日本で最初に免疫チェックポイント阻害剤が使われたのは「2014年7月にメラノーマで承認されたオプジーボ(ニボルマブ)。
それ以来、様々な免疫チェックポイント阻害剤が登場し、ノーベル賞のインパクトもあって、患者さんの知識としても一般的になってきました。
イメージとしては「抗がん剤のような副作用がなく、とてもよく効く」と思われている節があります。
効果については、がんの部位やタイプにもよるので個別の話が必要になりますが、ここでは「副作用」について掘り下げて扱いたいと思います。
免疫チェックポイント阻害剤の副作用は医師も手を焼く
数多くの免疫チェックポイント阻害剤が登場し、なおかつ現在は「免疫チェックポイント阻害剤と分子標的薬との併用」などを試す臨床試験が活況です。
この背景には、製薬企業による開発競争もあります。
新薬の開発~市場への流通は製薬企業にとって生命線であり、「保険適応されて実際に現場で使われるようになる」ことが最大の目的です。
ゲノム医療に関するパネル検査も保険適応になり、現在の状況は製薬企業によって何年かに一度くるかこないかのビッグチャンス、というタイミングです。
そのため、ルールを逸脱した臨床試験も頻発しているようで現:日本臨床腫瘍学会理事長である南氏は以下のような苦言を呈しています。
他の薬剤が三次治療で有効性を検証している間に、有効性のデータがないにも関わらず二次治療、さらには一次治療、あるいはいきなり補助療法で検証する臨床試験まで実施されている。
このように抗悪性腫瘍薬の臨床開発における方法論を無視した結果、骨髄腫に対する一次治療において既存治療との併用の大規模比較試験をいきなり行い、むしろ予後を悪化させてしまった薬剤もある。
このような非倫理的とも言える臨床試験を避けるためにも、がん免疫療法を適切に理解し臨床開発の考え方も学ぶ必要がある。
免疫チェックポイント阻害剤のように、経験値の浅い薬は、実際に使ってみて何が起こるか分からない部分があります。
実際にオプジーボでは死亡例も「後から」分かりました。
オプジーボ、脳の機能障害の副作用で一人が死亡した、というニュース。
治験と違い、実際に臨床で使われるようになると、あとからこういう報告が出てくる。#肺がん #オプジーボ
「オプジーボ」11人に副作用 1人死亡、脳機能障害で Yahoo!ニュース https://t.co/a5eme7kco4 @YahooNewsTopics
本村ユウジ@がん治療専門 (@motomurayuji) 2019年5月9日
また、オプジーボの副作用としては、2019年6月に「結核」が重大な副作用として追加されました。実に承認されてから5年後の「副作用追加」です。
このように「実はこんな副作用もあった」と分かることがあるのです。
実際の医療現場でも、医師や看護師は「免疫チェックポイント阻害剤のリスク」を把握することにかなり神経を使っています。
何が起こるか全て分かっているわけではない、という状況なので医療側のリスク管理も困難になっています。
当然、どんなリスクがあるのかテストするための臨床試験の重要性は高いのですが、順序を無視した競争も行われている現在、「予想しないような問題、副作用が起き、原因も対処法も明確ではない」というリスクを患者側も抱えることになります。
「新薬だ!、臨床試験なので無料で行える!」とメリットだけを期待して前のめりにならず、「じゅうぶんに起こりえるリスク」「潜在的に起きる可能性のあるリスク」などを把握してから、決断することが重要です。
免疫チェックポイント阻害剤の種類
2019年時点で、主に使われている免疫チェックポイント阻害剤の種類(タイプ)と名前は以下のものがあります。
1.PD-1阻害薬
・オプジーボ(ニボルマブ)
・キイトルーダ(キイトルーダ)
2.PD-L1阻害薬
・バベンチオ(アベルマブ)
・テセントリク(アテゾリズマブ)
・イミフィンジ(デュルバルマブ)
3.CTLA-4阻害薬
・ヤーボイ(イピリムマブ)
タイプごとに副作用の違いはあるのか?
