こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
肺がんの中でも非小細胞肺がんと診断された患者さんの中には、EGFR遺伝子変異陽性という検査結果を受け取る方がいます。
このタイプの肺がんに対して、タルセバ(エルロチニブ)とサイラムザ(ラムシルマブ)を組み合わせた治療法が選択肢の一つとなっています。
この記事では、タルセバ+サイラムザ併用療法について、どのような薬なのか、どんな効果が期待できるのか、副作用にはどのようなものがあるのか、そして費用や保険適応について詳しく解説します。
タルセバ+サイラムザ療法とは
タルセバ+サイラムザ療法は、2つの異なる作用を持つ分子標的薬を組み合わせた治療法です。
タルセバは飲み薬(経口薬)で、サイラムザは点滴で投与する注射薬です。
この組み合わせは、EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに対して、2020年に日本で承認されました。
RELAY試験という国際共同臨床試験の結果に基づいており、タルセバ単独よりも病気の進行を遅らせる効果が確認されています。
対象となる患者さん
この治療法の対象となるのは、以下の条件を満たす患者さんです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| がんの種類 | 非小細胞肺がん |
| 遺伝子変異 | EGFR遺伝子変異陽性(特にエクソン19欠失変異またはL858R変異) |
| 病期 | 切除不能な進行・再発の状態 |
| 治療歴 | 初回治療(一次治療)として使用可能 |
EGFR遺伝子変異は、日本人の肺腺がん患者さんの約40%に認められます。
特に非喫煙者の腺がんで多く見られる特徴があります。
「自分の判断は正しいのか?」と不安な方へ
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治療法より“たった1つの条件”です。
まず、それを知ってください。
がん専門アドバイザー 本村ユウジ
タルセバとサイラムザの特徴
タルセバ(エルロチニブ)の作用
タルセバは、EGFR(上皮成長因子受容体)チロシンキナーゼ阻害薬と呼ばれる薬です。
がん細胞の表面にあるEGFR受容体に働きかけ、がん細胞の増殖に必要な信号が伝わるのを阻害します。
第一世代のEGFR阻害薬として、長年使用されてきた実績があります。
サイラムザ(ラムシルマブ)の作用
サイラムザは、VEGFR-2(血管内皮増殖因子受容体-2)に対する抗体薬です。
がん細胞が成長するために必要な新しい血管ができるのを抑える働きがあります。
がん細胞への栄養や酸素の供給を遮断することで、がんの増殖を抑制します。
この2つの薬を組み合わせることで、EGFRとVEGFRという2つの経路を同時に阻害し、より効果的にがん細胞の増殖を抑えることができます。
治療効果:奏効率と生存期間
RELAY試験の結果から、タルセバ+サイラムザ併用療法の効果が明らかになっています。
| 評価項目 | 結果 |
|---|---|
| 奏効率(がんが縮小した割合) | 76% |
| 病勢コントロール率 | 95% |
| 無増悪生存期間(中央値) | 19.4カ月 |
奏効率76%という数字は、10人中7~8人の患者さんでがんの病巣が治療前と比べて明らかに縮小したことを意味します。
また、病勢コントロール率95%は、がんが縮小しなくても進行が止まった状態を含めた割合です。
無増悪生存期間19.4カ月という結果は、タルセバ単独治療と比較して約7カ月の延長を示しており、統計学的に意味のある改善です。
ただし、全生存期間(OS)については、タルセバ単独との明確な差は認められていません。
日本人患者さんでのデータ
日本人の患者さんを対象とした解析でも、エクソン19欠失変異とL858R変異のどちらのタイプでも、タルセバ単独よりも無増悪生存期間の延長が確認されています。
特にL858R変異を持つ日本人患者さんでは、無増悪生存期間だけでなく全生存期間の改善傾向も報告されています。
投与方法と投与スケジュール
タルセバの投与方法
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 投与量 | 150mg |
| 投与頻度 | 1日1回 |
| 投与方法 | 経口(飲み薬) |
| 服用タイミング | 食事の1時間以上前、または食後2時間以降 |
サイラムザの投与方法
