
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
がん治療を受けている患者さんの中には、関節の痛みに悩まされている方が少なくありません。
骨や関節に痛みを感じると「骨転移が起きたのではないか」「病気が悪化しているのではないか」と不安になることがあります。しかし、がん患者さんに起きる関節痛には、骨転移以外にもさまざまな原因があります。
この記事では、がん闘病中に起こる関節痛について、考えられる主な原因や医療機関で行われる対処法、日常生活での注意点などを詳しく説明します。
関節痛とは何か
関節痛とは、関節部分に起こる疼痛(痛み)のことです。
私たちの体には、骨と骨をつなぐ関節が数多くあります。膝や肩、肘、足首、手指など、日常生活で動かす部分のほとんどが関節です。これらの関節は、骨の表面を覆う軟骨、関節を包む関節包、潤滑油の役割をする関節液などで構成されています。
関節痛は、これらの組織に何らかの障害が起きることで発生します。原因となる疾患には、関節炎(関節リウマチなど)、変形性関節症、外傷(骨折、脱臼、捻挫など)、がん(骨肉腫、骨転移、白血病など)、骨壊死などがあり、腫れや関節液の貯留を伴うことが多くあります。
がん患者さんに関節痛が起きる主な原因
がん患者さんに関節痛が生じる原因は、大きく分けて次の3つに分類されます。
1. がん(腫瘍)そのものによる関節痛
がん自体が骨や関節に影響を与えることで、痛みが発生する場合があります。
原発性悪性骨腫瘍
骨に最初から発生するがんです。骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性リンパ腫、骨髄腫などが含まれます。特に10歳代の男性では、骨肉腫やユーイング肉腫が発生しやすいとされています。
転移性悪性骨腫瘍
他の臓器にできたがんが骨に転移した状態です。乳がん、肺がん、腎がん、前立腺がんなどは骨転移を起こしやすいことが知られています。転移性乳がん患者さんの50%以上で骨転移が起こるとされています。
軟部肉腫
筋肉や脂肪などの軟部組織に発生するがんで、関節に発症することがあります。
これらの腫瘍により、関節を構成する組織が障害され、関節の機能低下や関節液の貯留などによって痛みが生じます。
2. 化学療法(抗がん剤など)による関節痛
化学療法を受けている患者さんに関節痛が起きる原因には、大きく分けて2つあります。
抗がん剤の副作用としての関節痛
抗がん剤による関節痛の発生メカニズムは完全には解明されていませんが、関節痛を起こしやすい薬剤についてはほぼ明らかになっています。
以下の表は、関節痛を生じやすい主な薬剤とその発症頻度です。
| 分類 | 薬剤名(一般名/商品名) | 発症頻度 |
| 殺細胞性抗がん薬 (微小管阻害薬) |
パクリタキセル(タキソール) | 32.3% |
| アルブミン懸濁型パクリタキセル(アブラキサン) | 5~20% | |
| ドセタキセル(タキソテール) | 5%未満 | |
| エリブリン(ハラヴェン) | 5~30% | |
| ビノレルビン(ナベルビン) | 5%未満 | |
| 分子標的治療薬 | イマチニブ(グリベック) | 1~5% |
| ボルテゾミブ(ベルケイド) | 5%未満 | |
| インターフェロン製剤 | ペグインターフェロンa-2b(ペグイントロン) | 69.4% |
| インターフェロンベータ(フェロン) | 5%以上 | |
| ホルモン療法薬 (アロマターゼ阻害薬) |
アナストロゾール(アリミデックス) | 1.07% |
| エキセメスタン(アロマシン) | 0.1~5% | |
| レトロゾール(フェマーラ) | 2.8% | |
| G-CSF製剤 | ペグフィルグラスチム(ジーラスタ) | 14.2% |
| フィルグラスチム(グラン) | 1%未満 | |
| レノグラスチム(ノイトロジン) | 2%未満 | |
| ナルトグラスチム(ノイアップ) | 0.02% |
表からわかるように、パクリタキセルやペグインターフェロンa-2bなどでは、比較的高い頻度で関節痛が起こることがあります。
特に、持続型G-CSF製剤(ペグフィルグラスチム)は、従来のG-CSF製剤(レノグラスチム、フィルグラスチム、ナルトグラスチム)と比較して関節痛の出現頻度が高い傾向にあります。
発熱性好中球減少症(FN)に伴う関節痛
化学療法中には、発熱性好中球減少症(FN)が起こることがあります。これは、好中球という白血球の一種が減少し、発熱を伴う状態です。
FNは、好中球数が500/μL未満、または1,000/μL未満で48時間以内に500/μL未満に減少すると予測されている状態で、腋窩温37.5℃以上(口腔温38.0℃以上)の発熱がある場合に診断されます。
FNによる発熱に伴って関節痛が起こることがあり、この場合は速やかな対応が必要です。
3. がんに関連したその他の原因による関節痛
がんそのものや化学療法以外にも、がん患者さんに関節痛が起こる原因があります。
G-CSF製剤の副作用
白血球を増やすために使用されるG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)製剤の副作用として、関節痛や骨痛が起こることがあります。
G-CSF製剤は、造血幹細胞移植の準備として使用される場合もあります。その際は通常の使用時よりも1回の投与量が多くなるため、関節痛・骨痛の出現頻度が高くなる傾向にあります。
