手術後の回復期間と病理検査の結果を待つ時間
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
がんの手術を受けた患者さんやそのご家族にとって、「いつ退院できるのか」「どのくらい入院が必要なのか」は、とても気になることです。
手術後は、まず手術した部位の傷や全身の体力が回復するのを待つことになります。同時に、手術で切除したがん病巣を顕微鏡で詳しく調べる病理組織検査の結果を確認することが必要です。
病理組織検査とは、手術で取り出した組織を薄く切って染色し、病理医が顕微鏡で観察してがんの性質や広がりを詳しく調べる検査です。この検査により、がんの悪性度、リンパ節転移の有無、切除範囲が十分かどうかなどが判明します。
病理検査にかかる期間
病理検査の結果が出るまでには、一定の期間が必要です。検体を固定し、薄切りして染色し、病理医が診断するという複数の工程があるためです。
一般的には、手術後1週間から2週間程度で結果が出ることが多いです。医療機関によっては4日から7日程度で結果が出る場合もありますが、追加で特殊な染色や詳しい検査が必要な場合には、さらに1週間から3週間程度かかることがあります。
この期間中に、手術部位の傷も徐々に回復し、体力も戻ってきます。医師は病理検査の結果と患者さんの回復状況を総合的に判断して、退院の時期や今後の治療方針を決定します。
がんの種類と術式による入院期間の違い
がん手術後の入院期間は、がんの種類、手術の方法、患者さんの年齢や全身状態によって異なります。
近年のがん医療では、入院期間の短縮化が進んでいます。これは医療技術の進歩により、体への負担が少ない手術方法が普及してきたことや、早期離床(ベッドから早く起き上がること)の重要性が認識されてきたことが理由です。
手術方法別の入院期間の目安
| 手術方法 | 入院期間の目安 |
|---|---|
| 内視鏡的切除 | 3日~7日程度 |
| 腹腔鏡手術 | 7日~10日程度 |
| 開腹手術 | 2週間~3週間程度 |
| 乳房温存術 | 3日~7日程度 |
| 乳房切除術 | 7日~10日程度 |
ただし、これはあくまで目安です。手術後の合併症の有無、患者さんの年齢、回復の速さなどによって入院期間は変わります。
また、2026年現在、多くの病院では入院期間の平均が短縮される傾向にあります。医療制度の改正により、一般病床では平均在院日数によって入院基本料が異なるため、医療機関は効率的な治療を目指しています。
退院が許可される条件とは
手術後、医師が退院を許可する際には、いくつかの条件を確認します。これらの条件を満たすことで、安全に自宅での療養に移行できると判断されます。
退院許可に必要な主な条件
| 確認項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 手術部位の回復 | 傷の治り具合、痛みの程度、ドレーンの抜去が完了しているか |
| 全身的な体力の回復 | 食事が十分にとれる、歩行ができる、日常生活動作が可能 |
| 病理検査の結果 | がんの切除が十分か、追加治療の必要性の確認 |
| リハビリテーションの進捗 | 日常生活に必要な動作ができるか |
| セルフケアの習得 | 退院後の傷の手当て、薬の管理、注意すべき症状の理解 |
| 精神的な安定 | 退院への不安が強すぎない、自宅療養への準備ができている |
| 継続治療の可能性 | 必要な治療を外来通院で受けられる状態か |
特に高齢の患者さんの場合、手術後に寝たままで過ごす時間が長くなると、廃用症候群が起こりやすくなります。廃用症候群とは、安静を保つことによって体の各部の機能が衰えてしまう状態のことで、筋力低下、関節の動きが悪くなる、起立性低血圧などが起こります。
このため、高齢の患者さんには特に丁寧なリハビリテーションが必要となり、若い方に比べて退院許可が出るまでに時間がかかることがあります。
手術後のリハビリテーションの重要性