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 投与量 | 10mg/kg(体重1kgあたり10mg) |
| 投与頻度 | 2週間に1回 |
| 投与方法 | 点滴静注 |
| 投与時間 | 初回:約60分、2回目以降(問題がなければ):約30分 |
投与前の準備
サイラムザ投与時には、アレルギー反応(インフュージョンリアクション)を軽減するため、抗ヒスタミン薬(d-クロルフェニラミン5mg)を事前投与することが推奨されています。
副作用とその対策
タルセバ+サイラムザ併用療法では、それぞれの薬剤の副作用が出現する可能性があります。
主な副作用の頻度
| 副作用 | 全グレード | グレード3以上(重度) |
|---|---|---|
| ざ瘡様皮疹(にきびのような発疹) | 67% | 15% |
| 下痢 | 70% | 7% |
| 爪囲炎(爪の周りの炎症) | 53% | 4% |
| 高血圧 | 45% | 24% |
| ALT上昇(肝機能異常) | 43% | 9% |
| 口内炎 | 42% | 2% |
| 皮膚乾燥 | 38% | 1%未満 |
| 脱毛 | 34% | 0% |
| 尿蛋白 | 34% | 3% |
| 鼻出血 | 33% | 0% |
重要な副作用と対策
皮膚症状(ざ瘡様皮疹、皮膚乾燥)
タルセバによる皮膚症状は比較的頻度が高い副作用です。
顔面や体幹を中心ににきびのような発疹が出現することがあります。
対策として、症状の程度に応じてステロイド外用薬を使用します。
軽症の場合は外用薬のみで対応可能ですが、中等症以上では抗菌薬(ミノサイクリン100~200mg/日)の内服を併用することがあります。
重症化した場合は、治療薬を一時休薬し、皮膚科専門医と連携した対応が必要です。
下痢
下痢も比較的頻度の高い副作用です。
症状が出現した場合は、脱水に注意しながら整腸薬やロペラミドなどの止痢薬で対処します。
水分補給を十分に行い、症状が続く場合は早めに医療機関に相談することが大切です。
高血圧
サイラムザによる高血圧は注意が必要な副作用です。
自宅での血圧測定と記録が推奨されます。
収縮期血圧180mmHg、拡張期血圧110mmHg以上、または高血圧による頭痛、吐き気、呼吸苦などの症状が出た場合は、速やかに医療機関に連絡する必要があります。
症状のあるグレード2以上の高血圧、またはグレード3以上の場合は、降圧薬による治療を行い、血圧がコントロールできるまでサイラムザを休薬します。
蛋白尿
治療中は定期的に尿検査を行い、蛋白尿の有無を確認します。
1日尿蛋白量が2g以上になった場合、初回発現時は8mg/kgに減量、2回目以降は6mg/kgに減量して再開します。
1日尿蛋白量が3g以上、またはネフローゼ症候群を発症した場合は、サイラムザの投与を中止します。
出血
鼻出血や歯肉出血、喀血、血尿などの出血症状が認められることがあります。
15分以上止まらない出血がある場合は、医療機関に連絡することが推奨されます。
間質性肺疾患
まれですが重篤な副作用として間質性肺疾患があります(発現率1%)。
発熱、息切れ、咳などの初期症状に注意し、これらの症状が出た場合は速やかに医療機関を受診する必要があります。
費用と保険適応
薬剤費
2025年の薬価基準に基づく費用の目安は以下の通りです。
| 薬剤 | 薬価 |
|---|---|
| タルセバ錠150mg(1錠) | 約4,506円 |
| サイラムザ点滴静注液100mg(1瓶) | 約76,659円 |
| サイラムザ点滴静注液500mg(1瓶) | 約362,032円 |
1カ月あたりの概算費用
体重60kgの患者さんを例にすると、サイラムザの1回投与量は600mg(10mg/kg×60kg)となります。
2週間に1回の投与なので、1カ月で2回投与を受けることになります。
1カ月の薬剤費概算(3割負担前):
- タルセバ:4,506円×30日=約135,000円
- サイラムザ:(500mg瓶1本+100mg瓶1本)×2回=約877,000円
- 合計:約1,012,000円(3割負担の場合、約304,000円)
ただし、これは薬剤費のみの概算であり、実際には点滴の管理料や検査費用なども加わります。
高額療養費制度の利用
このような高額な治療費に対しては、高額療養費制度を利用することで自己負担を軽減できます。
この制度は、1カ月間の医療費が一定額を超えた場合、超過分が払い戻される仕組みです。
