人工肛門は、腸管の一部を腹壁の外に引きだしたもので、便がそこから出るようにするものです。お腹に便の新しい排泄孔(ストーマといいます)ができることになります。とくに人工的な械器を用いるわけではありません。
直腸がんの手術で自然肛門を切除せざるをえない場合は、通常、左下腹部にS状結腸を引きだし、これを人工肛門として体の一部としてつきあうことになります。
孔(ストーマ)は普通、10円銅貨ぐらいの大きさに作られます。昔の人工肛門は時間とともに孔が狭くなり、そのため絶えず指を入れて拡張する必要がありましたが、最近は作り方がくふうされて狭くなるようなことはなくなりました。
そのほか特別な場合として孔が2つのものや、S状結腸でなく横行結腸や上行結腸、回盲部に作られることもあります。大腸を全部切除すると結腸はなくなり、便の排泄孔は回腸となって、これを回腸肛門といいます。人工肛門を作る位置が結腸の口側にいくほど、排泄される腸内容は液状になります。
近年、術後の生活の質(QOL)が重視され、肛門を残すよう努力されています。直腸がんを手術した場合、以前はほとんどの患者さんが人工肛門をつけることになっていましたが、今は1~2割の人以外はつけずに温存手術をすることができます。
肛門括約筋温存術
肛門を残すということは、肛門の働きを残すということです。肛門は排便時以外は閉じていないといけないので、そのためには肛門括約筋を残さないといけません。この括約筋を残す手術を肛門括約筋温存(手)術といいます。
肛門括約筋は肛門出口から3センチぐらいのところにあります。がんがここまで広がっていれば肛門を残すことは危険でできませんが、広がっていなければ肛門を残すことができる、ということです。
しかし残した肛門と腸をつなげることは手術としては難易度が高いのですが最近では簡単な自動吻合器が開発され、少し慣れれば経験の浅い医師でもやりやすくなっているようです。
もちろん、がんが肛門括約筋まで広がっていれば肛門を残すことはできません。手術の条件は「確認できているがんを全て取りきれること」が条件だからです。全て取りきれずに手術をすると再発のリスクが極めて高いので、手術をするメリットがないといえます。
なお、がんが肛門まで広がっているかいないかは、実際は切除して顕微鏡で組織検査をしないとわからないわけですが、経験を積んだ医師は事前にある程度見当がつきます。
温存手術を受けられるかどうかは検査の時点で確定するので医師の見極めの技量が重要なポイントになります。人工肛門にしなくても良いのに人工肛門にされたり、逆に危険なのに無理に残して将来再発してしまうリスクがあります。
また、括約筋温存術を受けれたとしても自然の肛門を残せたとしても、本来の便を一時的にためる直腸がなくなっているので、健康なときのように1日1回の排便というわけにはいきません。とくに肛門近くにつなぐほど回復に時間がかかり、手術後2~3年たっても1日に3~4回トイレに行かなければならない場合も少なくありません。
また、便を一度に押し出す力も弱く、一度の排便に10~15分かかることもあります。残っている直腸の長さや年齢などによって変わります。残っている直腸が長ければ、また年齢が若ければ回復が早いといえます。もちろん、手術の出来・不出来も大いに関係します。
以上、直腸がんの人工肛門についての解説でした。