そのため、あらかじめ予防的にアセトアミノフェンやNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を内服する医療機関もあります。
がん病的骨折
骨転移などによって骨が弱くなっている場合、転倒や外部からの圧迫によって骨折(病的骨折)を起こすことがあります。この場合は緊急的な対応が必要です。
長期臥床による影響
がんによる痛みや倦怠感で動けなくなり、長期間寝たきりの状態が続くと、血流の低下から腰痛などを引き起こすことがあります。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
関節痛の原因を評価する
関節痛が起きた場合、医療機関では以下のような評価が行われます。
問診と診察
がんの発現・転移部位、使用している薬剤の種類、日常生活動作(ADL)の状況、仕事内容などを確認します。また、がんや化学療法以外に関節痛の原因となる疾患(変形性関節症、関節リウマチ、骨髄炎など)がないか、関節部の外傷や手術の既往がないかなども確認されます。
画像検査
がんの診断や治療のためにすでに行われているCTやMRI画像を参考にしながら、痛みの原因や種類を診断していきます。必要に応じて追加の検査が行われることもあります。
がん(腫瘍)による関節痛への対処法
痛みが発生するメカニズム
悪性骨腫瘍(原発性、転移性)や軟部肉腫などにより、関節を構成する組織が障害されると、関節の機能低下や関節液の貯留が起こり、痛みが生じます。
特に神経に浸潤した場合は、神経障害性疼痛という通常の痛みとは異なる、治療が難しい痛みが出現することがあります。
主な治療と対応
鎮痛薬による疼痛コントロール
痛みが強い場合は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェン、オピオイドなどの鎮痛薬を使用して痛みをコントロールします。
痛みの種類や強さに応じて、薬剤の種類や量が調整されます。神経障害性疼痛に対しては、抗けいれん薬や抗うつ薬などが使用されることもあります。
放射線療法
骨病変による痛みの緩和を目的に、放射線療法が行われる場合があります。放射線を照射することで、腫瘍の縮小や骨の痛みの軽減が期待できます。
骨病変の進行を抑制する治療
骨転移の進行を抑制するため、ビスホスホネート製剤やデノスマブ(商品名:ランマーク)を投与する場合があります。
これらの薬剤は、破骨細胞の機能を抑え、骨吸収を抑制することで、骨関連事象(骨折、脊髄圧迫、骨への放射線療法や手術の必要性、高カルシウム血症など)の発生を予防します。
2026年現在、骨転移を有する乳がん患者さんを対象とした研究では、デノスマブはビスホスホネート製剤と比較して骨関連事象の発症リスクを低下させることが示されています。ただし、生存期間の延長については両者に差がないとされています。
患部の安静と補助具の使用
病状によっては、松葉杖などの補助具を用いた免荷歩行(患部に体重をかけない歩行)や、上肢を三角巾で固定するなど、患部の安静を保つ必要があります。
関節や関節に近い骨に病変がある場合、病的骨折のリスクがあるため、日常生活での転倒や衝撃を避けることが重要です。
ビスホスホネート製剤とデノスマブ使用時の重要な注意事項
ビスホスホネート製剤やデノスマブには、重大な副作用として顎骨壊死(がっこつえし)や顎骨骨髄炎があります。
顎骨壊死のリスク因子
- ビスホスホネート製剤やデノスマブの長期間投与
- 抜歯などの侵襲的な歯科処置
- 口腔の不衛生
- 化学療法や放射線療法の実施
- がん、糖尿病
- 副腎皮質ステロイド薬の投与
- アルコール摂取、喫煙
- 高齢者
顎骨壊死や顎骨骨髄炎を発症した場合、局所病変にとどまらず、敗血症を併発して生命に危険が及ぶ恐れがあります。
ビスホスホネート製剤やデノスマブによる治療を行う場合は、歯科部門とも連携して口腔のチェックを行い、患者さん自身が正しく継続的に口腔ケアを行えるようサポートすることが求められます。
治療開始前に歯科検診を受け、虫歯や歯周病がある場合は治療を完了させておくことが重要です。治療中も定期的な歯科受診と、毎日の丁寧な歯磨きで口腔内を清潔に保つことが、顎骨壊死の予防に最も効果的とされています。
化学療法による関節痛への対処法
なぜ痛みが発生するのか
化学療法による関節痛の発生メカニズムは完全には明らかになっていません。
ただし、微小管阻害薬の代表的な副作用である末梢神経障害と関節痛が関連していることが指摘されています。抗がん剤が末梢神経の細胞に障害を与えることで、しびれや痛みが生じると考えられています。
G-CSF製剤による関節痛・骨痛や発熱には、G-CSF製剤により交感神経刺激を受けた好中球が産生したプロスタグランジンF2が関与しているとされています。
主な治療と対応
NSAIDsの使用
どの薬剤における関節痛にも、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が有効とされています。場合によっては、アセトアミノフェンやオピオイドの使用も検討されます。
パクリタキセルによる関節痛への対応
パクリタキセルによる関節痛では、以下のような対応が行われることがあります。
- 漢方薬(芍薬甘草湯など)の使用
- ステロイドの使用(NSAIDsで効果が得られにくい場合、少量のステロイドが効果があるとされています)