| 所得区分(70歳未満) | 自己負担限度額(月額) |
|---|---|
| 年収約1,160万円以上 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% |
| 年収約770万~約1,160万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% |
| 年収約370万~約770万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
| 年収約370万円以下 | 57,600円 |
| 住民税非課税 | 35,400円 |
例えば、年収600万円の患者さんの場合、月の医療費が100万円かかったとしても、自己負担額は約8万7,000円に抑えられます。
さらに、直近12カ月間に3回以上高額療養費の支給を受けている場合は、4回目以降の自己負担限度額がさらに引き下げられる「多数回該当」という仕組みもあります。
限度額適用認定証の活用
高額な医療費が見込まれる場合は、事前に「限度額適用認定証」を取得することをお勧めします。
この認定証を医療機関の窓口に提示することで、支払額を最初から自己負担限度額までに抑えることができ、一時的な高額支払いを避けられます。
限度額適用認定証は、加入している健康保険組合や市区町村の窓口に申請して取得します。
また、2021年10月からは、マイナンバーカードを健康保険証として利用できる医療機関では、事前の申請や認定証の提示なしに自動的に限度額適用が受けられるようになっています。
日常生活への影響
通院スケジュール
タルセバは自宅で毎日服用する薬なので、入院の必要はありません。
サイラムザは2週間に1回の通院で点滴治療を受けます。
初回は60分程度、2回目以降は問題がなければ30分程度で終了します。
食事について
タルセバは食事の影響を受けるため、服用タイミングに注意が必要です。
食事の1時間以上前、または食後2時間以降に服用してください。
胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカー)との併用は、タルセバの吸収を低下させる可能性があるため、主治医に相談が必要です。
その他の注意点
喫煙はタルセバの血中濃度を低下させることが報告されています(AUCが64%減少)。
治療効果を十分に得るためにも、禁煙が強く推奨されます。
サイラムザは手術の傷の治りを遅らせる可能性があるため、手術前後少なくとも4週間は投与を避ける必要があります。
他の治療選択肢との比較
EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんに対しては、現在、複数の治療選択肢があります。
第三世代EGFR阻害薬であるオシメルチニブ(タグリッソ)が標準治療として広く使用されており、日本の国立がん研究センター中央病院でも一般的に使用されています。
タルセバ+サイラムザ併用療法は、オシメルチニブと同程度に効果的であると考えられていますが、副作用のプロファイルや投与の利便性(経口薬単独 vs 経口薬+点滴)などを考慮して、患者さんの状態に応じて選択されます。
まとめ
タルセバ+サイラムザ併用療法は、EGFR遺伝子変異陽性の進行・再発非小細胞肺がんに対する有効な治療選択肢の一つです。
2つの異なる作用機序を持つ薬剤を組み合わせることで、無増悪生存期間の延長が期待できます。
ただし、皮膚症状、下痢、高血圧などの副作用が比較的高い頻度で出現するため、適切な管理と対策が必要です。
治療費は高額になりますが、高額療養費制度を利用することで自己負担を軽減できます。
治療法の選択にあたっては、主治医とよく相談し、自分の病状や生活状況、希望する治療方針などを総合的に考慮して決めることが大切です。
参考文献・出典情報
- 日本がん対策図鑑 EGFR陽性肺がん:一次治療「サイラムザ+タルセバ」vs「タルセバ」
- 国立がん研究センター中央病院 肺がん
- オンコロ サイラムザ EGFR変異陽性の進行非小細胞肺がんの一次治療としてFDAの承認を取得
- 日本イーライリリー サイラムザ適正使用ガイド(非小細胞肺癌編:エルロチニブまたはゲフィチニブ併用)
- がんサポート タルセバの使用で、生存期間がさらに延長する EGFR遺伝子変異に注目!
- 日経メディカル サイラムザ点滴静注液100mgの基本情報
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