2026年現在、がん治療におけるリハビリテーションの重要性がますます認識されています。リハビリテーションは、手術前から計画的に開始されることが理想的です。
手術前のリハビリテーション(予防期)
手術前から始めるリハビリテーションには、次のような目的があります。
手術後の早期離床の必要性を理解することで、手術直後から積極的にリハビリに取り組めます。また、腹式呼吸の練習や痰の出し方を事前に練習しておくことで、手術後の肺炎などの合併症を予防できます。
リハビリスタッフと手術前から面識があることで、手術後のリハビリも安心してスムーズに受けられるという利点もあります。
手術直後のリハビリテーション(回復期)
手術の翌日から、多くの病院で離床リハビリテーションが始まります。これは早期離床と呼ばれ、手術後できるだけ早くベッドから起き上がり、歩行を始めることを目指します。
早期離床により、次のような効果が期待できます。
・深部静脈血栓症や肺塞栓症などの合併症を予防
・肺炎の予防
・筋力低下の防止
・腸の動きの回復促進
・せん妄(一時的な意識障害)の予防
実際に、がんリハビリテーションを導入した病院では、術後の歩行開始までの日数が約2日短縮され、退院までの日数も約11日短縮されたという報告があります。
リハビリテーションの具体的な内容
手術の種類や部位によって、必要なリハビリテーションは異なります。
| 手術の種類 | 主なリハビリ内容 |
|---|---|
| 消化器系の手術 | 呼吸訓練、早期離床、歩行訓練 |
| 乳がん手術 | 肩関節の可動域訓練、リンパ浮腫の予防 |
| 頭頸部がん手術 | 嚥下訓練、発声訓練 |
| 骨・軟部腫瘍の手術 | 義肢の訓練、歩行訓練 |
| 脳腫瘍の手術 | 運動機能訓練、言語訓練 |
早期退院の場合と病理検査結果を待つ場合
ごく初期のがんであらかじめ診断されて手術に臨んだ場合、手術部位の回復と体力の回復だけを確認し、病理組織検査の結果が出るのを待たずに退院できるケースもあります。
このような場合には、退院後の外来通院で検査結果を聞くことになります。初期のがんで、画像検査などで転移の可能性がほとんどないと判断された場合に、この方法がとられることがあります。
一方、進行がんや転移の疑いがある場合には、病理検査の結果を確認してから退院となることが一般的です。検査結果によっては、追加の治療が必要になることもあるためです。
退院に不安がある場合の対処法
体の状態は回復していても、精神的に退院への不安が強い患者さんもいらっしゃいます。「このまま退院して本当に普通の生活に戻れるだろうか」という不安を感じるのは、自然なことです。
このような場合、病院では次のような対応をとることがあります。
外出許可を出して、数時間程度病院の外で過ごしてみる経験をしてもらいます。また、外泊許可を出して、自宅で一晩過ごしてから病院に戻ってくることを何回か繰り返します。
このように病院外の生活に少しずつ慣れることで、社会復帰への自信がつき、退院に対する不安が解消されることが多いです。
不安が強い場合は、遠慮せずに医師や看護師、ソーシャルワーカーなどに相談することが大切です。
退院前に準備しておくべきこと
退院が近づいてきたら、自宅での療養に備えて準備が必要です。
外来通院の確認
まず、退院後の外来通院が問題なくできそうかチェックしておきましょう。
病院が遠く、通院にあまりにも時間がかかるようなら、近くの病院に紹介状を書いてもらい、そこへ通院できるようにしてもらうことも検討します。
現在入院中の病院に通院したい場合でも、いざというときに備えて、自宅近くにいつでも診てもらえる医師がいれば安心です。
退院後の生活指導の確認
食事や運動など、退院後の生活上の注意点について、医師や看護師に確認しておきましょう。
必要な医療処置(傷の手当て、ドレーンの管理など)や薬のこと、注意すべき症状などについて、退院前にしっかりと説明を受けておくことが重要です。
わからないことや不安なことがあれば、退院前に必ず質問して解決しておきましょう。
医療福祉サービスの確認
