がんが見つかったとき、あるいはがんの手術を行った後に、医師が患者や家族に「がんがリンパ節に転移している」と告げることがあります。
リンパ節への転移とはどんな状態をいうのでしょうか。
発生した場所のがんがまだ小さくても、がん細胞が近くのリンパ管に入り込み、そこからリンパ節に転移することはめずらしくありません。
リンパ管は、リンパ液(病原体と闘うリンパ球を含んでいる)を運ぶ細い管で、全身に網の目のように張りめぐらされています。
そしてこれらのリンパ管のところどころには、大豆からソラマメほどの大きさのふくらみが存在します。これらのふくらみはリンパ節(リンパ腺)と呼ばれる一種の免疫器官です。その内部では、リンパ液をろ過して古いリンパ球をとり除いたり、病原体や毒物を免疫反応によって処理しています。
リンパ節に含まれる免疫細胞の一種であるマクロファージ(大食細胞)が、病原体や毒物を見つけ出して敵であることを示し、他のリンパ球に攻撃させて無害にするのです。
かぜなどの感染症にかかったときに首やあごの下のリンパ節が腫れることがあるのは、病原体と闘うためにリンパ節の中のリンパ球が急激に増えたことを示しています。
リンパ節に達した病原体や毒物の99パーセントは、こうしたはたらきによって除去されるとみられています。
がん細胞はなぜリンパ節に転移しやすいのか
リンパ管は、血管とは違って壁が薄く、壁の細胞どうしの間隔も開いていて、体の組織内のリンパ液をとり込みやすいようにできています。
そのため、リンパ球や水分だけでなく、病原体や細胞のかけらもリンパ管に入り込みます。
がんがどこかの臓器に生じ、がん細胞が組織からはがれ落ちてその周辺を動きまわるようになると、それらは容易にリンパ管に侵入することになります。
こうしてリンパ管に入り、リンパ液の流れに乗ったがん細胞は、ろ過装置のついたリンパ節でせき止められます。がん細胞の一部は、ここでリンパ球などの免疫細胞に攻撃されて死んでいきます。
しかしがん細胞はもともと自分の体の細胞が変化したものなので、免疫細胞はそれらのすべてを有害な敵かどうか見分けることができません。
そのためがん細胞は免疫細胞に攻撃されることなく生き続け、リンパ節で増殖することがあります。
これがリンパ節転移です。
こうしてがんがどこかのリンパ節に転移すると、そこで増えたガン細胞はリンパ管を伝わって別のリンパ節に到達し、そこでも増殖し始めます。
がんはこうして、リンパ節からリンパ節へと次々に転移していきます。
リンパ管は最終的には静脈(血管)と合流するので、がんのリンパ節転移が進むと、がん細胞は血液の流れに乗って肺や肝臓などの臓器に移動する可能性が高くなります。
実際には、リンパ節への転移が始まるころには血管にもがん細胞が入り込むことが多いので、離れた臓器への転移は血管を通じて起こるとみられています。
リンパ節転移の特徴と治療法とは?
初期治療の場合
リンパ節転移が原発がんの周辺に限られ、数も少ない場合は「リンパ節郭清(かくせい。切除すること)」が行われることがあります。これはがんの部位によっても対応が異なります。
たとえば胃がんの場合には、リンパ節転移がかなり早い段階で起こるため、ごく初期でないかぎり、胃を切除するとともに胃をとりまくリンパ節も広範囲に郭清します。
また乳がんでも、ある程度進行しており、リンパ節転移の疑いがある場合はわきの下のリンパ節を郭清することがあります。
しかし、リンパ節を切除すると、腕や脚がむくむ(リンパ浮腫)、腹に水がたまるなどの後遺症が現れます。
そこで最近は、乳がんや胃がん、悪性黒色腫(メラノーマ=皮膚のがん)などでは、手術時に「センチネルリンパ節生検」と呼ばれる検査を行うことがあります。
センチネルは"見張り"とか"歩哨"の意味で、センチネルリンパ節はがん細胞が流れ込む
最初のリンパ節を指します。センチネルリンパ節生検では、このリンパ節にがんが転移しているかどうかを調べます。
センチネルリンパ節生検を行い、そこに転移が見られたときにのみ周辺のリンパ節を切除します。
がんの手術でリンパ節を切除したときには、その後病理検査が行われ、がんが転移していないかどうかが顕微鏡でくわしく調べられます。
リンパ節に転移が認められたときには、遠隔転移も始まっている可能性が高いので、化学療法(抗がん剤投与)などの補助療法を行い、残っているかもしれないがん細胞を殺すようにします。
最近では、リンパ節の遺伝子検査によってリンパ節転移の有無を調べる医療施設もあります。
しかし、その検査結果が治療を行ううえでも有意義かどうかはまだ結論が出ていません。
再発・転移の場合
基本的にリンパ節郭清などの「手術」が行われるのは初期治療のケースのみです。初期治療後(早期がんとして手術後)に再発や転移があり、その中でリンパ節転移がみつかったとしてもそれを手術で取り除くことが提案されることは極めて稀です。
がん治療において手術をするのは「がんが取りきれる場合のみ」なので、リンパ管の広い範囲にがんが存在していると思われる再発・転移の場合は適応となりません。
放射線治療も同様に、再発・転移の場合は適応外ですが、特定のリンパ節転移が増悪したり肥大したりしている場合、局所制御の一環として放射線を当てることがあります。
原則としては、化学療法(抗がん剤などの薬を使うこと)が第一選択肢となります。
リンパ節転移の余命
リンパ節転移は、転移の中でも「原発部分に近い部分で起こる転移」です。
例えば、乳がんの場合、骨や肺に転移すると「遠隔転移」となりステージ4になりますが、リンパ節転移があったとしても軽度な転移ならステージ2です。
ステージ2は進行がんではないので「余命」の話は出ませんし、余命を推測するには早すぎます。医師に聞いても「まだそんな話をする段階ではない」と言われるでしょう。
胃がんや大腸がんでも同じことが言えるので、リンパ節転移があったからといって余命を考えたり、余命を推測したりするのは適切ではありません。