
がん闘病中の生理が止まる・生理不順の原因と対策
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
婦人科系のがん(子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、乳がん)の治療中や、その他のがん治療を受けている際に、生理が止まったり、生理が来なくなったりする、いわゆる「月経停止(無月経)」や「閉経」の状態になることがあります。
主な原因は手術による卵巣機能の低下や喪失、抗がん剤やホルモン療法薬の副作用によるものです。しかし、それ以外にも、ストレスや栄養状態の変化など、複数の要因が関係しています。
この記事では、がん闘病中に起こる生理停止や閉経の原因、実施可能な対策や治療、妊孕性温存の最新情報についてまとめています。
医学用語としての「月経停止」「閉経」とは
これまであった月経が停止することを月経停止といいます。妊娠、出産、授乳のような生理的な理由以外で3か月以上月経が停止したものを「続発性無月経」と呼びます。
「閉経」は卵巣の活動が次第に低下し、月経が永久に停止することを指します。医学的には、月経が12か月以上ない状態を閉経としています。
がん治療で生理が止まる主な原因
がん治療に伴う月経停止や閉経には、いくつかの原因があります。以下、原因ごとに詳しく見ていきます。
がん(腫瘍)そのものによる影響
脳腫瘍または脳への転移がある場合、視床下部や下垂体系のホルモン分泌に障害が生じることで、月経が停止することがあります。
手術による影響
子宮や卵巣の摘出手術により、生殖機能が喪失または低下することで月経が止まります。
| 手術の種類 | 生理への影響 |
|---|---|
| 子宮全摘出術 | 月経は完全に停止します |
| 両側卵巣切除術 | 卵巣機能が消失し、月経が停止します |
| 片側卵巣切除・部分切除 | 残存した卵巣が機能を補うことが多いですが、卵子数減少により機能不全となる場合もあります |
卵巣が残っている場合でも、手術時の血流障害や、後に行われる化学療法・放射線療法の影響で、閉経が早まることがあります。
化学療法(抗がん剤治療)による影響
抗がん剤には、卵巣機能に大きく影響するものと、ほとんど影響しないものがあります。薬剤の性腺毒性が強いほど、また年齢が高くなるほど、障害が起こりやすくなります。
2025年の医学研究によれば、化学療法による卵巣機能低下は治療後1年以内に生じやすく、発症率は患者さんの状態によって20~100%と幅があります。
乳がん治療で使用されるタモキシフェンなどのホルモン療法薬では、卵巣への直接的な毒性は少ないものの、治療期間が長期にわたるため、治療を終えるころに自然閉経を迎える場合があります。
また、ホルモン療法によってホルモン分泌のバランスが崩れることで、月経異常や月経停止が起こることもあります。
化学療法による月経停止のメカニズム
化学療法に関連した月経停止には、主に3つのメカニズムがあります。
1. 卵巣への直接的障害
抗がん剤が血液を介して卵胞へと移行し、原始卵胞や発達段階の卵胞に直接障害を与えます。これにより発育卵胞が減少または消失し、月経が停止します。
2. ホルモン分泌の障害
抗がん剤の投与により、視床下部のホルモン産生経路に影響が及び、性腺機能が抑制されて月経周期の異常が起こります。
3. ストレスや体調変化による影響
化学療法によるストレス、低栄養、体重減少などにより、視床下部や下垂体に異常が生じ、無月経を起こすことがあります。
放射線治療による影響
放射線は卵巣内の原始卵胞数を減少させます。直接照射だけでなく、散乱した放射線の被曝も考慮する必要があります。
骨盤への放射線照射は卵子数を減少させ、卵巣機能低下を起こすため、月経が停止します。総照射線量が増加すると、治療後早期に永続的な卵子消失が生じます。
照射線量と卵巣機能障害の関係性は年齢によって異なり、年齢が高いほど影響を受けやすくなります。
その他の要因
がん治療以外にも、以下のような要因が月経停止に関係します。
- 加齢による卵巣機能の低下
- 精神的・心理的ストレス
- 社会・生活環境の変化
- 体重減少や栄養状態の変化
- 内分泌疾患や摂食障害
治療法別の無月経リスク分類
米国臨床腫瘍学会(ASCO)の指針に基づき、治療法ごとの無月経リスクを分類すると以下のようになります。
化学療法による無月経リスク
| リスク分類 | 治療内容 | 無月経になる割合 |
|---|---|---|
| 高リスク | アルキル化薬+全身照射 アルキル化薬+骨盤照射 シクロホスファミド総量5g/㎡以上(40歳以上) プロカルバジン含有レジメン |
