前立腺がんの検査においては血液内の「PSA」という項目の数値が重視されます。
PSAは前立腺の異常に限って反応するため「前立腺特異抗原」と呼ばれているものです。前立腺がんにもよく反応して濃度が高くなるため、前立腺がんのリスクを判定するために欠かせない指標となっています。
同時に治療後の再発の有無を調べる腫瘍マーカーとなります。ただし、がんであるかどうか、再発しているかどうかを、PSAが100%反映するわけではないことも理解しておく必要があります。
PSA値は、前立腺がんができている確率、前立腺にがんができている疑いの程度を示しています。PSA値はあくまで前立腺がんをみつけるための道具(手段)であって、PSA値だけで「がんです」との診断はできません。
「前立腺にがんがあります」という結論を出すための検査は前立腺に針を刺して採取した組織を顕微鏡で調べる針生検です。これ以外の確定診断方法はなく、これは世界共通です。針生検の結果を見ない限り前立腺がんの診断は確定できず、どんな治療も始めることはできません。
PSA値が示しているのはあくまで「がんが見つかる確率」です。たとえば、PSA値が4~10ng/ml未満の人が針生検を受けると25~35%、10ng/ml~20ng/ml未満の人で30~45%、20ng/ml以上の人では50~80%の確率で前立腺がんが見つかるといわれています。
さらに、がんであることが確定したのちには、リスク分類を行いますが、PSA値はその指標の一つで次のように分かれます。PSA10ng/ml未満なら低リスクに入る可能性があり、10ng/ml以上20ng/ml未満なら中リスクまたは高リスク、20ng/ml以上なら高リスクと決定されます。
低リスクの可能性が残る、つまりPSA10ng/ml未満のうちに治療を開始できれば、手術であっても放射線療法であってもじゅうぶんにがんを制御できるといえます。
前立腺がん以外でもPSA値は上昇する
PSAはほかの臓器の異常では数値が上昇せず、前立腺の異常だけに反応して数値が上昇します。前立腺の異常といっても「がん」だけではないので、PSA値の上昇がすべてがんによると結論づけることはできません。前立腺がん以外では、次のような場合にPSA値が上昇する可能性があります。
・前立腺肥大症
前立腺が大きくなる病気です。60歳代の男性の約半数、70歳を超えると70~80%の男性に認められるほど頻度の高い病気です。前立腺肥大症が悪化して、前立腺がんになることはありませんが合併していることはしばしばあります。
合併している場合は、治療法の選択にかかわってくることもあるので注意が必要です。まったく症状のない前立腺がんとは違い、前立腺肥大症では、尿が出にくくなるとか頻尿などの症状がみられます。
・細菌感染などによる前立腺の炎症
急性・慢性前立腺炎が発症している場合もPSA値が上昇します。急性前立腺炎は高熱を伴うため気づきやすいのですが、慢性前立腺炎はほとんどわからないといえます。病気自体の原因も概念もはっきりしていません。
・針生検などの検査や手術
検査や治療によって、前立腺が傷つけられてしまったときも、PSA値が高くなります。尿道からチューブを通して排尿できるようにする導尿や、膀胱鏡検査のあとも、一時的に上昇します。
・直腸診や前立腺マッサージ
前立腺に物理的な力が加わったときにもPSA値が高くなります。
このように前立腺がん以外でもPSA値が上昇する可能性は少なくありません。前立腺がんを早期に発見するためには、PSA値が4ng/mlを超えたら、針生検をふくむ精密検査を受けることが望ましいといえますが、PSA値はたまたまなにかの事情で高くなる可能性がある数値で、一度測っただけでは信用できないのも事実です。
PSA値が初めて4ng/mlを超えたからといって、すぐに針生検を行うわけではないのは、このような理由があるからです。
年間0.75ng/ml以上のPSA値の上昇には注意
一般的には(10未満の場合)一回のPSA検査の数値だけで判断せず、2~3カ月おきに数回PSA値を測定して、その動きをみたうえで判断することになります。
なんらかの理由でたまたまPSA値が上がっていたときには、その後、数値が下がる傾向を示します。その結果PSA値が4ng/ml未満になった場合は、がんの心配はほとんどないといえるでしょう。
これに対して、徐々にではあるが数値が上昇する、あるいは高かった数値がなかなか下がらず何回測っても似たような数値を示す場合は、がんがみつかる確率が高いといえます。たとえば、1年間にPSA値が0.75ng/mlを超えて上昇する場合は、前立腺がんがみつかる危険性が高まるという報告があります。
このほかにも、PSA値の読み方としては、一回一回の値の高低のみではなく、連続的な変化としてとらえることが重要です。そのためのポイントがいくつかあります。一度PSA値が4ng/mlを超えたら、そののち数回の測定を行い、がんの危険性を示すようであれば針生検を受けるほうがよいでしょう。
前立腺がんの診断と直腸診
前立腺がんは体積が0.2mlを超えれば、がんのある場所によっては直腸診で検出が可能とされています。前立腺の背中側は直腸と接しているため、肛門から直腸に人さし指を入れると、腸壁越しに前立腺にふれることができるからです。
前立腺がんの一部のタイプには、PSA検査が無効であることがわかっています。直腸診は、このタイプのがんをみつけるのに役立ちます。とくに自覚症状のない男性に直腸診を行った場合でも、0.1~4%の碓率でがんが見つかる、という統計もあります。
PSA値にかかわらず、この直腸診で「異常あり」とされた場合は、積極的に針生検が勧められます。PSA検査と直腸診の併用で、前立腺がんをみつける精度をより高められるといえます。
また、直腸診は前立腺がんが見つかったときには、そのがんが前立腺部にとどまっている(限局性)かどうかの判定、とどまっている場合はリスク分類を決めるためにも必要です。がんが明らかに前立腺の外まで広がっている場合は手術や放射線は適応とならず、治療法は化学療法(ホルモン療法など薬を使った治療)のみになります。
以上、前立腺がんに関するお話でした。