退院後、ホームヘルパーや訪問看護といった医療福祉サービスを受けたい場合は、保健所や福祉事務所、病院の相談窓口(地域医療連携室など)に問い合わせて確認しておきます。
近親者の助けがない一人暮らしの場合は、退院後しばらくはホームヘルパーに家事の援助を頼むなど、地域の福祉サービスを活用する方法もあります。
2026年現在、がん患者さん向けの在宅支援サービスも充実してきており、訪問看護や訪問リハビリなどを利用することで、安心して自宅療養ができる体制が整っています。
在宅療養の環境づくり
退院は、ある程度の体力回復やリハビリテーションの効果が認められてはじめて許可されます。とはいえ、退院直後は健康なときと比較すれば、体力も体調も万全とはいえません。
しばらくは自宅で療養し、体力・体調の回復に努め、体を徐々に普通の生活に慣らしていく必要があります。そのためにも、心身ともにゆっくり休めるような環境づくりが大切です。
療養環境のポイント
静かな環境は大切ですが、極端に静かすぎる環境もよくありません。
患者さんがリビングルームから離れた寝室で1日中過ごし、家族から孤立した状態では、かえって孤独感と苦痛を感じさせてしまいます。
この時期には静かな環境とともに、孤立しないための配慮が大切です。家族の方は、患者さんの部屋を訪れたり、患者さんをリビングルームに移動させたりして、時間を決めて患者さんと一緒に過ごすように配慮することがよいとされています。
介護用ベッドの活用
退院直後は、ベッドなどの寝床が中心の生活となることが多いです。
ベッドがない家庭では畳に布団を敷いた寝具でもかまいませんが、介護が必要な患者さんにとってはベッドのほうが便利です。
ベッドの縁に腰かければ立ち座りがしやすく、介護する方もしゃがまずにすみ、肉体的な負担も軽減されます。
最近は、背もたれの角度を調節したり高さを変えたりできる便利な介護用ベッドもあります。よりよい療養環境づくりの一環として、取り入れるのもよいでしょう。
介護用ベッドは、期間を決めてレンタルを利用することもできます。介護保険の適用を受けられる場合もありますので、病院の相談窓口やケアマネージャーに相談してみましょう。
退院後の生活で注意すべきこと
退院後は、無理をせず徐々に普通の生活に戻していくことが大切です。
食事は栄養バランスのよいものを心がけ、十分な睡眠をとりましょう。運動は医師の指示に従い、ウォーキングやストレッチなど軽いものから始めます。
外出や仕事の再開については、体調と相談しながら徐々に行っていきます。直腸がんなどの手術後は、トイレに行く回数が増えることがあるため、外出時にはトイレの場所を事前に確認しておくとよいでしょう。
定期的な外来受診の重要性
退院後は、定期的に外来を受診して経過を観察することが必要です。
手術後約1か月後に外来を受診し、病理検査の最終結果の説明を受けることが一般的です。画像診断で確認していたリンパ節転移なども術後の病理検査でもう一度詳しく調べるため、手術前の診断と病期が変わることがあります。これに伴い、治療方針が変更される可能性もあります。
治療が手術だけでよい場合は、定期的に経過観察を続けます。その期間は一般的に5年間です(乳がんは10年間)。この間に再発がなければ、治癒したとみなされることが多いです。
一方、病理検査の結果によって、放射線療法や薬物療法などの追加治療が必要と判断された場合は、次の治療ステップに進むことになります。
まとめ
がん手術後の退院時期は、手術の方法、がんの種類、患者さんの年齢や全身状態によって異なります。
近年は医療技術の進歩により入院期間が短縮される傾向にありますが、安全に退院するためには手術部位の回復、体力の回復、リハビリテーションの進捗、病理検査の結果確認など、複数の条件を満たす必要があります。
退院後の生活に不安を感じることは自然なことです。医師や看護師、ソーシャルワーカーなどの医療スタッフに遠慮なく相談し、必要なサポートを受けながら、徐々に日常生活に戻していくことが大切です。
参考文献・出典情報
国立がん研究センター がん情報サービス「がんとリハビリテーション医療」

