
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
膵臓がんは発見が難しく、再発率も高いことから、多くの患者さんとご家族が不安を抱えている病気です。この記事では、膵臓がんの再発・転移時の治療法について、2025年から2026年にかけての最新情報を含めて詳しく解説します。
膵臓がんの現状と生存率
膵臓がんは全てのがんのなかで男性は9番目、女性は10番目に多いがんです。60歳ごろから発症が増え始め、高齢になるほど罹患率が高くなります。がんの死因別では、肺がん、胃がん、大腸がんに次いで上位に位置しています。
膵臓がんの5年生存率は、全体で約8.9%から9.0%程度と報告されており、腹部臓器のがんの中でも特に予後が厳しい病気です。この数値は、他のがんと比較しても低い水準にあります。
予後が悪い主な理由は、初期には自覚症状がほとんどなく、食欲不振や体重減少などの症状が現れる頃には、すでに進行していることが多いためです。膵臓は胃の後ろ側に位置し、周囲に血管やリンパ節、神経が集まっているため、がんが転移しやすく、進行が早いという特徴があります。
膵臓がんと診断された患者さんのうち、手術ができる方は全体の約20%から30%程度といわれています。残りの方は、診断時にすでに病状が進行しており、手術の対象にはなりません。
膵臓がんのステージ分類と生存率
膵臓がんの進行度は、ステージ(病期)として分類されます。日本では「膵癌取扱い規約」または「TNM悪性腫瘍の分類」が用いられ、がんの大きさ、周囲への広がり、リンパ節転移や遠隔転移の有無によって決定されます。
| ステージ | がんの状態 | 5年生存率 |
|---|---|---|
| 0期 | 非浸潤がん | 約85% |
| IA期 | がんが膵臓内にとどまり、大きさが2cm以下 | 約70% |
| IB期 | がんが膵臓内にとどまり、大きさが2cmを超える | 約60% |
| IIA期 | がんが膵臓の外に広がっているが、主要血管への浸潤はない | 約30% |
| IIB期 | 近くのリンパ節に転移がある | 約13% |
| III期 | 主要な血管にがんが及んでいる | 約4.7〜10% |
| IV期 | 他の臓器に転移がある | 約2.7〜6.5% |
ステージが進むにつれて生存率は低下しますが、早期発見できれば治療成績は改善します。ステージIで適切な治療を受けた場合、3人に1人は10年以上生存できるという報告もあります。
膵臓がんの再発・転移のメカニズム
膵臓がんのほとんどは、膵臓がつくる消化液(膵液)の通り道である膵管から発生します。このがんは膵管がんと呼ばれ、死亡率の高いがんです。
膵管がんは初期には目立つ自覚症状がありません。患者さんは、自覚症状が現れるまで自分のがんに気づかないことがほとんどです。さらに膵臓は体の奥にあるため、通常のがん検診では発見されにくい臓器です。
このがんは初期の段階から周囲の臓器に浸潤しやすく、離れた臓器にも転移しやすいという性質をもっています。そのため、患者さんの半数以上は、診断時にはがんがすでに進行している状態です。
十二指腸や胃、胆管などに浸潤し、肝臓や肺などにも転移していることが少なくありません。また、膵臓から腹膜へとがん細胞がこぼれ落ちて、そこから複数のがんが発生していること(腹膜播種)もあります。
手術を受けた後でも、再発率は約80%から90%と他のがんに比べて高く、その大部分は2年から3年以内に再発します。術後の経過観察では、最初の2年間は3ヶ月から6ヶ月ごと、それ以降は6ヶ月から12ヶ月ごとに最低5年間の観察が行われます。2022年版の膵癌診療ガイドラインでは、5年目以降も6ヶ月から12ヶ月ごとの経過観察を継続することが推奨されています。
腫瘍マーカーの役割
膵臓がんの診断や経過観察では、腫瘍マーカーという血液検査が用いられます。主な腫瘍マーカーには、CA19-9、CEA、SPan-1、DUPAN-2、CA50などがあります。
CA19-9について