PD-1阻害薬とPD-L1阻害薬は作用もほぼ同じ、出る副作用も強さ、種類も大差ないですが、CTLA-4阻害薬であるヤーボイはこれらに比べて副作用が強いことが分かっています。
ヤーボイはがん細胞を攻撃するT細胞の働きを維持する作用がありますが、T細胞が過剰に働くと炎症性の副作用が起きやすくなります。
下痢や腹痛、肝機能障害、皮膚障害、神経障害、頭痛、疲労、腎障害、息切れ、呼吸困難など副作用の種類は他の免疫チェックポイント阻害剤と同じく多様ですが、ヤーボイの場合は重くなる傾向があります。
臨床試験ではグレード3~4の有害事象(副作用)が30~40%程度の確率で発生しています。PD-1系ではここまでの高確率でありません。
【グレード基準】(CTCAE)
グレード1:症状がない。または軽度の症状がある/治療を要さない
グレード2:最小限、局所的または非侵襲的な治療を要する
グレード3:重症または医学的に重大であるが、直ちに生命を脅かすことはない
グレード4:生命を脅かす転帰/緊急措置を要する
グレード5:有害事象による死亡
免疫チェックポイント阻害剤の副作用の内容
全体的な傾向として、重篤な副作用が発現する確率は数パーセントです。具体的には、間質性肺疾患で3%、重症筋無力症や心筋症、大腸炎、重度の下痢、肝機能障害、腎障害、副腎障害などはすべて1%程度です。(単独投与の場合。ヤーボイ併用だと確率は高くなる)
数字的には「重くなる確率はそう高くない」といえますが、免疫チェックポイント阻害剤の特徴は「様々な副作用が発現する可能性がある」ことです。
免疫チェックポイント阻害剤の副作用研究に力を入れている日本医科大学の院内マニュアルでは「特に注意を要する副作用」として以下の項目を挙げています。
【重要な特定されたリスク】
・間質性肺炎
・重症筋無力症、心筋炎、筋炎、横紋筋融解症
・大腸炎、重度の下痢
・1型糖尿病
・免疫性血小板減少性紫斑病
・肝機能障害、肝炎、硬化性胆管炎
・甲状腺機能障害
・神経障害
・腎障害(腎不全など)
・副腎障害
・脳炎
・重度の皮膚障害
・静脈血栓塞栓症
・インフュージョンリアクション
【重要な潜在的なリスク】
・過度の免疫反応
・胚胎児毒性
・心臓障害
このように症状は多岐に渡り、「縦割り」の病院組織にとっては対応や診断が困難であることがポイントです。
これらの診断をするには、呼吸科、消化器、泌尿器科、神経内科、眼科、耳鼻科、皮膚科の領域の知識、知見が必要になります。
現代医学=西洋医学は、解剖学が原点であり臓器別、期間別の医療が中心です。横断的に起きる症状や問題への対処はスムーズさに欠くのです。
主治医の副作用に関する知識がアップデートされていればいいですが、疎かにしている医師なら「なんでこんな症状が出ているんだ?」「この症状は投薬とは関係ない」などと判断してしまうリスクもあります。
患者にとっても「これが副作用によるもの」と分からず、受診が遅れることもあります。
例えば、私がサポートしている患者さんはオプジーボ投与後、重症筋無力症になりました。これは「まぶたが重くなる」という症状が出ますが、頻度は稀です。
患者さんも副作用と即座には判断できず「あれ?疲れかな?」と思いますし、医師が明確な診断をするには時間がかかります。
その他、唾液腺に障害が起きて唾液が出なくなったり、ぶどう膜炎という眼病になったり、副腎障害でかなり強い倦怠感が出て、動けなくなる人もいます。
今までの抗がん剤や分子標的薬で表れたような副作用とは全く違う症状が出てくる、ということが大きなポイントであり、医療側も準備が万全とはいえないところにリスクがあります。
患者サイドとしての見えないリスク
まずは「色んな体調不良が出る可能性があるので、日々の体調をメモし、異変があるようなら早めに受診する」ということが重要です。
また「民間の小さなクリニック」で免疫チェックポイント阻害剤の投与を受けるのはリスクが高いです。
様々な症状に対応するには、先述のように横断的な知識が必要になります。
診療科が限定的ながん専門病院でも対応が難しくなっているなか、自由診療で免疫チェックポイント阻害剤を試すような個人経営のクリニックは避けたほうがよいです。
免疫チェックポイント阻害剤を使うなら、大学病院や総合病院のようにさまざまな診療科が揃っている病院のほうが適しています(とはいえ、大学病院も縦割りで横の連携にはかなり課題がありますが)。
免疫チェックポイント阻害剤の投与前、投与中に心がけること
免疫チェックポイント阻害剤は、「効果が出る確率はそう高くないが、効果が出れば高い効果が続く」という特徴もあります。
そして今後も免疫チェックポイント阻害剤を活用する流れは強くなっていくでしょう。
それゆえに、上記のような副作用の内容を知り、異常があるとき、異常が続くときは自己判断せずに医師に報告、判断を求めるようにしましょう。
「いつもと違うな」と感じたら、早めに”主治医”に伝えることが大事です。
目に異常が起きて、「主治医ではなく眼科」を訪問しても、それが薬の副作用と判断できるかどうか分かりません。
肺がんの治療中に下痢が続いて消化器科を訪問しても、「免疫チェックポイント阻害剤の副作用」と分からず、整腸剤を処方され、「実は副作用だったが対処が遅れ腸に穴があいて下痢が重症になる」ということもありえます。
あらゆることが起きる可能性があり、自己判断で「これはここの病院に行くといいのかな?」ではなく「まずは投薬を管理している主治医に報告」をしましょう。
(主治医が勉強不足で診断の的を得ない、という可能性もありますが・・・それでもまずは主治医へ、です)