70%以上 |
| 中間リスク | シクロホスファミド総量5g/㎡(30~40歳) AC療法+タキサン系薬剤 FOLFOX4療法 シスプラチン含有レジメン |
30~70% |
| 低リスク | 低用量アルキル化薬 アントラサイクリン系+シタラビン |
30%未満 |
放射線治療による無月経リスク
| リスク分類 | 治療内容 | 無月経になる割合 |
|---|---|---|
| 高リスク | 全身照射(40Gy未満) 全腹部・骨盤照射 頭蓋照射(40Gy未満) |
70%以上 |
| 中間リスク | 腹部・骨盤照射(5~15Gy) | 30~70% |
| 超低リスク | 放射性ヨウ素 | 非常に低い |
手術による生理停止への対策と治療法
妊孕性温存のための対応
子宮が温存される場合、治療開始前に卵子・受精卵などの凍結保存を実施することがあります。2025年現在、多くの自治体で妊孕性温存療法に対する助成制度が整備されています。
妊孕性温存療法には以下の方法があります。
| 温存方法 | 特徴 | 推奨度 |
|---|---|---|
| 胚(受精卵)凍結 | 卵子と精子を受精させて凍結保存 最も妊娠率が高い |
推奨グレードB (高い推奨度) |
| 未受精卵子凍結 | 未婚の方も可能 融解後の生存率80~90% |
推奨グレードC |
| 卵巣組織凍結 | 思春期前や時間的猶予がない場合 研究段階の技術 |
研究段階 |
国立がん研究センターによれば、妊孕性温存療法は安全性・有効性が確立した技術であり、がん患者さんに対しても適用が可能です。ただし、将来の妊娠・出産を約束するものではありません。
卵巣欠落症状への対応
両側卵巣切除術後などで生じる卵巣欠落症状(更年期様症状)に対しては、ホルモン補充療法が検討されます。
具体的には、エストロゲンを主としたホルモン補充療法(カウフマン療法)が提案されます。子宮を有する患者さんでは、エストロゲン製剤にプロゲスチン製剤を併用します。
精神症状(不安、うつ状態など)に対しては、症状により抗不安薬や抗うつ薬が提案される場合があります。
化学療法による生理停止への対策と治療法
GnRHアゴニストによる卵巣保護
2025年の最新研究によれば、化学療法中にGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)アゴニストを併用することで、一定の卵巣保護作用が期待できることが分かってきています。
GnRHアゴニストは、脳下垂体からの性腺刺激ホルモン分泌を抑制し、卵巣を休眠状態にすることで、抗がん剤の影響を軽減する可能性があります。
ただし、日本がん・生殖医療学会の見解では、GnRHアゴニストの卵巣保護効果については議論が分かれており、妊孕性温存の第一選択とはなっていません。しかし、比較的安価で簡便に使用できるため、卵子凍結などができない場合に患者さんとの話し合いのもとで適用が考慮されています。
乳がん患者さんを対象とした研究では、GnRHアゴニストの併用により月経回復率や自然妊娠率の改善が報告されています。
ホルモン補充療法
長期に月経が回復しない場合には、エストロゲンを主としたホルモン補充療法が提案されます。
化学療法後に閉経前の患者さんで早期閉経が引き起こされ、更年期様症状(ホットフラッシュ、発汗、不眠など)が出現することがあります。これらの症状に対して、ホルモン補充療法は有効な治療選択肢となります。
妊孕性温存の実際
化学療法開始前の妊孕性温存では、時間との勝負となります。
通常の排卵誘発では月経周期に合わせる必要がありますが、「ランダムスタート刺激」という方法により、月経周期に関係なく、通常10~14日程度で卵子採取が可能です。
ホルモン受容体陰性乳がん(トリプルネガティブ乳がん)の場合でも、レトロゾール(アロマターゼ阻害薬)を併用することで、エストロゲン上昇を抑えながら排卵誘発を行うことができます。
放射線治療による生理停止への対策と治療法
卵巣位置移動術
骨盤に放射線照射を行う場合、生殖機能の保護のために、治療開始前に卵巣位置移動術を実施することがあります。
腫瘍摘出術の際、あるいは放射線治療前に、卵巣を照射野から可能な限り離れた部位に移動させて固定します。
子宮頸がんで骨盤照射を受ける場合、卵巣を腸骨稜より1.5cm以上高位に移動させた群では、卵巣機能が保持される割合が有意に高いという報告があります。
卵子・卵巣組織の凍結保存
放射線治療開始前に、卵子凍結や卵巣組織凍結を行うことで、妊孕性を温存できる可能性があります。
卵巣組織凍結は、腹腔鏡手術で卵巣の一部または全部を摘出し、卵巣皮質(卵巣表面の組織)を凍結保存する方法です。思春期前の患者さんや、時間的猶予がない場合に適用されます。