CA19-9は膵臓がんで最も重要な腫瘍マーカーです。基準値は37.0U/mL以下で、膵臓がんに対する感度は70%から90%とされています。
ただし、CA19-9には以下のような特徴があります。
・日本人の約10%を占めるルイス式血液型(Lewis a-b-)の方は、がんがあっても高値にならないため、腫瘍マーカーとして利用できません。
・早期がんでは値が正常範囲内であることが多く、CA19-9のみで早期発見することは困難です。
・膵炎、肝炎、胆石症、糖尿病などの良性疾患でも高値を示すことがあります。
腫瘍マーカーは、がんの早期発見には適していませんが、治療効果の判定や再発の監視には有用です。治療が効果的な場合、CA19-9の値は低下します。逆に、値が上昇する場合はがんが進行している可能性が高いと判断されます。
再発・転移時の治療法
膵臓がんが再発・転移した場合、病状や患者さんの体力に応じて、様々な治療法が選択されます。
化学療法(薬物療法)
再発・転移した膵臓がんに対しては、化学療法が中心的な治療となります。2025年から2026年にかけての最新の治療選択肢は以下の通りです。
| 治療レジメン | 奏効率 | 特徴 |
|---|---|---|
| ゲムシタビン単独 | 約13% | 基本的な治療薬 |
| TS-1単独 | 約20% | 経口薬で通院治療が可能 |
| ゲムシタビン+TS-1 | 約25% | 併用療法 |
| ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GnP) | 約23% | 標準治療として広く使用されている |
| FOLFIRINOX | 約35% | 4剤併用、副作用が強い傾向 |
一次治療としては、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GnP)療法が標準治療として位置づけられています。2025年に発表されたJCOG1611試験では、GnP療法の有効性が改めて確認されました。
一次治療後に病状が進行した場合の二次治療では、一次治療で使用した薬剤によって選択肢が異なります。
・ゲムシタビン系治療を受けた場合:5-FU+レボホリナート+イリノテカン(リポソーム)併用療法、FOLFIRINOX、S-1単独療法のいずれかが選択されます。
・5-FU関連の治療を受けた場合:ゲムシタビンまたはゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法が候補となります。
個別化医療の進展
遺伝子検査により、個々の患者さんに適した治療が選択できるようになってきています。
・MSI-High(高頻度マイクロサテライト不安定性)の膵臓がん患者さんでは、免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブによる治療が検討されます。
・NTRK融合遺伝子が認められた場合は、エヌトレクチニブまたはラロトレクチニブによる治療が選択肢となります。
・KRAS遺伝子変異は膵臓がんの90%以上で検出されますが、2025年3月時点でKRAS G12DやKRAS全般をターゲットにした治療開発が進んでおり、今後の成果が期待されています。
・KRAS変異を認めない膵臓がん(全体の10%以下)では、BRAF変異に対してBRAF阻害薬(ダブラフェニブ)とMEK阻害薬(トラメチニブ)の投与が可能です。
放射線治療
放射線をがんに照射することにより、がんが縮小したり成長が止まったりして、痛みなどの症状が軽減することがあります。
通常は体外から照射する外部照射が行われます。化学療法と併用すると延命効果があるとされています。
重粒子線治療
2025年から2026年にかけて注目されている治療法として、重粒子線治療があります。
重粒子線治療は炭素イオンを用いて腫瘍に高線量を集中照射する方法で、従来の放射線治療よりも効果的とされています。重粒子線はがん細胞のDNAを2本同時に切断することで、強い殺細胞効果を発揮します。