- 投与方法の変更(「3週に1度投与」のほうが「3週連続毎週投与し1週休薬」よりも関節痛が高頻度に出現するとされており、関節痛が激しい場合は投与方法の変更も選択肢の1つです)
L-グルタミン酸の有効性も報告されています。
微小管阻害薬による関節痛への対応
プレガバリンやガバペンチンも効果があるとされています。これは、微小管阻害薬の代表的な副作用である末梢神経障害と関節痛が関連していることが理由とされています。
アロマターゼ阻害薬による関節痛への対応
アロマターゼ阻害薬による関節痛は、別のアロマターゼ阻害薬かタモキシフェンに変更することで、症状が軽減することがあります。
日常生活での工夫
温めると痛みが緩和することがあるので、シャワーだけでなく入浴を勧められます。マッサージや適度に体を動かすことも、効果的な場合があります。
ただし、鎮痛薬を使用すれば痛みは軽減するかもしれませんが、体を動かすと痛みが増強する場合も考えられます。無理をせず、自分の体調に合わせて活動することが大切です。
関節痛への基本的な対処の考え方
がんによる関節痛は病状の進行を自覚させるものであり、化学療法に伴う関節痛は致死的な副作用ではありませんが、治療継続を妨げる恐れがあります。
そのため、医療機関では積極的に症状緩和に努めることが求められています。痛みを我慢せず、早めに医療スタッフに相談することが重要です。
痛みの程度や日常生活への影響を正確に伝えることで、適切な対処法を一緒に考えてもらうことができます。
日常生活での注意点
痛みの記録をつける
どんなときに痛みが出るか、どの程度の強さか、どのくらい続くかなどを記録しておくと、医療スタッフに伝える際に役立ちます。また、そうした状況を避けやすくすることにもつながります。
転倒に注意する
骨転移がある場合や、しびれや痛みで足元が不安定な場合は、転倒に十分注意が必要です。家の中の段差をなくす、手すりを設置するなど、生活環境を整えることも検討しましょう。
無理をしない
痛みがあるときは無理をせず、休息を取ることも大切です。一方で、安静にしすぎると筋力が低下してしまうこともあるので、医師や理学療法士と相談しながら、適度な運動を心がけることも重要です。
まとめにかえて
がん患者さんに起こる関節痛には、さまざまな原因があります。骨転移による痛み、化学療法の副作用、その他の要因など、原因によって対処法も異なります。
2026年現在、骨転移に対するビスホスホネート製剤やデノスマブの有効性が確立されており、骨関連事象の予防に役立っています。化学療法による関節痛に対しても、NSAIDsをはじめとするさまざまな治療選択肢があります。
痛みを我慢せず、早めに医療スタッフに相談することで、適切な対処法を見つけることができます。
口腔ケアなど、自分でできる予防策も積極的に行いながら、医療チームと協力して症状の緩和を図っていくことが大切です。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がん性疼痛」
https://ganjoho.jp/public/support/symptom/pain.html - 兵庫医科大学病院「がん性疼痛」みんなの医療ガイド
https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/disease_guide/detail/67 - 第一三共エスファ「がん治療に伴うしびれや痛みなどの症状」
https://oncology-assist.jp/patient/nerve/nerve01.php - 日本がんサポーティブケア学会「がん薬物療法に伴う末梢神経障害 診療ガイドライン 2023年版」
http://jascc.jp/wp/wp-content/uploads/2024/10/91eafc78cda9babc6d3ca25912c0e28d.pdf - 日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン2022年版」骨転移に対する骨修飾薬
https://jbcs.xsrv.jp/guideline/2022/y_index/bq8/ - Cochrane「乳癌に対するビスホスホネート製剤およびデノスマブ」2025年
https://www.cochrane.org/ja/CD003474/BREASTCA_ru-yan-nidui-surubisuhosuhonetozhi-ji-oyobidenosumabu - 小野薬品工業「大腸がんの治療で使用される薬の副作用」
https://p.ono-oncology.jp/cancers/crc/09/01_sideeffect/01.html - がん情報サイト「がん治療リファレンス」デノスマブなどの骨修飾薬に起因する顎骨壊死
https://www.cancerit.jp/gann-kiji-itiran/nyuugann/post-29222.html - 京都大学「透析患者における骨粗鬆症治療薬の比較研究」2025年1月
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2025-01-08-0 - MSDマニュアル家庭版「化学療法の副作用」
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/14-がん/がんの予防と治療/化学療法の副作用