がん闘病中に「背中が痛い」という症状が起きることがあります。背中の痛み=背部痛には様々な要因がありますが、「がんの増悪か?」「転移か?」など不安になることが多いです。
この記事では、がん患者さんが背部痛を訴えるとき、どのような要因が考えられるのか。そして医療機関で受けられる対処法や治療法にどんなものがあるのかを解説します。
※背部痛とは?
背部に痛みを訴える状態を指す。背中の真ん中、左、右などによって原因は異なる場合が多い。
がん(腫瘍)そのものによる背中の痛み
考えられる原因
・腎細胞がん(=腎臓がん。背中の痛みが起りやすいことで知られる。腎臓に発現したがんが急速に増殖すると、腎臓の被膜が伸び、腰背部痛が出現する)
・後腹膜臓器への影響、背部や腹腔神経叢へのがんの浸潤
・実質臓器の病変(膵臓がん、肝臓がんなど)による内臓痛、関連痛
・脊椎への転移による体性痛
・がんの増大に起因する水腎症
【がんの増大に起因する水腎症の知識】
腎盂がん、膀胱がん、尿管がんなどが大きくなり、尿管口を塞ぐと水腎症となる。その結果、尿管・腎盂の拡張や腎臓に圧がかかり、背部痛が起こる。
対応のポイント
「背部痛=筋肉の痛み」と決めつけず、がんをはじめとした疾患の増悪である可能性をふまえて対応することが求められる。
特に腹部大動脈瘤破裂、大動脈解離、急性心筋梗塞、緊張性気胸などでは、緊急対応が必要となるため、痛みの原因を探ることが重要になる。
検査としては静脈性尿路造影、超音波・CTなどが行われる。
【実際に行われる治療など】
・水腎症の場合は程度に応じた治療を実施する(例:経皮的腎瘻、尿管カテーテル留置など)。
・疼痛緩和に努める(WHO方式がん疼痛治療法に沿った薬物療法を行うとともに、非薬物療法も並行して実施することが検討される)
非薬物療法とは、マッサージ、皮膚刺激法(加湿・冷却などで患者の意識を痛みからそらす方法)、心理社会的介入・気分転換法、アロマテラピー、音楽療法など。
【背中の痛みが起りえるがんの部位】
・膵臓がんによる背部痛=膵臓は、後腹膜に位置するため、臓器やその周囲の炎症・後腹膜神経叢へのがん浸潤によって背部痛(しばしば難治性)が生じうる。
後腹膜への浸潤による体性痛や膵壊死に伴う神経破壊による神経障害性疼痛など機序は複雑。夜間に痛み(上腹部~左背部)が増強する傾向にあるため、鎮痛対策をとり、腹壁の緊張がとれる体位(前屈位や座位)を試みると緩和することがある。
・大腸がんによる背部痛=がん浸潤に伴う上部腰仙部神経障害によって背中の痛みが起り得る。
・胃がんによる背部痛=心窩部痛や腹腔神経叢へのがん浸潤に伴う神経障害性疼痛や強い突出痛が出現することにより、痛みをかばうような体位による背部痛が出現する場合もある。
・がん性腹膜炎による背部痛=後腹膜や骨盤腔に存在する神経叢への浸潤による神経障害性疼痛が起こりうる。
その他の要因による背中の痛み
・脊椎疾患(椎間板ヘルニア、椎体すべり症、骨粗鬆症・加齢による圧迫骨折など)
・泌尿器系疾患(腎結石、腎盂腎炎など)
・消化器系疾患(膵炎、胆石、胆管結石など)
・循環器疾患(腹部大動脈解離、大動脈解離、急性心筋梗塞など)
・呼吸器疾患(緊張性気胸など)
・その他(筋膜性疼痛症候群)