの場合根治を期待できる治療法はないといえます。
がんが明らかに前立腺の外まで広がっている場合、2つの状態が考えられます。前立腺が接している臓器(精嚢や直腸)にがんが及んでいる「局所進行がん」と呼ばれる状態と、前立腺とは接していない臓器にがんが転移している「転移がん」と呼ばれる状態です。いずれも、治療法は化学療法(ホルモン療法や抗がん剤など薬を使った治療)のみとなります。
1:がんの広がりを確認
PSA値が4ng/ml以上であれば、前立腺がんの可能性があるので、直腸診や針生検を受けることになります。検査によって、明らかにしなければならないことは、がんであるかどうか、そして、がんが前立腺部にとどまっているのか、すでに前立腺の外まで広がっているのか、ということです。
がん細胞の悪性度などもかかわってきますが、治療法選択の大きなポイントはがんの広がり(進行度)によります。
直腸診では、肛門から人さし指を入れて前立腺を触り、前立腺全体の大きさ・硬さ・直腸に面している部分の状態・精嚢の状態などから、がんの広がりを確認します。さらに、骨シンチグラフィーにより骨転移を調べ、CT検査によりリンパ節転移を確認します。
これらの検査の結果、前立腺に隣接する精嚢や膀胱、直腸にまで広がっている場合は局所進行がんだと診断します。さらに骨、リンパ節など、前立腺とは接していない臓器にまで転移している場合は転移がんと診断されます。前立腺がんは、とくに骨(脊椎骨、骨盤骨、肋骨など)に転移することが多いがんです。
ステップ2:ホルモン療法
局所進行がんにしろ、転移がんにしろ、がんが明らかに前立腺の外まで広がっている場合は、根治を目指す治療である手術や放射線治療を行うことはできません。手術によって前立腺を丸ごと取り出したり、前立腺に集中的に放射線を照射したりしても、どこかにがんが残ることになるからです。
このため、局所進行がんや転移がんでは、がんの進行を抑えることを目的とした長期のホルモン療法を行うことになります。ホルモン療法は、注射剤を用いる方法、飲み薬を用いる方法、それらを組み合わせる方法の3つがあります。
●LH-RHアナログ薬の投与法
1カ月に1回または3カ月に1回の皮下注射
酢酸ゴセレリン
酢酸リュープ口レリン
●抗アンドロゲン薬の投与法
ビカルタミド80mgを1日1回
フルタミド125mgを1日3回
酢酸クロルマジノン50mgを1日2回
●MAB療法
LH-RHアナログ薬+抗アンド口ゲン薬
すべての薬には耐性があるためこれらの薬はしだいに効かなくなることがわかっています。その場合には、効果を見極めながら、ステロイド薬、さらには抗がん薬に移行することがあります。また骨転移による痛みやがんの進行による排尿困難などの症状が現れた場合は、それを緩和する治療を行います。
3:定期的にPSA値をチェック
3~4カ月に1回ずつPSA値をチェックします。PSA値を参考にしながら、ホルモン療法の中止や薬の変更などを検討します。
以上、前立腺がんの治療に関する解説でした。