ホルモン補充療法
卵巣欠落症状や無月経期間が長期にわたる場合には、ホルモン補充療法が提案されます。
エストロゲン欠乏による症状(ホットフラッシュ、腟の乾燥、骨粗鬆症のリスク上昇など)に対して、ホルモン補充療法は重要な治療選択肢です。
妊孕性温存療法の助成制度
2026年現在、全国の都道府県で「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」に基づく助成制度が実施されています。
助成の対象となる方
- 妊孕性温存療法の凍結保存時に43歳未満の方
- 原疾患の治療により妊孕性が低下または失われる可能性がある方
- 生殖医療を専門とする医師と原疾患担当医師により、妊孕性温存療法が適切と認められた方
- 研究への臨床情報提供に同意する方
助成の対象となる治療
| 治療内容 | 助成上限額(目安) |
|---|---|
| 胚(受精卵)凍結 | 35万円 |
| 未受精卵子凍結 | 20万円 |
| 卵巣組織凍結 | 40万円 |
| 精子凍結 | 2.5万円 |
※助成額は都道府県により異なる場合があります。詳細は居住地の都道府県にお問い合わせください。
申請方法
助成を希望する方は、居住地の都道府県に申請を行います。申請に必要な書類には、妊孕性温存療法実施証明書、原疾患治療実施証明書、領収書などが含まれます。
がん治療の主治医と生殖医療の専門医との連携が重要です。がん治療開始前に、妊孕性温存について相談することをお勧めします。
生理が止まったときに起こりやすい症状と対策
更年期様症状
卵巣機能の低下により、以下のような更年期様症状が出現することがあります。
- ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり)
- 発汗
- 動悸
- 不眠
- イライラ、不安感
- 腟の乾燥、性交痛
これらの症状に対しては、ホルモン補充療法が有効です。ただし、ホルモン受容体陽性の乳がんなど、一部のがんではホルモン補充療法が適さない場合があります。その場合は、症状に応じて漢方薬や非ホルモン製剤が提案されます。
骨粗鬆症のリスク
エストロゲン欠乏状態が長期間続くと、骨密度が低下し、骨粗鬆症のリスクが高まります。
対策として、カルシウムやビタミンDの摂取、適度な運動、必要に応じて骨粗鬆症治療薬の使用が推奨されます。
心理的影響
生理が止まることで、女性性の喪失感や将来の妊娠への不安を感じる方もいます。
心理的なサポートが必要な場合は、がん相談支援センターや心療内科、カウンセリングの利用も検討してください。医療機関やがん患者支援団体で、同じ経験を持つ方との交流の場も設けられています。
治療後の生理再開と妊娠の可能性
化学療法や放射線治療後に、生理が再開する可能性は、患者さんの年齢、使用した薬剤の種類、照射量などによって異なります。
若年の患者さんほど、治療後に生理が再開する可能性が高い傾向にあります。ただし、生理が再開しても、卵巣機能が完全に回復しているとは限りません。
治療後の妊娠について
がん治療後の妊娠については、原疾患の状態、治療内容、再発のリスクなどを総合的に評価する必要があります。
乳がんの場合、一般的にはホルモン療法終了後、一定期間をおいてからの妊娠が推奨されることが多いです。具体的な時期については、主治医とよく相談してください。
最近の研究では、乳がん治療後の妊娠が再発リスクを高めるという証拠は乏しく、むしろ妊娠・出産を経験した患者さんの予後が良好という報告もあります。
相談先と情報提供
生理停止や妊孕性について相談したい場合は、以下の窓口があります。
- がん診療連携拠点病院のがん相談支援センター
- 日本がん・生殖医療学会の認定施設
- 各都道府県の妊孕性温存療法実施医療機関
- 国立がん研究センターがん情報サービス
妊孕性温存療法を検討する場合は、がん治療の主治医だけでなく、生殖医療の専門医にも早めに相談することが重要です。治療開始前の限られた時間の中で、最適な選択ができるよう、医療チームと十分に話し合ってください。
まとめにかえて
がん治療による生理停止や閉経は、多くの患者さんが経験する可能性のある問題です。原因は手術、化学療法、放射線治療など多岐にわたり、個々の患者さんによって状況が異なります。
2026年現在、妊孕性温存療法の技術は進歩し、助成制度も整備されてきています。また、ホルモン補充療法など、症状を緩和する治療法も確立されています。
大切なのは、まずがん治療を最優先することです。その上で、将来のライフプランや妊娠希望の有無について、早めに医療チームに相談し、利用できる選択肢を知っておくことが重要です。

