がん闘病中には、しばしば「関節痛」の症状が起きることがあります。骨や関節が痛むと「骨転移なのか」「骨転移の悪化か」など不安が生じますが、関節痛の原因はそれだけではありません。
判断には医師の診察が必要ですが、この記事では「がん闘病中に起きる関節痛」について、考えられる原因や、医療機関で行われる主な対処法などについて解説します。
※関節痛とは?
関節痛は、関節部の疼痛(とうつう。痛み)のこと。関節の炎症(関節炎、リウマチなど)、退行性疾患(変形性関節症など)、外傷(骨折、脱臼、捻挫など)、がん(骨膜腫、骨転移、白血病など)や骨無病性壊死などによって生じ、腫脹や関節液の貯留を伴うことが多い。
がん患者さんに関節痛が生じる主な原因
がんに関しては「がん病的骨折(転倒や外部からの圧迫で受傷)」を起こすことがあり、緊急的な対応が必要(骨折のため)。
また、化学療法中(抗がん剤などの薬物療法中)には、発熱性好中球減少症(FN)発症による発熱に伴う関節痛が起りえる。この場合は速やかな対応が必要。
がん(腫瘍)による関節痛
・原発性悪性骨腫瘍(骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性リンパ腫、骨髄腫など)。
・転移性悪性骨腫瘍(肺がん、乳がん、腎がん、前立腺がんからは骨転移が起きやすい)。
・軟部肉腫(関節に発症)。
化学療法(抗がん剤など)による関節痛
【薬剤の副作用】
・殺細胞性抗がん薬=パクリタキセル、ドセタキセル、エリブリン、アルブミン懸濁型パクリタキセル(nab-PTX)
・分子標的治療薬=イマチニブ、ボルテゾミブなど
・ホルモン療法薬(アロマターゼ阻害薬)=アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾールなど
・インターフェロン製剤
【発熱性好中球減少症(FN)の発熱に伴う関節痛】
・好中球数500/μL未満または1,000/μL未満で48時間以内に500/μL未満に減少すると予測されている状態で、腋窩温37.5℃以上(口腔温38.0℃以上)の発熱がFNとされる。
その他の原因による関節痛
・G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)製剤の副作用
・持続型G-CSF製剤(ペグフィルグラスチム)は、従来のG-CSF製剤(レノグラスチム、フィルグラスチム、ナルトグラスチム)と比較して関節痛の出現頻度が高い。
基本的な関節痛へ対処
関節痛の原因を評価する
・がんの発現・転移部位、使用薬剤の種類、ADL状況、仕事内容などを確認する。
・がんや化学療法以外に関節痛の原因となる疾患を確認する(例えば変形性関節症、関節リウマチ、骨髄炎などや、関節部の外傷、手術の既往など)
主な治療とケア
・がんによる関節痛は病状の進行を自覚させ、化学療法に伴う関節痛は致死的な副作用ではないが治療継続を妨げる恐れがある。積極的に症状緩和に努めることが求められる。
・疼痛が強い場合は鎮痛薬を用いる。
がん(腫瘍))による関節痛の詳細
なぜ痛みが発生するのか
・悪性骨腫瘍(原発性、転移性)、軟部肉腫などにより、関節を構成する組織が障害され、関節の機能低下や関節液の貯留などによって疼痛が生じる。
・原発性悪性骨腫瘍には、骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性リンパ腫、骨髄腫などがある。
・軟部肉腫は、関節に発症する。
【リスク因子】
・10歳代の男性(骨肉腫、ユーイング肉腫が好発する)
・乳がん、肺がん、腎がん、前立腺がん(骨転移が生じやすい9
主な治療や対応
・疼痛が強い場合は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンおよび、オピオイドなどの鎮痛薬を使用して疼痛コントロールを図る。
・骨病変による疼痛の緩和を目的に、放射線療法を行う場合がある。
・骨病変の進行を抑制するため、ビスホスホネート製剤やデノスマブ(薬剤名:ランマーク)を投与する場合がある。
・病状によっては、松葉杖などの補助具を用いた免荷歩行や、上肢を三角巾で固定するなど患部の安静を保つ必要がある。
