経済的な理由で、希望どおりのがん治療を続けられなくなる人は少なくありません。でも、あきらめてしまう前に、公的な制度が利用できないかどうか、確かめてみましょう。
役所や公的機関に申請すれば戻ってくるお金や控除制度、手当金などがあります。
代表的なものとして、「高額療養費制度」「医療費控除」「傷病手当金」「雇用保険(失業手当)」「障害年金」などがあります。
医療費控除
患者さんまたは”生計を一にする家族”が、1年間に支払った医療費が10万円を超えた場合に、所得税の一部が戻ってくる制度です。
医療にかかった領収書と医療費明細書を添付して確定申告時に提出します。
控除の対象となるものには、診療費や治療費のほか、入院費、通院に支払った交通費、治療のためのマッサージ・鍼灸などの施術費などがあります。
傷病手当金
病気やケガが理由で休職している間、一定額の給料を保障する制度です。支給の対象となるのは、健康保険制度や共済組合制度に加入している会社員、公務員、職員が対象です。
雇用保険
仕事を辞めて、新しい就職先を見つけるまでの間、生活費を支援する目的で、雇用保険制度の中から「基本手当」が支給されます。これは、かつて「失業保険」や「失業手当」と呼ばれていたものです。
治療に専念するため、すぐに就職できない場合は、申請窓口であるハローワーク(公共職業安定所)で手続きをして、基本手当の受給を先送りすることもできます。
障害年金
65歳未満の年金加入者で、がんと診断され、治療を受けたあとも心身に障害が残り、日常生活や労働が困難な場合などに支給されます。
初診日から1年半経過したあと日常生活に制限があったり、働く能力を大きく失った人が対象です。
給付額は、初診時に加入している年金制度や、障害の程度によって異なります。
日常生活に支障があるときに利用する公的制度
がんに伴う体力の低下や加齢などによって、日常生活に支障が出たり介護が必要になった場合、利用できるのが「介護保険」です。
また、家族のために介護が必要な人の場合は、「介護休業・介護休暇」を活用することができます。
介護保険
介護や支援が必要になった65歳以上の人と、40歳以上でがん末期などの特定疾患で、介護や支援が必要な人が対象です。
おもな介護保険サービスは、自宅を訪問するサービスとして居宅療養管理指導、訪問看護、訪問リハビリテーション、介護支援、訪問介護などがあり、そのほかに通所サービスや福祉用具貸与などのサービスもあります。
なお、サービスにかかる費用の1~2割は自己負担となります。
介護休業・介護休暇
介護休業は厚生労働省が制定した制度で、家族が要介護状態になったとき、介護するために会社を一定期間休むことができるというものです。
対象家族1人につき、最大で93日連続して休むことができます。まとまった休業になるため、事前に職場への連絡などが必要です。
一方、介護休暇は、要介護状態の家族の介護、買い物、通院の付き添いなどのために、1年に5日まで休むことができるというものです。
民間の生命保険の請求漏れに注意
想定外の費用にそなえて、生命保険や医療保険に加入している人はがんと診断されたら、加入している保険の契約内容を確認しましょう。
とくにがん保険に入っている場合は、診断時に受け取れる「診断給付金」や、入院日数に関係なく受け取れる「入院給付金」、通院したときに受け取れる「通院給付金」など、がん治療のサポート体制が充実しているはずです。
注意しなければならないのは、保険の給付金は、患者さん自身が請求しなければ受け取ることができないしくみになっていることです。しかも、手続きしてから給付金を受け取るまでに、時間がかかる場合もあります。
契約内容を確認するうえでも、治療を始める前に保険会社に連絡しましょう。