膵臓は血流が少なく酸素の供給も少ない臓器であるため、通常のX線治療が効きにくいのですが、重粒子線は酸素の量に関係なく効果を発揮します。
重粒子線治療の対象は、がんが膵臓のみ、あるいはその周囲にとどまっているステージIAからIIIまでです。他の臓器への転移がある場合は対象となりません。
手術後に再発した場合でも、病変が膵臓とその周囲にとどまっていれば、重粒子線治療の適応になる場合があります。副作用が少ないため、抗がん剤治療と並行して実施することも可能です。
2025年1月には、重粒子線治療の予後を予測する血中バイオマーカー(sIL-6R)が特定されたと報告されており、今後の治療選択に役立つことが期待されています。
手術療法
再発・転移した膵臓がんに対しては、症状を軽減するための手術が行われることがあります。
バイパス手術
膵臓がんが十二指腸に広がり、内部を狭くしたりつまらせたりすることがあります。十二指腸がつまると食物が通過できなくなります。
このような場合、十二指腸のがんでつまった部分を迂回して胃と小腸をつなぐバイパス手術を行うことがあります。これにより、患者さんは口から食事をとり続けることができます。
胆道ドレナージ
膵管は十二指腸に入る前に胆管と合流するため、膵臓がんはしばしば胆管をつまらせます。胆汁が胆管の中でとどこおると、皮膚や白目が黄色味を帯びる黄疸という症状が現れます。
胆道が閉塞している場合は、超音波内視鏡を使った消化管内からアプローチする「胆道ドレナージ」が行われます。胆管の中にステントという器具を十二指腸乳頭部から挿入し、胆汁の流れを回復させます。
ステントにはプラスチック製と金属製があります。金属製ステントは網目状で、細くたたまれた状態で胆管に入れてから広げます。黄疸症状の軽減だけでなく、予後や生活の質の改善が期待できる治療です。
支持療法・緩和ケア
膵臓がんの患者さんは強い痛みに苦しむことがあります。これは、がんが膵管や胆管の神経に浸潤しながら広がっていくためです。
神経の痛みは、代表的な鎮痛薬であるモルヒネでは十分に軽減できないことがあります。そこで、腹部の神経に対する神経ブロックを行うことがあります。これは、神経が痛みの信号を脳に送らないように処置するものです。
また、栄養状態の維持や消化吸収障害への対応など、患者さんの生活の質を保つための様々な支持療法が行われます。
完治の可能性と寛解
膵臓がんは予後が厳しい病気ですが、適切な治療により寛解(一時的にがんの症状が軽減または消失した状態)が見込めるケースもあります。
手術で膵臓がんを切除したとしても、再発率は約80%から90%と高いため、再発の可能性を少しでも低くすることが重要です。そのため、手術後には補助化学療法が推奨されています。
早期発見できた場合、ステージ0では5年生存率約85%、ステージIAでは約70%と、長期生存も期待できます。また、術後5年無再発で経過した患者さんのその後の再発率は、他の腹部臓器がんと同等に良好であるという報告もあります。
サバイバー生存率(診断から一定年数後に生存している方のその後の生存率)を見ると、進行期の患者さんでも1年生存するほど、その後の5年生存率は改善する傾向にあります。これは治療を受けるがん患者さんにとって希望となる情報です。
おわりに
膵臓がんの再発・転移時の治療は、化学療法を中心に、放射線治療、手術療法、支持療法を組み合わせて行われます。
2025年から2026年にかけて、個別化医療の進展により、遺伝子検査に基づいた治療選択が可能になってきています。また、重粒子線治療などの新しい治療法も導入され、治療の選択肢は広がっています。
治療方針は、がんの進行度、患者さんの全身状態、希望などを総合的に検討して決定されます。よく話し合い、ご自身に最も適した治療を選択することが大切です。
参考文献・出典情報
膵臓がんの生存率と最新医療|ステージ別の考え方と治療の選択肢
2012-2015年の4年間に診断されたがんの5年生存率を公表|国立がん研究センター
腫瘍マーカー検査とは:国立がん研究センター がん情報サービス
腫瘍にのみ強い線量が当てられる膵がんの重粒子線治療:がんナビ