・関節や、関節に近い骨に病変があるため、病的骨折のリスクがある。
【注意事項】
・ビスホスホネート製剤やデノスマブの重大な副作用として、顎骨壊死や顎骨骨髄炎がある。
顎骨壊死や顎骨骨髄炎のリスク因子としては、ビスホスホネート製剤やデノスマブ投与が長期間であること、抜歯などの侵襲的な歯科処置、口腔の不衛生、化学療法、放射線療法、がん、糖尿病、副腎皮質ステロイド薬の投与、アルコール摂取、喫煙、高齢者などが挙げられる。
・顎骨壊死や顎骨骨髄炎を発症した場合、局所病変にとどまらず、敗血症を併発し、生命に危険が及ぶ恐れがある。
ビスホスホネート製剤やデノスマブによる治療を行う場合は、歯科部門とも連携して口腔のチェックを行い、患者自身が正しく継続的に口腔ケアを行えるようサポートすることが求められる。
化学療法(抗がん剤などの薬物療法)による関節痛の詳細
なぜ痛みが発生するのか
なぜ痛みが発生するのか、発生機序はメカニズムは明らかになっていないが、関節痛を起こしやすい薬剤についてはほぼ明らかになっている。
【関節痛を生じやすい薬剤】
分類 | 薬の名前 | 発症頻度(全グレード) |
殺細胞性抗がん薬
(微小管阻害薬) |
パクリタキセル(タキソール) | 32.3% |
アルブミン懸濁型パクリタキセル(アブラキサン) | 5~20%未満 | |
ドセタキセル(タキソテール) | 5%未満 | |
エリブリン(ハラヴェン) | 5~30%未満 | |
ビノレルビン(ナベルビン) | 5%未満 | |
分子標的治療薬 | イマチニブ(グリベック) | 1~5%未満 |
ボルテゾミブ(ベルケイド) | 5%未満 | |
インターフェロン製剤 | ペグインターフェロン a-2b(ペグイントロング) | 69.4% |
インターフェロンベータ(フェロン) | 5%以上 | |
ホルモン療法薬 | アナストロゾール(アリミデックス) | 1.07% |
エキセメスタン(アロマシン) | 0.1~5%未満 | |
レトロゾール(フェマーラ) | 2.8% | |
G-CSF製剤 | ペグフィルグラスチム(ジーラスタ) | 14.2% |
フィルグラスチム(グラン) | 1%未満 | |
レノグラスチム(ノイトロジン) | 2%未満 | |
ナルトグラスチム(ノイアップ) | 0.02% |
主な治療や対応
・どの薬剤における関節痛にも、NSAIDsが有効とされている(場合によっては、アセトアミノフェンやオピオイドの使用も検討される)。
・パクリタキセルによる関節痛では、漢方薬やステロイド使用、投与方法の変更を行う場合がある。
・L-グルタミン酸や芍薬甘草湯の有効性が報告されている。
・NSAIDsで効果が得られにくい場合は、少量のステロイドも効果があるとされている。
・「3週に1度投与」のほうが「3週連続毎週投与し1週休薬」よりも関節痛が高頻度に出現するとされる。関節痛が激しい場合、投与方法の変更も選択肢の1つである。
・微小管阻害薬の関節痛には、プレガバリンやガバペンチンも効果があるとされている。
・微小管阻害薬の代表的な副作用である末梢神経障害と関節痛が関連していることが理由とされる。
・アロマターゼ阻害薬による関節痛は、別のアロマターゼ阻害薬かタモキシフェンに変更することで、関節痛が軽減することがある。
・温めると痛みが緩和することがあるので、シャワーだけでなく入浴を勧める。マッサージや適度に動くことも、効果的な場合がある。
・鎮痛薬を使用すれば痛みは軽減するかもしれないが、体動で痛みが増強する場合も考えられる。
・G-CSF製剤は、造血幹細胞移植の準備として、造血幹細胞を末梢血中へ動員する目的でも使用される。
・造血幹細胞の準備時にG-CSF製剤を使用する際は、好中球減少症に対してG-CSF製剤を使用する場合に比べて1回投与量が多くなるため、関節痛・骨痛の出現頻度が高くなる傾向にある。あらかじめ予防的にアセトアミノフェンや NSAIDsを内服する施設もある。
・G-CSF製剤による関節痛・骨痛や発熱には、G-CSF製剤により交感神経刺激を受けた好中球が産生したプロスタグランジンF2が関与しているとされている。