ホルモン療法は、エストロゲンの分泌やはたらきを抑制して、がんの増殖を抑える治療法です。エストロゲンは、卵巣で生成され、女性が健康な生活を送るために必要なホルモンです。
そのエストロゲンの分泌やはたらきが抑制されるため、更年期障害に似た症状があらわれることがあります。
この記事では薬剤ごとに起りやすい副作用を整理し、それぞれの対処法や軽減させるための方法についてまとめています。
ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ・発汗)とその対処法
おもな症状
ホットフラッシュは、エストロゲンの減少やはたらきの抑制で、自律神経がうまくはたらかなくなり、体温調節がスムーズにできないことで起こります。
ホットフラッシュの症状には、気温が高いわけでもないのに、突然かっと暑さを感じたり、顔がほてったり、のぼせたり、汗が出てきたりすることがあります。
この副作用はホルモン療法開始後、1~ 2週間目ごろから発生します。1回のホットフラッシュは数分でおさまりますが、1日に何度もあらわれることがあります。
ホットフラッシュが起こりやすい薬
副作用は、抗エストロゲン薬、LH-RHアゴニスト製剤、アロマターゼ阻害薬で起こります。
対処法、副作用を軽減するケア
ホットフラッシュは、乳がんのホルモン療法を受けた患者さんの多くにみられる症状です。次第に軽くなるので様子をみてもかまいませんが、頻繁にホットフラッシュが起こって日常生活の妨げになる場合主治医に相談しましょう。
閉経に伴う更年期障害の場合には、エストロゲンを補充するという対処法が考えられますが、再発を促す可能性があるため、乳がん患者さんに用いることはありません。漢方薬や自律神経調節薬、末梢血行改善は、薬などで対処することがあります。
また、ホットフラッシュの治療に抗うつ薬のパロキセチンを使うことがあります。ただし、パロキセチンは抗ストロゲン薬であるタモキシフェンの効果を弱めてしまいます。
そこで、その場合は、ほかの薬を使います。また、涼しい服を選んだり、首筋に風を当てるなど、ほてりや熱感をやわらげる日常対策も有効です。
精神・神経の症状とその対処法
おもな症状
ホットフラッシュ以外で、エストロゲンが減少することによって起こる副作用には、頭痛、気分の落ち込み、イライラ、不安,不眠などの精神・神経症状があります。
乳がんに対する不安感で、こうした症状がさらに増大する患者さんも少なくありません。
これらの副作用が起こりやすい薬
精神・神経症状は、抗エストロゲン薬、LH-RHアゴニスト製剤、アロマターゼ阻害薬で起こります。
対処法、副作用を軽減するケア
自分の症状や感じている不安について、医師や看護師、家族などに話すことで、少し気分が落ち着きます。また、楽しいことや好きなことをすることでも、症状がやわらぎます。睡眠薬や抗不安薬、抗うつ薬、漢方薬などを用いたり、カウンセリングを受けても効果が期待できます。
性器出血・腟のトラブルとその対処法
おもな症状
ホルモン療法によるホルモンバランスの変化により、性器からの不正出血や膣分泌物の増加、膣の乾燥などの症状があらわれることがあります。また、閉経後の人がタモキシフェンを長期間服用すると、わずかですが子宮体がんの発生リスクが生じます。
性器出血・腟のトラブルが起こりやすい薬
タモキシフェン、トレミフェンなどで副作用が出やすくなります。
対処法、副作用を軽減するケア
タモキシフェンの服用中は、年1回の婦人科検診を受けます。不正出血や血が混じった膣分泌物がみられたら、婦人科に相談しましょう。膣の乾燥には、ゼリーなどを用いるとよいでしょう。
血栓とその対処法
おもな症状
女性ホルモンなどの影響により、血液が固まりやすくなります。脳梗塞を起こしたり、足の静脈に血栓ができて、それが肺に流れて血管が詰まる肺動脈塞栓症を起こすことが、ごくまれにあります。
血栓症の既往歴のある患者さんは、次の薬は使えません。
血栓が起こりやすい薬
タモキシフェン、酢酸メドロキシプロゲステロンなどで血栓ができやすくなります。
対処法、副作用を軽減するケア
体の水分が不足すると血栓ができやすくなるため、水分を十分にとるよう心がけましょう。胸の痛みや息切れ、片側の足の浮腫や熱感などに気づいたら、すぐに受診しましょう。
骨粗しょう症とその対処法
おもな症状
エストロゲンは、骨の新陳代謝にも関与しています。ホルモン療法でエストロゲンの分泌やはたらきが減少すると、骨密度が減り、骨粗しょう症になりやすくなります。使用する薬によって、副作用が異なります。
副作用が起こりやすい薬
アロマターゼ阻害薬は、骨密度の低下を招き、骨粗しょう症になりやすいことがわかっています。また、原因はよくわかっていませんが、アロマターゼ阻害薬を服用すると、関節痛や関節のこわばり、骨痛が起こることがあります。
タモキシフェンは、乳がんに対して抗エストロゲン作用を示しますが、骨や血管に影響を及ぽすことはありません。
対処法、副作用を軽減するケア
アロマターゼ阻害薬を使用する場合は、定期的に骨量を測定することが大切です。骨粗しょう症治療薬のビスホスホネートを併用する場合もあります。
ビタミンDやカルシウムは骨をつくる栄養素です。これらを多く含む食品を食事に取り入れましょう。適度に運動して骨に負担をかけ、筋肉を鍛えることも、骨折予防には有効です。
ホルモン療法で使われる薬と主な副作用
抗エストロゲン薬
【薬剤名】タモキシフェン、トレミフェン、フルベストラント
主な副作用
・更年期様症状(ほてり、のぼせ、発汗、めまい、頭痛、肩こりなど)。
・イライラ、不安、うつ症状、倦怠感
・不正出血、月経異常、おりものの増加、腟の乾燥
・まれに血栓症、子宮体がん
LH-RHアゴニスト製剤
【薬剤名】ゴセレリン、リュープロレリン
主な副作用
・更年期様症状(ほてり、のぼせ、発汗、めまい、頭痛、肩こりなど)。
・イライラ、不安、うつ症状、眠気
・頭痛
アロマターゼ阻害薬
【薬剤名】アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール
主な副作用
・更年期様症状(ほてり、のぼせ、発汗、めまい、頭痛、肩こりなど)。
・不安、うつ症状、不眠、倦怠感
・関節痛、関節のこわばり、骨痛、腰痛
・骨密度の低下
黄体ホルモン剤
【薬剤名】酢酸メドロキシプロゲステロン
主な副作用
・体重増加
・まれに血栓症